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変動金利型と固定金利型のどちらの住宅ローンを選択すべきか-市場動向から最適な住宅ローンの借入戦略について考える
金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
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3――変動金利型と固定金利型のどちらを選択すべきか
まずは、変動金利型と固定金利型のメリットとデメリットについて整理する(図表8)。取組時は変動金利型の方が固定金利型よりも適用金利が低い。そのため、取組時の返済額(元本返済+利息支払)で比較すると、変動金利型が固定金利型よりも小さくなる一方で、元本返済額のみを比較すると、変動金利型の方が固定金利型よりも大きくなる。また、変動金利型は10年国債利回りなどの市場金利が変動すると適用金利も変動するが、固定金利型は変動しない。よって、将来に金利が上昇すると、変動金利型の適用金利が取組時の固定金利型よりも高い水準になるリスクがある。また、固定金利型はローンの完済までの返済額が確定するので、将来の資金計画を立てやすいという利点もある。
変動金利型を取り組むべきか、固定金利型を取り組むべきかという悩みの根本的なところは、「将来に金利上昇が生じるのか否か、金利上昇が生じたとしてもうまく乗り越えられるのか」という点にあると思われる。仮に完済するまで金利上昇が起きないとするならば、返済額が変動して将来の資金計画が立てにくいとする問題点があったとしても、固定金利型の返済額よりも小さいのであれば、変動金利型で借り入れるメリットの方が大きいだろう。一方で、金利上昇がすぐさま生じてしまうと、変動金利型で借り入れるメリットがなくなり、固定金利型で借り入れた方が返済の負担が小さかったという事態になりかねない。
このような根本的な悩みに対して、住宅ローンを検討する際に「金利上昇局面になってから固定金利型で借りればよい」と考える個人もいるかもしれない。しかしながら、本稿では、次の3つの観点で「金利上昇局面になってから固定金利型に契約変更する(または、借り換える)」という選択は推奨しない。1つ目の理由は、「一般的に金利上昇する際は変動金利型よりも固定金利型の方が早く適用金利が上昇するため」である。住宅ローンの適用金利は金融市場の動向に応じて各金融機関が決定するが、変動金利型よりも固定金利型の方がより長期の金利水準を参照して決定されるのが通例である。
一般的に日本のように中央銀行が金融緩和政策下にある場合、中央銀行は短期金利が低位に誘導するような政策をとっている。その最中に経済成長率やインフレ期待が高まり景気回復局面に移行すると、短期よりも長期の金利から上昇していくことになる。日本では10年金利を低位に誘導するような政策をとられているが、景気回復局面になれば20年や30年の金利から上昇し始めることが予想される。そのため、長期の金利を参照する固定金利型の住宅ローンの適用金利の方が早く上昇していくことになる。そのため、変動金利型の住宅ローンの適用金利が上昇してから固定金利型の住宅ローンに契約変更、または借り換えたとしても固定金利型のメリットを十分に享受するのは難しい。
2つ目の理由は「将来の金利上昇を予測するのは難しいため」である。先述したように、日本は長期の低金利環境下にあるが、その要因は経済成長率やインフレ期待が低位であるだけではなく、日本銀行による強力かつ様々な金融緩和策によるところも大きい。このような背景もあって、日本の市場金利の水準が決定するメカニズムは非常に複雑なものになっている。さらに、海外の事例を見ると、中央銀行の政策変更(金融緩和解除や金融引き締めへの移行)があると、短期間で金利上昇が生じることもある。変動金利型から固定金利型への契約変更や借り換えを検討するのであれば、金利動向や日本銀行の政策動向について日々モニタリングしておく必要がある。一般の個人がこのような態勢を整えつつ、機動的に契約変更や借り換えを行うのは、あまり現実的な選択肢になりえないと思われる。
3つ目の理由として「住宅ローンの債務者は金利リスクをヘッジする手段に乏しいため」が挙げられる。2つ目の理由として将来の金利上昇を予測するのが難しい点に言及したが、住宅ローンを提供する金融機関はデリバティブ(例:金利スワップや国債先物など)等の金融商品を用いて金利リスクをヘッジすることはいくらか可能であるが、一般的に住宅ローン債務者が金利リスクをヘッジできる金融商品を購入・選択するのは困難である。そのため、住宅ローン債務者がとりえるリスクヘッジの手段として、将来の環境変化や損失に備えて預貯金などでリスクバッファを確保しておくくらいしか選択肢がない。
