2021年11月08日

変動金利型と固定金利型のどちらの住宅ローンを選択すべきか-市場動向から最適な住宅ローンの借入戦略について考える

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹

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1――増加傾向にある個人の住宅ローン借入残高

住宅金融支援機構の「業態別の住宅ローン新規貸出額及び貸出残高の推移」によると、個人の住宅ローン借入残高は2021年3月末時点で約207兆円に達した(図表1)。期末ごとにみると、2010年3月末に約175兆円にまで一時減少したが、それ以降は緩やかな上昇基調になっている。
図表1:業態別の住宅ローン貸出残高の推移(兆円)
図表2は、日本銀行による「主要銀行貸出動向アンケート調査」の個人向け住宅ローンに関する資金需要判断D.I.(プラス幅が大きくなると、個人向けの住宅ローンに関する資金需要が増えていることを意味する)と資金運営スタンスD.I.(プラス幅が大きくなると、金融機関が貸出を積極化させていることを意味する)の推移を示したものである。個人向け住宅ローンに関する資金需要判断D.I.を確認すると、直近はプラスの値で推移している。金融機関は、今後もしばらく個人の住宅購入意欲が旺盛で、個人向け住宅ローンへの需要が継続すると予想している。一方で、貸出運営スタンスD.I.を見ると中長期的に低下傾向にある中でゼロ近辺を推移しており、金融機関は個人の住宅ローンの借入に対して、徐々に慎重になりつつある状況が垣間見られる。後述するが、住宅ローン金利の利ざやが縮小しており、コストリターンの観点で住宅ローン販売に積極的でない金融機関が出てきている。
図表2:資金需要判断D.I.(個人向け住宅ローン)と貸出運営スタンスD.I.(個人向け)の推移
個人の住宅ローン借入残高が上昇基調にある要因として、低金利環境の長期化、住宅ローン減税の順ざや、マンション価格の上昇の3つが挙げられる。
1低金利環境の長期化
1990年以降、円金利は低下の一途をたどっている。住宅ローン適用金利など、様々な金利との関連性の高いと指摘される金利指標の10年国債利回りはゼロ金利政策が導入された1999年以降、1~2%のレンジで推移していたが、特に物価の安定目標(消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比2%増の実現)が設定され異次元金融緩和が導入された2013年以降は1%割れが常態化している(図表3)。また、2016年に10年国債利回りをゼロ%近辺で推移させることを目指すイールドカーブコントロールが導入されて以降、実際に10年国債利回りがゼロ%前後を推移する状況が5年間継続している(2021年10月末現在)。通常、金利水準はその国の経済成長率やインフレ率等のファンダメンタルズに対する市場参加者の将来期待に基づいて形成されるものだが、これらが低水準であるのに加えて、日本の低金利環境を説明する上で、日本銀行による金融政策の影響が大きく、無視できなくなっている。
図表3:10年国債利回りの推移(1986年7月~2021年10月)
このような低金利環境が長期化する中で、住宅金融支援機構によると、民間金融機関が設定する住宅ローンの店頭金利は、固定金利期間選択型(10年)で3.25%(年率)、変動金利型で2.475%となっている(2021年10月時点)。これらの店頭金利の水準は1990年代より横ばいで推移している。店頭金利とは住宅ローンの基準となる金利で、プライムレート(大企業向けの優遇貸出金利)を参考に決定されていると言われている。店頭金利の水準だけを見ると、低金利環境の影響は見られないように思われる。しかしながら、実際に住宅ローンの借り入れにおいて返済額の計算に用いられる金利(適用金利)は、住宅ローンの借り手の属性や購入予定の不動産の状況、他の金融機関等が提供する住宅ローンの金利水準などを参考に、店頭金利よりも引き下げられた水準で決定されるのが一般的である。低金利環境の長期化は店頭金利ではなく、引き下げ後の適用金利の水準の決定に影響を与えている。民間金融機関における2021年10月時点の適用金利の水準を調べてみると、全期間固定型(借入期間21~35年)で1.2%、固定金利型10年で0.5%、変動金利型で0.4%くらいの水準で適用金利が決定されることが多いようである。適用利率が低くなると、住宅ローン返済における利息総額が減るため、相対的に住宅ローンを借り入れて住宅購入を行うインセンティブが高まることになる。
2住宅ローン減税の順ざや
住宅ローン減税制度とは、住宅ローンを借り入れて住宅を購入する際に、購入者の金利負担の軽減を図るためのものである。具体的には、毎年末の住宅ローン残高か住宅の取得価額のうちのいずれか小さい方の金額の1%が10年間にわたり所得税から控除される(2019年の消費税率の引き上げに合わせて控除期間が13年間に拡充)。所得税から控除しきれない場合は住民税からも一部控除される。住宅ローンの適用金利が1%未満であれば、住宅ローン返済額における利息支払額よりも所得控除額が大きくなる(債務者から見て順ざや)。前項で紹介したように変動金利型や固定金利型10年で借り入れると、適用金利が1%未満で取り組むことができる市場環境にあるため、住宅ローン減税の順ざやのメリットを享受することが可能になっている。

