2021年07月27日

欧州大手保険Gの内部モデルの適用状況について-2020年のSFCRからのリスクカテゴリ毎の標準式との差異説明の報告-

中村 亮一

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Aviva
Avivaは、内部モデルと標準式によるSCRの計算における全体的なアプローチの差異について、例えば、以下の通り述べている。

・標準式は、様々なリスクへのエクスポージャーによってもたらされる必要資本を計算するための式を規定している。内部モデルについては、当グループは各リスクについて損失の分布を調整し、これらをこれらのリスク間の一連の相関関係とともに使用して、事業に関する共同の損失の分布を導き出す。

・2つのベースは、技術的準備金の損失吸収能力について異なる取扱いをしている。

・集計方法について、
・内部モデルの場合、Avivaは、ガウスコピュラを使用し、損失関数を適用して、各リスクの限界リスク分布を組み合わせて、損失の総計分布を決定する。
・標準式では、階層型相関アプローチを使用している。ここでは、明示的な相関行列を使用して各リスクモジュール内のサブモジュール損失を結合し、次に様々なリスクモジュールの計算損失を結合する。

・内部モデルは、ファットテールリスク(すなわち、極値の確率が正規分布を使用するよりも高いリスク)及び非線形損失プロファイルを捕捉できる。

・さらに、当グループは分散化をより詳細にモデル化することができ、特に地理的分散化などの重要な特徴を捉えることができる。

・内部モデルはAvivaがさらされている全ての重要な定量化可能なリスクを反映しているのに対し、標準式はリスクのサブセットのみを考慮している。

E.4.4標準式と内部モデルの方法論と基礎となる前提の差異
標準式と内部モデル方法論の主な差異は、内部モデルリスクの方法論と前提がAvivaのリスクプロファイルに合わせて調整されているのに対し、標準式は標準化されたアプローチであるという点である。

標準式は、様々なリスクへのエクスポージャーによってもたらされる必要資本を計算するための式を規定している。内部モデルについては、当グループは各リスクについて損失の分布を調整し、これらをこれらのリスク間の一連の相関関係とともに使用して、事業に関する共同の損失の分布を導き出す。当グループが99.5%の信頼性で十分な資本を保有することを確実にするために、所要自己資本はこの共同分布から導き出される。したがって、内部モデルのリスクを調整するには、詳細なデータ分析と最も適切な分布を導き出すための統計モデルの使用が必要となる。

2つのベースは技術的準備金の損失吸収能力について異なる取扱いをしている。内部モデルでは、グループはこれを控除した損失関数を使用するが、標準式では、これは基本ソルベンシー資本要件(BSCR)に対する調整として適用される。これは標準式の計算で指定されているため、税の損失吸収力の計算も2つのアプローチの間で異なる。

内部モデルと標準式の集計方法における1つの重要な違いは、異なるモデリング方法によるものである。

・内部モデルの場合、Avivaは、ガウスコピュラを使用し、損失関数を適用して、各リスクの限界リスク分布を組み合わせて、損失の総計分布を決定する。

・標準式では、階層型相関アプローチを使用している。ここでは、明示的な相関行列を使用して各リスクモジュール内のサブモジュール損失を結合し、次に様々なリスクモジュールの計算損失を結合する。

標準式と比較した我々のアプローチの重要な特徴は、ファットテールリスク(すなわち、極値の確率が正規分布を使用するよりも高いリスク)及び非線形損失プロファイルを捕捉できることである。さらに、当グループは分散化をより詳細にモデル化することができ、特に地理的分散化などの重要な特徴を捉えることができる。もう1つの重要な違いは、内部モデルはAvivaがさらされている全ての重要な定量化可能なリスクを反映しているのに対し、標準式はリスクのサブセットのみを考慮している。

市場リスクモジュール
・内部モデルは、市場のボラティリティの変化を考慮しているが、これは標準式では明確にモデル化されていない。金利及び株式のボラティリティリスクは、保証のある契約にとって特に重要である。

・信用リスク - Avivaのモデルにはソブリン債が含まれているが、現時点では標準式ではモデル化されていない。このモデルはまた、様々な信用エクスポージャー間の分散化に対するある程度の引当金を含む、デフォルトの移行及びスプレッドのリスクを明確に考慮している。

・金利は、標準式の下での金利水準の変化だけではなく、3つの主要な要素を使用してモデル化されている。

・インフレリスク - Avivaは明示的にインフレリスクをモデル化している - 標準式にはインフレリスクはない。

・株式/資産リスク - 資産価格の下落に対するエクスポージャーのみが標準式に反映されるが、Avivaは株式/資産収益の全分布をモデル化しているため、株価又は資産価値の上昇又は下落に対するエクスポージャーを把握できる。