前項では、金利上昇が生じた際に変動金利型から固定金利型へ機動的に契約変更する(または借り換え)のが難しい点と、住宅ローン債務者によって金利リスクを管理する方法が限られる点に言及した。これらの条件を前提のものとして、これから住宅ローンの借入や借り換えを検討している人がどのような戦略をとりえるのかについて考えてみたい。
1つ目の戦略は「ミックスローン」(変動金利型と固定金利型の組合せ)の選択である。金融理論では、相反するリスクをもつ金融商品をポートフォリオに組み入れると分散効果が働くことが知られている。図表8でも示したように、元利均等返済で住宅ローンを取り組む前提だと、変動金利型と固定金利型のメリットとデメリットは相反したものになっている。このような相反関係にある金融商品は金融理論の観点から「組み合わせた方がよい」という答えが導かれる。どのような割合で取り組めばいいのかは、住宅ローンを借り入れる個人のリスク許容度に依存する。つまり、変動金利型で取組時の固定金利型を超えるような金利上昇が生じても、住宅ローンの返済が問題なく行える程度に収入があり、金融資産も十分に保有しているのであれば、変動金利型の割合を大きくしても問題はない。一方で、変動金利型で固定金利型を超えるような金利上昇が生じた際に、住宅ローンの返済が困難になるようなギリギリの収入水準や金融資産なのであれば、当初より返済額は大きくなるが固定金利型の割合を大きくした方がよい。
2つ目の戦略は預貯金などの金融資産でリスクバッファを確保しながら変動金利型住宅ローンを借り入れる方法である。低金利環境が今後も長く継続すると期待できるのであれば、相対的に低利の変動金利型住宅ローンを借り入れ、毎月の返済額を抑制しながら借入残高を減らしつつ、余裕が生じた分をリスクバッファとして預貯金などに回すという発想である。預貯金などのリスクバッファをもつことで金利上昇が生じた際の返済額の増加に対処することができるだけでなく、繰り上げ返済を行うための原資として用いることもできる。繰り上げ返済を行えば、金利上昇が生じても将来の利息支払いの負担がある程度抑制できる。さらに預貯金などでリスクバッファを確保しておくと、教育資金などで急な出費が必要になる際の資金に充てることもできる。
住宅ローンの取組時の金融資産の規模が大きくない場合、毎月の住宅ローンの返済額の一定割合を預貯金に回すことができるのが理想的である。このような対応を意識的に行うのが難しい場合、例えば、積立預金・貯金や積立定期預金・貯金のような自動的・定期的に預け入れるようなサービスを活用する方法がある。相対的に利回りの高い積立定期預金・貯金は原則満期までの継続が求められるが、相対的に利回りの低い積立預金・貯金であれば手数料なしに途中で解約できることが多い。勤務先で財形貯蓄4が利用できるのであれば、目的を問わずに自由に一部引き出しや解約が可能な一般財形貯蓄を活用するという選択肢もある。
また、金融資産の規模に余裕があれば、元本保証のある積立預金・貯金や一般財形貯蓄ではなく、積立投信などの定額・定期の運用商品・サービスで積み立てるという考え方もあるかもしれない。つみたてNISAであれば、税制優遇制度を活用することもできる。但し、このような運用商品・サービスを活用する場合、基本的に元本保証がない点に注意する必要がある。さらに、分散投資や長期投資を行うことで価格変動リスクを抑制していく必要があるだけでなく、変動金利型住宅ローンの金利リスクに対するバッファ効果が期待できる運用商品を選択した方がよいという意味で、それなりに金融リテラシーが求められるものと思われる。
これらの金融サービスと合わせて住宅ローンに申し込むと、適用金利をいくらか引き下げるような対応をしている金融機関があるので、目的に合うのであれば、検討してみる価値があるだろう。
4 一般財形貯蓄以外にも、財形貯蓄には財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄があるが、これらは一部引き出しや解約に制限があるため、将来の金利上昇への備えとしての活用という意味で一般財形貯蓄に劣後するものと思われる。
4――リスクバッファ付き変動金利型住宅ローンの効果検証
前項では、変動金利型住宅ローンを借り入れる際にとりうる対応策として2つの方法を紹介した。このような金利市場の状況から、しばらく「金利上昇はない」との判断で変動金利型住宅ローンを借り入れるのは自然な発想のように思われる。しかしながら、日本の経済成長率やインフレ期待が改善し、それに応じて日本銀行が金融政策を縮小または解除すれば、金利上昇はまず間違いなく生じることになる。図表3で示したように、1999年のゼロ金利政策導入後の日本国債10年利回りの推移を確認すると、0~2%の範囲にある。35年等の長い期間で変動金利型住宅ローンを借り入れると、1~2%程度の適用金利の上昇がいずれ生じる可能性は否定できない。