それゆえ、当初10年間の総計で一般住宅は400万円(11~13年目は80万円)、長期優良・低炭素住宅は500万円(11~13年目は100万円)の上限があるが、適用金利が1%未満である限りにおいて、住宅ローンをある程度借り入れた方が経済的なメリットが大きくなる。控除額の上限額を考慮に入れると、少なくとも13年目まで一般住宅の場合は4,000万円、長期優良・低炭素住宅の場合は5,000万円の借入残高があるように住宅ローンを借り入れると、当該制度による所得控除のメリットが最も大きくなる。

住宅ローンの借入額が大きくなると、それだけ毎月の住宅ローン返済額の負担は大きくなる。しかし、住宅ローン減税は住宅ローンの借り入れる個人単位で申請することができるため、月々の住宅ローンの返済額に対してある程度余裕のある収入水準にあれば、共働きの夫婦で住宅ローンを借り入れる(ペアローン)などして、さらに世帯単位で所得控除額を大きくすることも可能である1
 
1 節税メリットが大きくなる一方で、融資手数料などの諸費用は大きくなる点に留意する必要がある。
3マンション価格の上昇
国土交通省が公表している不動産価格指数によると、2010年の平均値を100としたとき、2021年6月末の日本全国の指数値(季節調整値)は、戸建住宅で105.9、マンション(区分所有)で165.8となっている。時系列データを見ると、戸建住宅の価格が横ばいで推移する一方で、マンション(区分所有)の価格が右肩上がりで上昇してきたことが分かる(図表4)。物件価格が上昇すると、物件当たりの住宅ローンの借入額もそれに応じて大きくなると考えられる。
図表4:不動産価格指数の推移(日本全国、季節調整済み)
一般的に、マンション価格が上昇してきた背景として指摘されているのは、先述した低金利環境の長期化や住宅ローン減税の順ざやだけではなく、公示地価の上昇、東京オリンピック・パラリンピックの開催準備に起因した建設業界の人手不足や建設資材価格の上昇なども指摘されている。特にマンションは多くの人が入居するため、利便性の高い土地に建てられることが多い。多くの人が入居すれば、またその周辺の利便性が向上するといった相乗効果も見込まれるだろう。そのため、一戸建てよりもマンション価格の上昇基調が継続しやすいと言えるのかもしれない。

2――住宅ローン市場の動向

2――住宅ローン市場の動向

1変動金利型住宅ローンのシェアが拡大
図表1によると、中長期的に住宅金融支援機構のマーケットシェアが縮小している一方で、国内銀行のマーケットシェアが拡大していることが分かる。住宅金融支援機構は固定金利型の住宅ローン商品を販売している一方で、国内銀行は固定金利型だけではなく変動金利型の住宅ローン商品も販売している。