・通貨リスク - Avivaは、このリスクへのエクスポージャーが他のリスクの影響によって異なり、通貨間に分散があることを反映して通貨換算リスクをモデル化するが、これらの要素は標準式では評価されない。

健康リスクモジュール
・当社の生命事業によって書かれた健康事業は、別々にモデル化されている。現在、当社の 損害保険事業によって書かれた健康事業は、標準式を使用して評価されている。

カウンターパーティデフォルトモジュール
・標準式では、1つのモジュールの下で全ての取引相手の債務不履行リスクを考慮している。一方、内部モデルについては、当グループは、モデルを取引相手の種類及びエクスポージャーの性質に合わせて調整している。

生命保険モジュール
・標準式は標準ポートフォリオを想定しているが、Avivaの較正はその特定のポートフォリオに合わせて調整されている。

損害保険モジュール
Avivaは、当グループがAviva General Insurance事業の特定のリスク及びエクスポージャーをモデル化することを可能にする損害保険固有のモデルを構築した。標準式では、インフレの影響を明示的に考慮していない。これは、Aviva General Insuranceにとって重要なリスクの1つである。

さらに、当行グループはコマーシャル・ラインとパーソナル・ラインを区別しているが、標準式はこのレベルの細分性を反映していない。

オペレーショナルリスク
・Avivaはシナリオベースのアプローチを使用してオペレーショナルリスクをモデル化する。標準式は公式のアプローチを使う。

Aegon
Aegonは、ソルベンシーII PIMと標準式の方法論と前提の主な違いについて、リスクカテゴリ毎に例えば、以下のように説明している。

・市場リスクに関して、ソルベンシーII PIMショックはオランダのAegonの債券ポートフォリオに基づいて調整されるため、債券の固定金利リスクは異なる。標準式とは対照的に、国債はゼロより大きいファクターでショックを受ける。さらに、ソルベンシーII PIMはオランダのAegon内で動的ボラティリティ調整アプローチを採用しているが、標準式は採用していない。

・引受リスクに関して、長寿リスク及び死亡リスクのソルベンシーII PIMは、次のように標準式とは異なる。
・ソルベンシーII PIMは、母集団死亡率ショックと経験因子ショックを区別するが、標準式は全ての死亡率の一定の減少を仮定する。
・ソルベンシーII PIMは年齢と性別によって死亡率を予測するが、標準式は全ての年齢と性別で同じショックを仮定する。

・オペレーショナルリスクに関して、
・ソルベンシーII PIMは、経験データによって補完される可能性のあるシナリオを生成するためにワークショップが使用される主題専門家の意見に基づいている。標準式は技術的準備金、保険料及び費用に基づいているが、データはその後確率モデルに適合される。
・ソルベンシーII PIMは、オペレーショナルリスクの分散化をまったく認めていない標準式とは対照的に、他のリスクタイプによるオペレーショナルリスクの分散化を可能にする。

E.4標準式と部分内部モデルの違い
ソルベンシーII PIMと標準式の方法論と前提の主な違いは、以下のリスクタイプによって説明されている。

市場リスク
ソルベンシーII PIMショックはオランダのAegonの債券ポートフォリオに基づいて調整されるため、債券の固定金利リスクは異なる。標準式とは対照的に、国債はゼロより大きいファクターでショックを受ける。さらに、ソルベンシーII PIMはオランダのAegon内で動的ボラティリティ調整アプローチを採用しているが、標準式は採用していない。

この動的ボラティリティ調整方法論は資産のみのアプローチに従い、スプレッドの拡大が確実なシナリオとしている。債券ポートフォリオのパフォーマンスは広範囲の信用シナリオの下で評価され、モデルは資産が経験した(短期)損失のどの部分を回収するかを決定する。

2020年、 Aegon the Netherlands は、EIOPA VA参照ポートフォリオと自社の資産ポートフォリオとの間のベーシスリスクによって引き起こされるボラティリティを軽減する内部モデルの改善を特定した。

住宅ローンについては、ソルベンシーII PIMにスプレッド・ショックが含まれているが、標準式にはカウンターパーティのデフォルトリスク・ショックが含まれている。

株式リスク・ショックは、Aegonの独自のポートフォリオに基づいて調整される。さらに、株式エクスポージャーは株式ボラティリティリスクにもショックを受ける。

Aegon the Netherlands内では、不動産ポートフォリオに対する不動産リスクのショックは、標準式における25%のショックとは対照的に、ポートフォリオに対して明確に調整されている。