前項では、金利上昇を事前に予想するのは難しいという前提のもとで、対応策を2つ紹介した。2つ目のリスクバッファを持つという対応策について、具体的にその効果について検証してみたい。
まずは、2021年6月時点の首都圏の新築・中古の住宅価格5から、不動産価格分をすべて住宅ローン(元利均等型)で賄うものとして毎月の返済額を計算した結果を確認する(図表9)。計算にあたって、新築・中古かに限らず、戸建は22年、マンションは35年に借入期間を設定し6、適用金利に変動金利型は0.4%、固定金利型(全期間)は1.2%を用いた7。
以降、首都圏で6,200万円の新築マンションを購入する(Case 2)際に、不動産価格分をすべて元利均等返済型の変動金利型住宅ローン(取組時の適用金利:0.4%)の借り入れで賄う場合について、シナリオ分析を行っていく。変動金利型住宅ローンの適用金利が0.4%(一定)で推移し、0年後、5年後、10年後、15年後、20年後、25年後、30年後のどこかで1%、2%または3%の金利上昇が生じた(上昇後は一定で推移)と仮定して、金利上昇後の毎月の返済額を計算する8。
図表10はこの仮定に基づいて、金利上昇後の毎月の返済額を計算したものである。変動金利型住宅ローンで借り入れると、固定金利型住宅ローンよりも早く住宅ローン残高が減る。そのため、変動金利型の適用金利の上昇幅が1%程度であれば、取組時の固定金利型の適用金利(1.2%)よりも上昇したとしても、金利上昇の生じる時期が10年目以降であれば、変動金利型で借り入れた方が毎月の返済額は小さくなる。
先述したように、変動金利型で借り入れた場合と固定金利型で借り入れた場合で毎月の返済額が2万2,637万円の差がある。この差額を預貯金で毎月積み立てていき、繰り上げ返済の原資として用いる(図表11)。繰り上げ返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つの方法があるが、固定金利型住宅ローンとの比較を返済額で行うため、借入期間を変更しない「返済額軽減型」を採用した9。
固定金利型住宅ローンで借り入れた場合、毎月の返済額は18万855円だが、適用金利が1%程度の上昇であれば、5年後に金利上昇が生じても変動金利型住宅ローンの方が毎月の返済額が小さくなることが分かる。このまま低金利環境がこの先5年以降継続して、金利上昇幅も1%程度に収まるのであれば、固定金利型住宅ローンで借り入れた気持ちになって変動金利型住宅ローンで借り入れ、返済額の差額を繰り上げ返済の原資として預貯金で積み立てていくのは、それなりに合理性のある判断だということになる。
5 住友不動産販売HPの「三大都市圏新築中古一戸建て市場動向」「新築中古マンション市場動向」を参考にした。
6 住宅ローン借り入れで設定される一般的な最長期間(35年)と法定耐用年数(木造戸建:22年、鉄骨鉄筋コンクリートまたは鉄筋コンクリートのマンション:47年)を比較して短い方を採用した。
7 実際に住宅ローンを金融機関に申し込む際には、申込者の属性や個々の不動産の状況なども考慮され、個別に融資額、借入期間や適用金利等の借入条件が決定されるため、必ずしも画一的なものではない点に注意されたい。
8 変動金利型住宅ローンの中には、適用金利が上昇した際の返済額の増加幅が一定の範囲に収まるような条件が付されているものがある。その場合、返済額の増加は緩やかだが、徐々に計算した返済額に近づいていくことになる。
9 金利上昇が生じても毎月の返済に余裕があるのであれば、基本的に借入期間を短期化する「期間短縮型」で繰り上げ返済した方が利息支払いの負担を軽減する効果は大きい。
5――まとめ
変動金利型住宅ローンは、返済額が相対的に小さくなるだけでなく、住宅ローン残高の減少も早い。現状の住宅市場の状況から考えると、変動金利型住宅ローンを選好する個人が増えるのは理解できる。一方で、もしかすると訪れるかもしれない将来の金利上昇に個人が備えることのできる手段は限られているが、本稿で提案したようなミックスローンや預貯金等での積立も組み合わせて対応していくことが望ましいだろう。本稿の分析が、住宅ローンを借り入れる個人の家計管理に寄与できるのであれば幸いである。
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03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
(2021年11月08日「基礎研レポート」)
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