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「環境性能評価」が新築マンション価格に及ぼす影響~環境性能が1ランク高いと価格は4.7%上昇

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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1. はじめに
不動産関連の「環境性能評価」は、(I)環境に配慮した不動産および企業の価値向上を目的としたもの(ブランディングツール)と、(II)行政機関への届出等を目的としたものに分類される。
(I)の「環境性能評価」は、個別不動産の環境性能を評価するものと、不動産ファンド等の組織としてのESG取り組みを評価するものに大別される。前者の例としては、「CASBEE」(建築環境総合性能評価システム)や「BELS」(建築物省エネルギー性能表示制度)などが、後者の例としては「GRESB」などが挙げられる(図表-1)。「CASBEE」は、景観への配慮や省資源などの環境負荷削減等、総合的な環境性能の認証であるのに対して、「BELS」は、省エネルギー性能に特化した認証である。
これらの「環境性能評価」は、ブランディングツールとして利用され、中立性を求められることから、第3者による認証となっている。「環境認証」を取得する不動産ファンドや不動産会社は増加しており、J-REIT保有物件に占める「CASBEE‐不動産」認証物件の割合は、オフィスで18%、物流施設で23%、商業施設で14%を占めている(2021年10月時点)。
一般の住宅購入予定者においても、住宅の環境性能や省エネ性能等に関する関心が高まっている。一部の自治体では、新築マンションの広告時に「環境性能評価」の表示を義務付ける取組みを行っている(詳細は後述)。
こうした背景から、不動産市場を把握する上でも、「環境性能評価」が不動産取引に与える影響を把握することは重要だと思われる。以下では、大阪市の「自治体版CASBEE」を対象に、「環境性能評価」が新築マンション価格にどのような影響を及ぼしているのか分析を行った。
2. 「環境性能評価」が新築マンション価格に及ぼす影響
本項では、「環境性能評価」に関する情報が、新築マンション価格に及ぼす影響について分析を行う。新築マンションの購入検討者が、「環境性能評価」に関する情報を考慮していれば、高い環境性能を有するマンションの価格は高くなると考えられる。
(1)「CASBEE大阪みらい」
「環境性能評価」のデータについては,「大阪市建築物総合環境評価制度(CASBEE大阪みらい)1」に基づく公開情報を採用した。
大阪市では、延床面積2,000m2以上の建築物の新築・増築・改築を行う場合、建築主が大阪市の定める総合的な「環境評価」を確認し、建築物環境計画書を提出するよう義務付けている。この「環境評価」は、「CASBEE」の考え方をベースとして、地域性等を考慮した評価基準(自治体版CASBEE)に基づいて実施する。
「CASBEE」は、建物を環境性能で評価し、格付けする手法である。具体的には、「Q:環境品質」と「L:外部への環境負荷」の2つの側面から、「建築物の環境効率」を計算し、環境性能を評価する(図表-3)。
「Q:環境品質」では、大きく「Q1 室内環境(例:室温・換気などの室内環境)」、「Q2 サービス性能(例:建築の耐久性や耐震性)、「Q3 室外環境(例:敷地内の緑化)」の3項目に関して評価する。
また、「L:外部への環境負荷」では、 「L1 エネルギー(例:照明等の省エネ対策)」、「L2 資源・マテリアル(例:節水対策)」、「L3 敷地外環境(例:CO2排出削減の取組)」の3項目に関して評価する(図表-3)。
「自治体版CASBEE」では、地域性や政策等を勘案して、評価項目間の重みづけや評価の基準等について変更を行い、重点項目のウェイトを高める等の調整を行っている。
1 建築物の新築および改修等の際に、建築主が、大阪市の定めた基準に従って建築物の総合的な環境評価を行い、その計画概要を大阪市のホームページ等で広く市民に公表する制度。
大阪市は、住宅購入予定者が検討の際に参考にできるよう、「建築物環境計画書」を提出した新築マンションを対象に、その結果について広告2などで表示するよう義務付けている(「建築物環境性能表示制度」)。こうした広告表示は、11の地方自治体で義務表示、2つの自治体で任意表示となっている(図表-5)。
「大阪市建築物性能表示」では、環境性能の「総合評価」を星印の数(5段階)で表示する(図表-6)。前述の「BEE 値」を基にしたランク「S ランク」が星5つ、「C ランク」が星1つとなる。
また、大阪市は独自の取り組みとして、(1) 「CO2削減」、 (2) 「みどり・ヒートアイランド対策」、(3) 「建物の断熱性」、(4) 「エネルギー削減」の性能について評価している3。(1) 「CO2削減」は、前述のCASBEE評価の小項目「L3 地球温暖化への配慮」を参考に評価する(図表-3)。同様に、(2) 「みどり・ヒートアイランド対策」は「Q3生物環境の保全と創出」、「Q3地域性・アメニティの考慮」、「L3地域環境への配慮」を、(3) 「建物の断熱性」は「L1建物外皮の熱負荷制御」を、(4) 「エネルギー削減」は、「L1設備システムの高効率化」を参考に評価する。
各項目における評価結果は,「総合評価」と同様に、星印の数(5段階)で表示し、標準が星3つとなる。
2 (1)新聞、雑誌などに掲載される広告、(2)新聞の折り込みその他の方法により配布されるチラシ、掲出されるビラ、パンフレット、小冊子など、(3)インターネットの利用による広告、(4)DVD、CDなどの電子的な方法により行う広告
3 2017年までは、(1) 「CO2削減」, (2) 「みどり・ヒートアイランド対策」, (3) 「省エネ対策」について評価。
分析の結果、BEE値が1ポイント高い場合、新築マンション価格は約8.2%高いことが示唆された(図表-11)。これは、先行研究の結果(1ポイント高い場合、価格は約5.5%高い)に近い水準である。また、各評価項目に関して、統計的に有意な影響を与えている項目は、「Q2サービス性能」、「Q3 室外環境(敷地内)」、「L1エネルギー」の3つであった。なお、先行研究では統計的に有意な影響を与えている項目は、「L1エネルギー」のみであった。
エネルギー性能の高いマンションは、水光熱費の削減等が期待でき、購入者にとってもメリットを理解し易いため、価格にプラスの影響を及ぼしていると考えられる。また、建築の耐久性や耐震性等(Q2 サービス性能)や、敷地内の緑化等(Q3 室外環境)についても、マンション価格に影響を及ぼしていることが示唆された。
4 高田秀之・吉田好邦・川久保俊、山口歩太(2020)「環境性能が集合住宅の販売価格及び中古取引価格に与える影響:CASBEE横浜の評価結果を用いた実証分析」『日本建築学会環境系論文集』第85巻第767号, 89-95
3. おわりに
今後は不動産取引において「環境性能」に関する情報の重要性が高まり、マンション価格に及ぼす影響が大きくなる可能性がある。引き続き、環境政策の動向や各社の取り組み方針などを注視したい。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年11月11日「不動産投資レポート」)

03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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