2021年10月20日

貿易統計21年9月-自動車の減少ペースが加速し、輸出は回復の動きが一服

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.自動車輸出が大幅減少

財務省が10月20日に公表した貿易統計によると、21年9月の貿易収支は▲6,228億円の赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:▲5,192億円、当社予想は▲4,984億円)を下回る結果となった。輸出の伸びが8月の前年比26.2%から同13.0%へと大きく鈍化する一方、原油高の影響などから輸入の伸びが前年比38.6%(8月:同44.7%)と高止まりしたため、貿易収支は前年に比べ▲12,901億円の悪化となった。供給制約に伴う生産調整の影響で自動車輸出が前年比▲40.3%(8月:同4.0%)の大幅減少となったことが輸出の伸びを大きく押し下げた。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比3.3%(8月:同13.7%)、輸出価格が前年比9.4%(8月:同11.0%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比7.6%(8月:同14.5%)、輸入価格が前年比28.8%(8月:同26.4%)であった。
貿易収支の推移/貿易収支(季節調整値)の推移
輸出金額の要因分解/数量要因 
価格要因 
(前年比)
季節調整済の貿易収支は▲6,248億円と5ヵ月連続の赤字となり、8月の▲3,367億円から赤字幅が大きく拡大した。輸入が前月比0.2%の増加となる一方、輸出が前月比▲3.9%の大幅減少となった。
原油価格(ドバイと入着ベース)の推移 9月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=73.9ドル(当研究所による試算値)となり、8月の73.9ドルから横ばいだった。足もとの原油価格(ドバイ)は80ドル台前半まで急上昇しており、通関ベースの原油価格は10月に70ドル台半ばまで上昇した後、11月には80ドル台となることが見込まれる。原油高に伴う輸入価格の上昇を主因として貿易収支(季節調整値)は当面赤字が続く可能性が高い。

2.米国向け輸出が減少

21年9月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲9.8%(8月:同13.2%)、EU向けが前年比18.6%(8月:同30.2%)、アジア向けが前年比9.1%(8月:同11.2%)、うち中国向けが前年比3.3%(8月:同5.9%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 21年7-9月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲8.5%(4-6月期:同11.7%)、EU向けが前期比5.8%(4-6月期:同12.8%)、アジア向けが前期比▲2.9%(4-6月期:同1.3%)、中国向けが前期比▲4.6%(4-6月期:同▲0.6%)、全体では前期比▲2.4%(4-6月期:同1.1%)となった。

EU向けは堅調を維持しているが、米国向け、アジア向けが弱い動きとなっており、自動車輸出の割合が高い米国向けの落ち込みが特に大きくなっている(20年の自動車輸出の割合は対世界が14.0%、対米国が27.5%)。資本財、情報関連財は堅調を維持しているものの、サプライチェーンにおける部品不足の影響で自動車が大きく落ち込んでいることから、輸出全体としては回復の動きが一服している。

一方、21年7-9月期の輸入数量指数(当研究所による季節調整値)は前期比▲1.6%(4-6月期:同2.1%)と4四半期ぶりの低下となった。国内のサービス消費の低迷が続いていることに加え、緊急事態宣言の長期化でこれまで堅調に推移してきた財消費も弱めの動きとなっていることが輸入の下押し要因となった。

3.7-9月期の外需寄与度は前期比0.1%程度のプラスに

9月までの貿易統計と8月までの国際収支統計の結果を踏まえて、21年7-9月期の実質GDPベースの財貨・サービスの輸出入を試算すると、輸出が前期比▲3%程度の減少、輸入が前期比▲3%台半ばの減少となった。この結果、7-9月期の外需寄与度は前期比0.1%(4-6月期:同▲0.3%)のプラスとなることが予想される。

当研究所では、鉱工業生産、建築着工統計等の結果を受けて、10/29のweeklyエコノミストレターで21年7-9月期の実質GDP成長率の予測を公表する予定である。現時点では、外需が成長率を若干押し上げるものの、民間消費を中心に国内需要が低迷することから、ほぼゼロ成長になると予想している。
 
 

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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2021年10月20日「経済・金融フラッシュ」)

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