2021年08月06日

OPECプラス減産縮小・デルタ株拡大でも原油価格が高止まるワケ

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(7月):気候変動オペの骨子素案を公表

(日銀)現状維持
日銀は7月15日~16日に開催した金融政策決定会合において、金融政策の現状維持を決定した。長短金利操作、資産買入れ方針ともに前回から変更なしであった。

同時に公表された展望レポートでは、政策委員の大勢見通し(中央値)として、2021年度の経済成長率をコロナ感染拡大に伴って下方修正する一方、2022年度の成長率を上方修正した。また、エネルギー価格の上振れなどを反映して、2021・22年度の物価上昇率を上方修正している。ただし、見通し期間末である2023年度の物価上昇率は前回同様前年比1.0%に留まり、黒田総裁の任期末(2023年4月)でも2%の物価目標に全く届かないとの見通しが維持されている。景気の総括判断や先行きに関する記述は、概ね前回までの内容が維持されており、大きな変化はみられない。
 
なお、前回会合にて予告されていた通り、今回の会合では「気候変動対応を支援するための資金供給(以下、気候変動オペ)の骨子素案」が公表された。同素案によれば、対象先は共通担保オペの対象先のうち、気候変動対応に資するための取り組みについて一定の開示を行っている金融機関で、バックファイナンスの対象となる投融資は、「グリーンローン/ボンド」、「サステナビリティ・リンク・ローン/ボンド(気候変動対応に紐づく評価指標が設定されているもの)」、「トランジション・ファイナンスにかかる投融資」が考えられるとされた。条件面では、「貸付利率はゼロ%」、「マクロ加算残高への2倍加算適用」、「付利金利はゼロ%10」、「貸付期間は原則1年だが、回数制限を設けず借り換え可能(実質的に、長期にわたるバックファイナンスを受けることが可能)」とされ、年内を目途に開始、原則として2030年度まで実施する予定とされている。

併せて、「気候変動に関する日本銀行の取り組み方針」として、金融政策、金融システム、調査研究、国際金融、業務運営・情報発信の5分野からなる包括的な取り組み方針が公表されている。
 
会合後の総裁記者会見では、気候変動オペに関する質問が相次いだ。黒田総裁は、同オペについて、「対象となる投融資に関する具体的な判断は金融機関に委ねるわけだが、一定の開示を求めることで規律付けを図るという仕組みにしている」と説明し、「(環境オペがグリーンウォッシュ11を防げなかったという)批判を招くようなものにはならない」との見解を示した。

また、「何がグリーンかグリーンでないかを日本銀行として決めて投融資することは、現時点では適切でない」としたうえで、今回の気候変動オペの枠組みのように「ある程度フレキシブルにしておくことで、国際的に様々なタクソノミーの基準がはっきりと合意されてくれば、それに従った形にもできる」と利点を説明。「今のところは、今回の仕組みが妥当なところではないか」と述べた。

一方、同オペの効果については「今後、十分検証していかなければならない」としたほか、規模感についても「今の時点でこのくらいの規模ということは申し上げられない」と明言を避けた。プラス付利ではなく、ゼロ%付利とした理由については、「現時点で(この条件は)十分なインセンティブになると考えている」と回答した。
 
日銀のマンデート(使命)と気候変動対応の関係に関しては、「現時点で、物価の安定と金融システムの安定という基本的なマンデートを何か大きく修正するというような議論は、先進国の中央銀行の中ではない」としたうえで、「企業が気候変動のための投資を行う際に、それをよりやりやすくすることによって、気候変動によるマクロ経済の不安定な状況や、そうした問題のリスクを下げることができるということで、マンデートに含まれていると同時に、金融政策としてできる範囲がある」と、その位置付けを説明した。
 
7月から、長期国債買入れ方針(オペ紙)の公表頻度を3カ月毎へ変更したうえで減額した件については、「日本銀行が意図的に長期金利の変動を拡大させるわけではない」、「あくまでも、明確な変動幅(±0.25%程度)の中で、内外経済・物価情勢などに応じて変動する、いわば市場機能が十分発揮できるようにしたということ」と説明。「国債の買入れ額を今後減らしていくといったことはない」とテーパリング観測をけん制した。
気候変動オペの骨子素案/展望レポート(21年7月)政策委員の大勢見通し(中央値)
 
