コラム
2011年07月20日

J-REITに広がるグリーン・ビルディング認証~新たな成長サイクル形成への期待~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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7月より大口需要家を対象にピーク時の電力使用量15%削減を義務付ける電力使用制限令が発動され、首都圏のオフィスビルでも「節電の夏」真っ盛りである。資源エネルギー庁によると、オフィスビルにおける電力消費(ピーク時)のうち、空調が48%、照明が24%、OA機器が16%を占めており、これらの節電対策が効果的だとしている。削減義務を負うビルオーナーはテナント企業の協力のもと、室内照度の見直しや冷房温度28℃の徹底など、今夏の電力不足克服に向けて文字通り額に汗して節電に取り組んでいるが、同時に、業務能率を落とさない快適な執務環境への目配りが欠かせない。電力の供給不安が全国に広がり長期化するとの見通しが強まる中、震災を期にニーズの高まった耐震性能や非常用電源確保とともに、省エネ性能がテナントのビル選定基準に加わることが予想され、ビル事業者であるJ-REIT(不動産投資信託)にとっても、資産価値を毀損しないオフィスビルの省エネルギー投資が重要な運営課題となる。

こうした中、日本政策投資銀行(DBJ)は、環境性能に加えて防災・防犯、テナントの快適性・利便性、周辺環境との調和、環境IR活動に優れたオフィスビルを、独自のスコアリングモデルにより4段階評価で認証する「DBJグリーン・ビルディング認証制度」を開始した。オフィスビルの環境性能情報については、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)の認証制度、東京都建築物環境計画書などで確認できるものの、高性能が当たり前となっている最近の大型ビルが中心であり、既存物件の環境性能に関する第三者によるラベル開示は、実質初の試みといえる。

これまでの認証件数は11棟で、J-REITではケネディクス不動産投資法人が3棟、福岡リート投資法人が2棟認証を受けている。DBJは、2008年10月のリーマン・ショックで生じたJ-REIT市場の信用収縮に対応して資金繰りを支援し、セーフティネット機能の一部を担うなど豊富な融資実績を有しており、今後J-REITを対象としたグリーン・ビルディング認証の増加が期待できそうだ。また、ビルスペックのハード面にとどまらず運用面を含めて包括的に評価する今回の認証制度は、ポートフォリオの不動産価値と運用会社のマネジメント力をJ-REITの評価軸とするエクイティ投資家にとって親和性が高く、投資の参考指標に活用できると思われる。

ただし、グリーン評価の「見える化」が浸透することで投資家評価が高まり、J-REIT市場の新たな成長サイクル形成につながる好循環をより確かなものとするには、市場共通の省エネ対策の指針策定や、省エネ改修効果の検証に向けたCO2排出量やエネルギー消費量の開示など、業界一体での自助努力が求められる。J-REIT市場が環境不動産の運用ノウハウを蓄積しベストプラクティスの情報提供を進めることで、不動産市場における環境配慮・省エネルギー対策の先導役になることを期待したい。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

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