2021年10月20日

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1. はじめに

近年の旺盛なオフィス需要を支えていた要因の1つに、「レンタルオフィス1」や「シェアオフィス2」、「コワーキングスペース3」等のサードプレイスオフィスの増加が挙げられる。企業は、「働き方改革」の一環として、従業員の働きやすい職場環境を提供しワークライフバランスの向上を図るため、サードプレイスオフィスの利用を拡大していた。

新型コロナウィルス感染拡大後は、通勤時間の削減や、執務環境が整っておらず自宅でのテレワークが困難等の理由から、自宅近くのサードプレイスオフィスを利用する人が増えている。

こうした背景を踏まえ、今後の成長が期待できるサードプレイスオフィス事業への新規参入が相次いでいる。図表-1は、サードプレイスオフィス事業への新規参入事例をピックアップしたものである。近年では、不動産業以外の他業種からの進出が目立つ。2019年に「東京電力」が、2020年に紳士服販売の「青山商事」、2021年に情報サービス業の「サイバーエージェント」等が、サードプレイスオフィス事業に参入した。
図表-1 サードプレイスオフィス事業への新規参入
コロナ禍以降、全国的にオフィス需要が停滞し空室率の上昇が続くなか、オフィス市場におけるサードプレイスオフィスの存在感が一段と高まっている。そこで、本稿では、サードプレイスオフィスの現状について概観した上で、今後、オフィス市場に及ぼす影響について考えたい。
 
1 会議室などを共用部分に設置して共有し、専用の個室をそれぞれ持つ、いわば合同事務所のようなオフィス形態。
2 フリーアドレスでデスクを共有して利用するオフィス形態。
3 オープンなワークスペースを共用し、各自が自分の仕事をしながらも、自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、協業パートナーを見つけ、互いに貢献しあう「ワーキング・コミュニティ」の概念およびそのスペース(コワーキング協同組合による定義)。

2. 首都圏におけるサードプレイスオフィスの現況

2. 首都圏におけるサードプレイスオフィスの現況

(1)サードプレイスオフィスの拠点分布
図表-2は、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に所在する主なサードプレイスオフィスを地図上にプロットしたものである。もともと、サードプレイスオフィスは東京駅から半径10キロ以内の都心部に集積し、なかでも東京駅や渋谷駅、新宿駅等の都心ターミナル駅周辺での開設が多くみられた。しかし、コロナ禍を経て自宅近くでの利用ニーズが高まるなか、サードプレイスオフィスの開設は都心部から郊外エリア(東京駅から70キロ付近)へと広がりを見せている。
図表-2 主なサードプレイスオフィスの立地
(2)サードプレイスオフィスが入居しているオフィスビルの属性
サードプレイスオフィスが入居するオフィスビルを規模別(延床面積)4に確認すると、小型ビルが33%、中型ビルが32%となり、中小型ビルで全体の約3分の2を占めた(図表-3左図)。また、エリア別にみると、「東京都心5区5」においても中小型ビルの割合(63%)が高い一方で、超大型ビルの割合が15%となり一定数の拠点が開設されている6

次に、入居ビルの築年数を確認すると、「30年以上40年未満」(28%)が最も多く、次いで「20年以上30年未満」(21%)となり、「5年未満」の割合は15%にとどまる。また、「東京都心5区」では「40年以上(旧耐震基準)」の築古ビルが約4分の1を占める(図表-3右図)。

超大型の新築ビルにサードプレイスオフィスの拠点を開設する事例が多く報じられているが、実際には築年数が経過した小型ビルを拠点とするケースも多いようだ。
図表-3 サードプレイスオフィスが入居するオフィスビルの属性(延床面積、築年数)
 