10 貸出促進付利制度上のカテゴリーIIIに該当
11 うわべだけ環境に配慮しているかのように見せかけること
(評価と今後の予想)
筆者は日銀の気候変動オペに関して、「中央銀行としての中立性を維持しつつ、いかに実効性を担保するか」が課題と考えていた。そうした意味では、今回の公表された内容は、一定の規律付けを図ったうえで、具体的な投融資については金融機関の判断に委ねる形となっているため、中立性に関しては配慮されている印象を受けた。

一方、実効性に関しては不透明感も否めない。「グリーンウォッシュを排除できるのか」、「気候変動対応の取り組みについて一定の開示を求めたうえで(プラス付利ではなく)ゼロ%付利との立て付けが金融機関にとってどれだけのインセンティブになるのか」、「政策の効果をどう検証するのか」などに関しては、今後見極めが必要になり、課題が明らかになれば、適宜修正が求められることになるだろう。
 
今後の金融政策に関しては、しばらく現状維持が続くと予想される。物価目標達成が見通せない一方で追加緩和余地が乏しく身動きが取りづらいうえ、デルタ株を中心とするコロナの感染動向やワクチン接種の普及ペースと効果、それが景気に与える影響等を見定めるべく、日銀は様子見姿勢に徹すると見込まれるためだ。「強力な金融緩和を粘り強く続けていく」という建前を掲げながら、現状維持を続けるだろう。金利の膠着が長期化するなど、副作用の緩和が十分に見られない場合には、政策をさらに微調整する可能性が出てくるが、緩和の大枠に影響はない。

なお、3月の政策修正の一環として、長短金利引き下げの影響を緩和するための「貸出促進付利制度」が導入されたが、同制度によって金利引き下げ時の副作用(金融機関収益への悪影響)を全て吸収できるわけではないため、長短金利引き下げのハードルは引き続き高い。引き下げは円高が大幅に進む場合などに限られるだろう。
 

3.金融市場(7月)の振り返りと予測表

3.金融市場(7月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
7月の動き 月初0.0%台半ばでスタートし、月末は0.0%台前半に。
月初、良好な国債入札結果を受けて0.0%台前半に低下。その後もリフレトレードの巻き戻しやコロナの世界的な感染拡大、早期緩和縮小観測の後退等を受けた米金利の低下が重荷となり、低迷が継続。パウエルFRB議長によるハト派的な議会証言を受けた15日には0.0%に接近した。その後は(債券価格の)高値警戒感が金利の支えとなる一方、米金利の低迷や内外でのコロナ感染拡大が重石となる形で0.0%をやや上回る水準で推移し、月末も0.0%台前半で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(7月)
(ドル円レート)
7月の動き 月初111円台前半でスタートし、月末は109円台半ばに。
月初、米雇用統計改善への期待が高まり、2日に111円台後半に上昇したが、雇用統計での失業率悪化を受けて米早期緩和縮小観測が後退。さらに、米経済指標の悪化に伴うドル売りや世界的なコロナ感染拡大に伴うリスク回避の円買いを受けて、9日には110円の節目を割り込んだ。その後は持ち高調整や米CPI上振れを受けてドルが買い戻され、14日には110円台後半を回復したが、翌15日にはパウエルFRB議長のハト派的な議会証言を受けて、再び110円を割り込んだ。下旬には米株高に伴うリスク選好の円売りで110円台を回復する場面もあったが、国内でのコロナ感染拡大やハト派的なパウエル議長会見等が重荷となり、月末は109円台半ばで終了。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
7月の動き 月初1.18ドル台後半でスタートし、月末も1.18ドル台後半に。
月の前半はコロナ感染拡大等を背景とする景気減速懸念によるユーロ売り圧力と米金利低下に伴うドル売り圧力がせめぎ合う形となり、1.18ドル台半ばを挟んだ一進一退の展開に。しかし、その後もユーロ圏での感染拡大傾向が続き、19日には1.17ドル台後半へ下落した。しばらく1.17ドル台後半での推移が続いたが、下旬にはFOMCを前に持ち高調整のユーロ買いが優勢となった。月の終盤には、ハト派的なパウエル議長会見や米GDP成長率の予想割れなどを受けてさらに上昇し、月末は1.18ドル台後半で終了した。なお、ECBが8日の戦略見直し公表で物価目標を実質的に引き上げ、22日の理事会で低金利のフォワードガイダンスを強化したことはユーロの重荷になった。
金利・為替予測表(2021年8月6日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年08月06日「Weekly エコノミスト・レター」)

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