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変動金利型と固定金利型のどちらの住宅ローンを選択すべきか-市場動向から最適な住宅ローンの借入戦略について考える
金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
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1――増加傾向にある個人の住宅ローン借入残高
1990年以降、円金利は低下の一途をたどっている。住宅ローン適用金利など、様々な金利との関連性の高いと指摘される金利指標の10年国債利回りはゼロ金利政策が導入された1999年以降、1~2%のレンジで推移していたが、特に物価の安定目標(消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比2%増の実現)が設定され異次元金融緩和が導入された2013年以降は1%割れが常態化している(図表3)。また、2016年に10年国債利回りをゼロ%近辺で推移させることを目指すイールドカーブコントロールが導入されて以降、実際に10年国債利回りがゼロ%前後を推移する状況が5年間継続している(2021年10月末現在)。通常、金利水準はその国の経済成長率やインフレ率等のファンダメンタルズに対する市場参加者の将来期待に基づいて形成されるものだが、これらが低水準であるのに加えて、日本の低金利環境を説明する上で、日本銀行による金融政策の影響が大きく、無視できなくなっている。
住宅ローン減税制度とは、住宅ローンを借り入れて住宅を購入する際に、購入者の金利負担の軽減を図るためのものである。具体的には、毎年末の住宅ローン残高か住宅の取得価額のうちのいずれか小さい方の金額の1%が10年間にわたり所得税から控除される(2019年の消費税率の引き上げに合わせて控除期間が13年間に拡充)。所得税から控除しきれない場合は住民税からも一部控除される。住宅ローンの適用金利が1%未満であれば、住宅ローン返済額における利息支払額よりも所得控除額が大きくなる(債務者から見て順ざや)。前項で紹介したように変動金利型や固定金利型10年で借り入れると、適用金利が1%未満で取り組むことができる市場環境にあるため、住宅ローン減税の順ざやのメリットを享受することが可能になっている。
それゆえ、当初10年間の総計で一般住宅は400万円(11~13年目は80万円)、長期優良・低炭素住宅は500万円(11~13年目は100万円)の上限があるが、適用金利が1%未満である限りにおいて、住宅ローンをある程度借り入れた方が経済的なメリットが大きくなる。控除額の上限額を考慮に入れると、少なくとも13年目まで一般住宅の場合は4,000万円、長期優良・低炭素住宅の場合は5,000万円の借入残高があるように住宅ローンを借り入れると、当該制度による所得控除のメリットが最も大きくなる。
住宅ローンの借入額が大きくなると、それだけ毎月の住宅ローン返済額の負担は大きくなる。しかし、住宅ローン減税は住宅ローンの借り入れる個人単位で申請することができるため、月々の住宅ローンの返済額に対してある程度余裕のある収入水準にあれば、共働きの夫婦で住宅ローンを借り入れる(ペアローン)などして、さらに世帯単位で所得控除額を大きくすることも可能である1。
1 節税メリットが大きくなる一方で、融資手数料などの諸費用は大きくなる点に留意する必要がある。
2――住宅ローン市場の動向
図表1によると、中長期的に住宅金融支援機構のマーケットシェアが縮小している一方で、国内銀行のマーケットシェアが拡大していることが分かる。住宅金融支援機構は固定金利型の住宅ローン商品を販売している一方で、国内銀行は固定金利型だけではなく変動金利型の住宅ローン商品も販売している。
住宅金融支援機構の調査によると、新規貸出における変動金利型住宅ローンの割合が徐々に拡大しており、2019年度は75%を占めている(図表5)。先述したように、低金利環境が長期化している中で、相対的に取組時の適用金利の水準が低い変動金利型で借り入れ、住宅ローン減税の経済的なメリットも享受しながら、毎月の返済額を抑制する個人が増えているものとみられる。
住宅金融支援機構の調査によると、個人の住宅ローンの借入期間が長期化している。2016年から2019年にかけて、約定貸出期間は25.6年から27.0年に、完済するまでにかかる期間も15.0年から16.0年に長期化している。長らく賃金が横ばいで推移する中で、特に新築・中古ともにマンション価格は上昇しており、これらの住宅を購入する際に個人は相対的に適用金利の低い変動金利型住宅ローンを選択するだけではなく、借入期間も長期化することで毎月の住宅ローンの返済額を抑制しているものとみられる。
図表7は各金融機関のディスクロージャー等の公表数値から住宅ローンを集計し、業態別の残高シェアを計算したものである。業態別の住宅ローン残高シェアの推移を見ると、シェアを伸ばしている業態とそうでない業態があることが分かる。個別の金融機関で比較すると都市銀行や一部の信託銀行の残高シェアが大きく、基本的には金融機関の規模と住宅ローン残高シェアと関連している。2014年度以降の推移を見ると、信託銀行(6%→7%)、地方銀行(36%→40%)とその他の銀行(3%→6%)はシェアを伸ばしているが、都市銀行(36%→28%)や信用金庫(11%→10%)はシェアを落としている。特にその他の銀行では流通系やインターネット専業銀行等の新たに参入した銀行(以降、「新規参入銀行」と呼ぶ)のシェアが高まっている。都市銀行は海外での貸出や運用を強化して収益力の向上を図る方向にあるが、一部の信託銀行、地方銀行や新規参入銀行は住宅ローンからの利ざやの獲得や手数料収入を重視しているものとみられる。一方で、低金利環境が長期化していることで、これらの一部の信託銀行、地方銀行と新規参入銀行で住宅ローンの獲得競争が過熱しており、適用金利のさらなる低下につながっているものと考えられる。
基本的に金融機関から住宅ローンを借り入れる際に団信への加入を求められるが、追加コストなし2に最低限の保障(死亡や高度障害状態になると住宅ローンが完済され残債がゼロになる)を受けられる団信を選択できることが多い。さらに充実した団信(がん・脳卒中・急性心筋梗塞になると住宅ローンの残債がゼロになる等)に加入する場合は、金利の上乗せなどの追加的なコストの支払いが求められるのが通例である。
低金利環境下にあって住宅ローン販売競争が激化しており、さらに住宅ローン減税で順ざやによる経済メリットも獲得できる中で、保障内容の充実した団体信用生命保険(団信)を取り組む人が増えている。例えば、ソニー銀行のプレスリリース3によると、ソニー銀行で2020年度に住宅ローンを利用した人の利用動向をみると、金利上乗せのある保障の手厚い団信に加入する人が増えているとのことである。住宅ローンの適用金利が低水準にあることで、一部の個人はトータルコストで団信を選択するようになっている。
2 この場合、住宅ローンを借り入れる先の金融機関が団体信用生命保険の保険料を負担する
3 「住宅ローンのお客さまのご利用動向に関するお知らせ」(ソニー銀行、2021年6月4日)
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03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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