2021年08月17日

世界における中国生保市場(2020年)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(48)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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新型コロナウイルスを経て、世界の生保市場における中国の立ち位置や国内における保険需要、販売チャネルにも変容が起きている。以下ではその状況を確認してみたい。

1――中国の生保市場、世界第2位に

1――中国の生保市場、世界第2位に。新型コロナを経て、首位の米国との差は縮小へ。

Swiss ReのSigma「World insurance:the recovery gains pace」によると、2020年、中国の世界における生命保険料収入のシェアは前年比1.1ポイント増の12.4 %で2位となった(図表1)。首位である米国との差は10.2ポイントまで縮小した。2000年以降の20年間で、米国市場のシェアは6.5ポイント減少する一方、中国市場は11.6ポイント増と世界においてそのシェアを拡大している。

直近の状況をみても、市場の健全化をはかった2018年を除いて、中国の生命保険料の伸びは上位国の中でもその他の国・地域を凌駕している(図表2)。特に、2020年は新型コロナウイルスの影響により、各国で生命保険の販売が伸び悩み前年を割り込む中、中国は前年比5.4%増となった。中国を除いたアジア市場の生命保険料収入は前年比1%減となっている。
図表1 国・地域別の生命保険料収入シェア(2020年/ドルベース)/図表2 国・地域別の生命保険料の伸び率(2020年時点での上位5カ国/現地通貨ベース)

2――中国生保市場

2――中国生保市場:新型コロナウイルスの感染拡大期、収束以降も高い保険需要。

新型コロナウイルスに翻弄された2020年、中国の生保市場の動きはどのようであったのか。感染拡大期である2019年末から2020年第一四半期においては、消費全体の冷え込みもあって、保険料収入は前年同月比でマイナスに転じている(図表3)。

ただし、保険の種類別にみると、傷害保険は大幅に減少している一方、定期保険や終身保険(生保)は、感染拡大期以降はゆるやかに回復している。加えて、医療保険や重大疾病保険など入院給付や疾病給付を中心とした健康保険は感染拡大期においても前年同月比20%増と高い水準を維持している。
図表3 生保収入保険料の前年同月比の増減率の推移
生命保険、健康保険の販売が早めに回復した背景には、感染拡大期において当局が給付条件の緩和や手続きの簡素化などの措置を発出した点も考えられる1。加えて、医療保険などは新型コロナ感染拡大期の直後や1年後においても、予期せぬリスクなど何かあった際の備えとして関心、今後の加入意向とも高まっているといえよう(図表4-1、図表4-2)。
図表4-1 過去6ヶ月における保険に関する検索と加入の有無/図表4-1 今後6ヶ月における保険加入意向
 
1 中国銀行保険監督管理委員会は新型コロナの感染拡大直後の2020年2月、「関于做好新型冠状病毒感染疫情防控人身保険服務工作的通知」を発表。保険会社に対して給付条件の緩和や手続きの簡素化、効率化を求めた。医療保険については、給付対象となる病院の指定や制限を取消し、実損填補型の医療保険の不担保期間、免責額、治療薬と診療内容の制限も取り消し、本来給付の対象外である重大疾病保険やその他の保険についても、自社が可能な範囲で給付を検討するよう求めた。

3――重大疾病保障の必要性は高い

3――重大疾病保障の必要性は高いとは認識しつつも、入院給付等を考えた医療保険の加入を優先。今後はITプラットフォーマーを通じた加入意向が高まるも代理人などとのオンラインとオフラインの相互利用が進む。

上掲の図表3において、中国生保市場では医療保険や重大疾病保険を中心とした健康保険の需要が高い点を確認した。一方、スイス再保険研究所(Swiss Re Institute)中国センターによると、新型コロナ以降、癌などの高額な医療費を給付対象とする重大疾病保険の保障ニーズは高いものの、消費者自身は加入を優先すべき保険として入院給付や治療費を補填する実損填補型の医療保険を挙げている点が確認された(図表5)。貯蓄性の養老保険や、投資性保険、傷害保険へのニーズや加入の優先度合いは相対的に低くなっている。中国では公的医療保険の給付に際しても一定の免責額が設けられ、給付額にも限度額が設定される地域が多い点から、特に手術や高度な治療を受けるための重大疾病保険の需要は従来から高い状況にあった。新型コロナ以降は自身が入院した場合など特定の疾病に限らず、より幅広い保障を優先する傾向も出てきている。
図表5 保険種類別の保障ニーズと加入優先度
また、新型コロナ以降、保険監督当局が非接触型の販売を推奨する中で、オンラインの販売チャネルにおいても変容が見られる。これまでも保険会社のウェブサイトや公式アプリの活用は進んでいたが、今後はSNSなど微信(Wechat)公衆号(企業アカウント)や小程序(ミニプログラム)の活用や、第三者のITプラットフォーマーによるオンライン上の代理販売などの利用意向が高くなっている(図表6)。ただし、保険代理人やブローカーの利用意向も根強く、オンラインとオフラインのチャネルの相互利用が更に進むと考えられる。
図表6 過去6ヶ月における保険契約時の利用チャネルと今後利用を予定しているチャネル
消費者による保険商品へのアクセスはオンライン活用が進み、保険各社側は企業アカウント、ミニプログラム、社群(グループコミュニティ)などを通じて、視頻号(ショート動画)、抖音や快手での動画配信、直播(ライブ配信)などの活用を進めている。保険代理人はユーザーとオンライン上でコンテンツを提供・共有し、問い合わせやそれに対する返答を通じて日常的に交流することで、契約に結び付けることも可能であろう。ただし、保険のオンライン販売については、販売までの誘導や、商品管理、個人情報の管理などの問題が指摘されており、当局の監督が更に厳しくなっている。新型コロナを経て、中国生保市場は世界におけるプレゼンスを更に向上させているが、同時に、足元では解決すべき課題も多く内包していると言えよう。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

(2021年08月17日「保険・年金フォーカス」)

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