4 小型ビル;延床面積1,000m2未満、中型ビル;延床面積1,000m2以上5,000m2未満、大型ビル;延床面積5,000m2以上30,000m2未満、超大型ビル;延床面積30,000m2以上
5 「東京都心5区」(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)、「郊外」(東京周辺18区、神奈川県、埼玉県、千葉県)
6 三井不動産「ワークスタイリング東京ミッドタウン日比谷」、WeWork「WeWork渋谷スクランブルスクエア」、等。
(3)サードプレイスオフィスの提供サービス内容
続いて、サードプレイスオフィスの拠点面積を確認すると、「25坪未満」(41%)が最も多く、次いで「25坪以上~50坪未満」(23%)となり、50坪未満の小規模拠点が7割弱を占める(図表-4)。また、エリア別にみると、「郊外」では「25坪未満」(51%)の小規模拠点が半数を超える一方で、「東京都心5区」では「500坪以上」(13%)の大規模拠点も一定数確認することができる。
図表-4 サードプレイスオフィスの拠点面積
また、月額利用料金(最安料金)について確認すると、「1万円以上2万円未満」(43%)が最も多く、次いで「2万円以上3万円未満」(19%)となっている。エリア別では、「東京都心5区」は高額料金帯「4万円以上」(19%)が約2割を占める一方で、「郊外」は、低額料金帯「1万円未満」(24%)が約4分の1を占める(図表-5)。

国土交通省「テレワーク人口実態調査」によれば、「共同利用型オフィス等の希望利用料金」は、「自己負担が必要なら利用しない(39%)」との回答が最も多く、「月額1,000円未満(21%)」、「月額1,000~4,999円(20%)」の回答も多い(図表-6)。そのため、オフィスワーカーによる利用は、現状、法人契約や企業からの補助金の活用が中心と考えられる。
図表-5 サードプレイスオフィス月額利用料金※最安料金/図表-6 共同利用型オフィス等の希望利用料金
サードプレイスオフィスは、利用者が月極契約によりスペースを日常的に利用するサービスのほか、1日または時間単位で利用料を支払い、一時利用するサービス(「ドロップイン」)7がある。ザイマックス不動産総合研究所「働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査(2021 年7月)」によれば、サテライトオフィスの利用方針は、「タッチダウン(移動の合間など、短時間利用)で働く場所(67%)」との回答が最も多く、「ドロップイン」サービスの利用ニーズがかなり高いことが窺える(図表-7)。「ドロップイン」サービスを展開している拠点は、「全体」では53%、「東京都心5区」では44%、「郊外」では62%を占める(図表-8)。
図表-7 サテライトオフィスの利用方針/図表-8 ドロップインサービスの有無
また、ザイマックス不動産総合研究所「首都圏オフィスワーカー調査 2020」によれば、サテライトオフィスを利用する際に重視する条件は、「自宅から近い(63%)」との回答が最も多く、次いで「Wi-Fi等の通信設備(41%)」、「業務に集中できる個室がある(32%)」が多い(図表-9)。直近では、新型コロナウィルス感染防止の観点から、不特定多数の利用者が出入りし、人との接触機会が多いオープンスペースの活用を控え、「個室」の利用ニーズが高まっている。「個室」を有する拠点は、「全体」では80%、「東京都心5区」では85%、「郊外」では74%を占めている(図表-10)。
図表-9 サテライトオフィスを利用する際に重視する条件/図表-10 個室の有無
サードプレイスオフィスは、スタートアップ企業やフリーランスによる利用も多い。こうした背景から単なるスペース貸しだけでなく、一定の起業・就業支援を志向し、サードプレイスオフィスの住所を法人登記できるサービスを提供する拠点も多い。法人登記サービスを提供する拠点は、「全体」で60%、「東京都心5区」では68%に達している(図表-11)。
図表-11 法人登記サービスの有無
 
7 一般財団法人 大都市政策研究機構 「日本のコワーキングスペースの現状と展開」調査研究レポート、2019年12月23日
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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【コロナ禍を経て拡大が続くサードプレイスオフィス市場~利用ニーズの高まる郊外エリアは新規開設の余地が残る~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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