通貨リスクについては、ショックはAegon自身のポートフォリオに基づいて調整される。さらに、ソルベンシーII PIMでは、標準式では通貨エクスポージャー間に分散がないのとは対照的に、異なる通貨へのエクスポージャー間で分散を行うことができる。

以下の理由により、金利リスクに関するソルベンシーII PIMの結果は、標準式の結果とは異なる。

・標準式金利ショックは金利曲線の平行移動のみを考慮するが、ソルベンシーII PIMは平行移動だけでなく、金利曲線の平坦化とねじれも考慮する。

・ソルベンシーII PIM金利カーブショックは、Aegonのポートフォリオに関連する過去の市場データに基づいて調整されている。

・ソルベンシーII PIMは、ショック・シナリオでは終局フォワードレート(UFR)は変化しないと仮定しているが、標準式の金利ショックでは、UFRを含む曲線全体が移動すると仮定している。

・さらに、ソルベンシーII PIMには、金利及び株式ボラティリティリスクに対する所要自己資本が含まれている。そして

・Aegon UKの場合、ソルベンシーII PIMに基づく金利リスクには、給付金の支払い及び費用に対するインフレショックも含まれる。一方、事業費のインフレショックは、標準式の下では生命費用リスクに含まれる。

引受リスク
長寿リスク及び死亡リスクのソルベンシーII PIMは、次のように標準式とは異なる。

・ソルベンシーII PIMは、母集団死亡率ショックと経験因子ショックを区別するが、標準式は全ての死亡率の一定の減少を仮定する。

・ソルベンシーII PIMは年齢と性別によって死亡率を予測するが、標準式は全ての年齢と性別で同じショックを仮定する。

Aegon the Netherlandsの場合、ソルベンシーII PIMには住宅ローン・ポートフォリオの前払い(解約)リスクが含まれる。

ソルベンシーII PIMの下でのAegon UKの保険契約者の行動(解約)リスクは、パラメータと伝染ショックの総計だが、標準式では、パラメータと伝染ストレスのうち大きい方である。さらに、ショックはAegon UKポートフォリオで調整されているため、標準式よりも大きなショック規模になり、分散前のSCRが高くなる。

ソルベンシーII PIMのストレスは事業費レベル、トレンド及びボラティリティ・ストレスをカバーするため、Aegon UKの総計ソルベンシーII PIMの事業費リスク・ショックは標準によるストレスよりも高くなっている。これにより、分散化前のSCRが高くなる。

オペレーショナルリスク
Aegon UKの場合、オペレーショナルリスクに関するソルベンシーII PIMは、次のように標準式とは異なる。

・ソルベンシーII PIMは、経験データによって補完される可能性のあるシナリオを生成するためにワークショップが使用される主題専門家の意見に基づいている。標準式は技術的準備金、保険料及び費用に基づいているが、データはその後確率モデルに適合される。そして

・ソルベンシーII PIMは、オペレーショナルリスクの分散化をまったく認めていない標準式とは対照的に、他のリスクタイプによるオペレーショナルリスクの分散化を可能にする。

分散化
ソルベンシーII PIMの内部モデルと標準式コンポーネントの間の分散は、統合テクニック3(IT3)を使用して計算される。このEIOPA規定の積分手法は、内部モデルと標準式の構成要素との間の暗黙の線形相関係数がどのように計算されるかを説明している。この相関係数は、平方根公式を使用して合計ソルベンシーII PIM SCRを計算するために使用される。標準式では、相関モジュールを使用してリスクモジュール別及び合計レベルで分散を計算する。

 

3―まとめ

3―まとめ

今回のレポートでは、欧州大手保険グループ各社のSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、内部モデルに関して、標準式と各社で実際に使用された内部モデルとのリスクカテゴリ毎の差異の説明等について報告してきた。
|内部モデルの適用状況
各社の内部モデルに共通の特徴を挙げると、以下の通りとなっている。

(1)全体的
・標準式と内部モデルの違いについて、基本的には「標準式ではファクターベースのショック・シナリオを使用しているのに対して、内部モデルでは想定された分布に基づく各リスクドライバー(及びそれに対応する経済的損益の影響)と他のリスクドライバーへの依存をシミュレートしてリスク資本を導出する。」と整理されている。