住宅金融支援機構の調査によると、新規貸出における変動金利型住宅ローンの割合が徐々に拡大しており、2019年度は75%を占めている(図表5)。先述したように、低金利環境が長期化している中で、相対的に取組時の適用金利の水準が低い変動金利型で借り入れ、住宅ローン減税の経済的なメリットも享受しながら、毎月の返済額を抑制する個人が増えているものとみられる。
図表5:住宅ローンの新規貸出金利タイプ別構成比(金額加重平均)の推移
図表6は業態別の住宅ローンの新規貸出における金利タイプ別の構成比を示したものである。業態に関係なく国内銀行が販売する変動金利型住宅ローンの新規取組が伸びていることが分かる。つまり、家計の住宅ローン残高の伸びは、国内銀行による変動金利型住宅ローン販売の拡大が大きく寄与している。但し、2019年度の都銀・信託が提供する変動金利型住宅ローンの新規取組が9割程度になっている一方で、信用組合では3割程度にとどまるなど業態別にみると住宅ローンの選択に違いがある。この点は、都銀は都市部に営業基盤を持つ、信託銀行は富裕層を多く顧客に持つ一方で、信用金庫や信用組合は中小企業の経営者やその従業員がメインの顧客層になるなど、業態ごとの顧客層の違い、各金融機関の住宅ローンの販売戦略の違いなどに起因しているとみられる。
図表6:住宅ローン新規貸出金利タイプ別(金額加重別)の推移(業態別)
2住宅ローンの借入期間の長期化
住宅金融支援機構の調査によると、個人の住宅ローンの借入期間が長期化している。2016年から2019年にかけて、約定貸出期間は25.6年から27.0年に、完済するまでにかかる期間も15.0年から16.0年に長期化している。長らく賃金が横ばいで推移する中で、特に新築・中古ともにマンション価格は上昇しており、これらの住宅を購入する際に個人は相対的に適用金利の低い変動金利型住宅ローンを選択するだけではなく、借入期間も長期化することで毎月の住宅ローンの返済額を抑制しているものとみられる。
3住宅ローンのシェアを伸ばす信託銀行、地方銀行と新規参入銀行
図表7は各金融機関のディスクロージャー等の公表数値から住宅ローンを集計し、業態別の残高シェアを計算したものである。業態別の住宅ローン残高シェアの推移を見ると、シェアを伸ばしている業態とそうでない業態があることが分かる。個別の金融機関で比較すると都市銀行や一部の信託銀行の残高シェアが大きく、基本的には金融機関の規模と住宅ローン残高シェアと関連している。2014年度以降の推移を見ると、信託銀行(6%→7%)、地方銀行(36%→40%)とその他の銀行(3%→6%)はシェアを伸ばしているが、都市銀行(36%→28%)や信用金庫(11%→10%)はシェアを落としている。特にその他の銀行では流通系やインターネット専業銀行等の新たに参入した銀行(以降、「新規参入銀行」と呼ぶ)のシェアが高まっている。都市銀行は海外での貸出や運用を強化して収益力の向上を図る方向にあるが、一部の信託銀行、地方銀行や新規参入銀行は住宅ローンからの利ざやの獲得や手数料収入を重視しているものとみられる。一方で、低金利環境が長期化していることで、これらの一部の信託銀行、地方銀行と新規参入銀行で住宅ローンの獲得競争が過熱しており、適用金利のさらなる低下につながっているものと考えられる。
図表7:国内銀行の住宅ローン残高シェアの推移(業態別)
4特約付きの団体信用生命保険を選好する個人の増加
基本的に金融機関から住宅ローンを借り入れる際に団信への加入を求められるが、追加コストなし2に最低限の保障(死亡や高度障害状態になると住宅ローンが完済され残債がゼロになる)を受けられる団信を選択できることが多い。さらに充実した団信(がん・脳卒中・急性心筋梗塞になると住宅ローンの残債がゼロになる等)に加入する場合は、金利の上乗せなどの追加的なコストの支払いが求められるのが通例である。

低金利環境下にあって住宅ローン販売競争が激化しており、さらに住宅ローン減税で順ざやによる経済メリットも獲得できる中で、保障内容の充実した団体信用生命保険(団信)を取り組む人が増えている。例えば、ソニー銀行のプレスリリース3によると、ソニー銀行で2020年度に住宅ローンを利用した人の利用動向をみると、金利上乗せのある保障の手厚い団信に加入する人が増えているとのことである。住宅ローンの適用金利が低水準にあることで、一部の個人はトータルコストで団信を選択するようになっている。
 
2 この場合、住宅ローンを借り入れる先の金融機関が団体信用生命保険の保険料を負担する
3 「住宅ローンのお客さまのご利用動向に関するお知らせ」(ソニー銀行、2021年6月4日)
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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融・決済・価格評価

経歴
  • 【職歴】
     2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
     2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
     ・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)

    【著書】
     成城大学経済研究所 研究報告No.88
     『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
      著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
      出版社:成城大学経済研究所
      発行年月:2020年02月

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