・標準式のストレスの多くは国によって異ならないが、内部モデルのリスクドライバーは、通常、国やその他のリスクの属性によって異なる。

・内部モデルは、標準式ではカバーされない重要な定量化可能なリスクを反映している。

(2)リスクモジュール毎の主要な差異
リスクモジュール毎の主要な差異は、以下の通りとなっている。

・株式や金利のボラティリティについては、標準式では明示的にカバーされないが、内部モデルでは明示的にモデル化されている(株式インプライドボラティリティリスク、金利インプライドボラティリティリスクをカバーしている)。

・インフレーションリスクについても、標準式では明示的にカバーされないが、内部モデルでは明示的にモデル化されている。

・ソブリン債のスプレッドリスクについて、標準式では考慮されないが、内部モデルではモデル化され、全てのソブリン債のスプレッドリスクが考慮される。

・生命保険引受リスクについて、内部モデルでは、会社の経験や各国固有の要素も反映して、よりきめ細かく較正され、さらには、標準式ではカバーされないリスクもカバーしている。

・オペレーショナルリスクについて、標準式では保険料収入と技術的準備金に基づくファクターベースのアプローチが採用されるが、内部モデルではシナリオベースのアプローチが採用される。

・分散化について、内部モデルではリスク特性等に応じて、より広範囲での分散化を考慮している。例えば、標準式では地理的分散は明示的に認識されていないが、内部モデルでは地理的分散を考慮している。

このように各社の内部モデルの方法論は、基本的には共通している部分が多いが、これまで述べてきたように細部の手法等に関しては、必ずしも統一されているものではなく、各社の状況に応じて、独自のものが採用されている。
SFCRについての課題
これまでのSFCRに関するレポートにおいて、SFCRについては、監督当局と保険会社、さらには利用者である投資家や保険契約者等の間で、SFCRに求めているものが統一されておらず、このためSFCRの位置付けが必ずしも十分に明確化されていない面がある、と報告した。

SFCRが、ソルベンシーと財務状況に関して、基本的にはこれまでの財務関係の開示資料で提供されてきたものと比較して一定詳しい情報を提供しており、それらの情報が、欧州保険会社の財務状況等に関する投資家等の一般の利用者の理解をより深めることにつながってきていることは間違いない。その意味で、SFCRの存在意義は大きいものと思われる。

ただし、一方で、保険会社の立場から見て、SFCRの作成にかかる労力等を考慮した場合に、それに見合うものになっているのか、又は保険契約者や投資家等の立場から見て、現在の報告内容が本当に理解できる有益なものになっているのか、さらには投資家等が本当に必要としている情報が十分に開示されているのか、という意見があり、これらについて課題を抱えているのも事実である。

また、今回報告した「標準式と使用された内部モデルの差異」に関する事項の記述については、欧州大手保険グループ間でも記述内容のレベル等に差異が見られる。さらには、各社とも定性的事項の説明が中心で、各種の内部モデルの採用により、どのような効果が得られたのかという定量的事項に関しては説明がなされていない。こうした内容はもちろん監督当局には報告されているものと思われるが、外部に対しては公表されていない。加えて、内部モデルの定性的説明についても、一部でさらなる詳しい内容の説明を期待している向きにとっては若干期待外れに感じている部分も多いのではないかと思われる。もちろん、各社の内部モデルの詳細については、外部には公表できない部分もあることは十分に理解できるものの、各社の内部モデルの理解可能性を高め、他社との比較可能性を向上させていくためには、より一層の情報提供が求められる部分もあるものと思われる。ただし、これがSFCRの中で行われるべきものなのかとの意見があることも十分に理解できることであり、その意味でも改めて、SFCRの位置付けが問われてくることになるものと思われる。

いずれにしても、こうした課題も含めて、現在行われているソルベンシーIIのレビューの検討の中で、SFCRの見直しについてはいくつかの提案が行われている。これについては、保険年金フォーカス「欧州保険会社が 2020年の SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-」(2021.6.24)においても触れている。

今後EIOPA、各国監督当局、保険会社自身のレビューを通じて、SFCRの位置付けがより一層明確化され、必要に応じてさらなる充実・見直し等が行われていき、その有用性がさらに高められていくことが期待される。

今回のSFCRの公表によって開示されている情報等については、日本の保険会社等にとっても大変有益なものであり、今後の日本における保険監督規制のあり方等を検討していく上でも大いに参考になるものと思われる。

SFCRを巡る動きに関しては、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年07月27日「基礎研レポート」)

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