2021年07月13日

欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-

中村 亮一

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(4) Aviva
AvivaのSCRの構成は、以下の図表の通りとなっている。内部モデルによるSCR(分散効果控除前)の割合は81.2%となった。

また、Avivaの分散効果による控除率は34.4%となっている。
AvivaのSCR(ソルベンシー資本要件)
Avivaの内部モデルは、以下の図表で示されているように、英国及びアイルランドの生命・損害保険会社及びカナダの損害保険会社等で使用されている。一方で、イタリアやその他の欧州、アジア・太平洋等では、標準式が使用されている。
Avivaの内部モデル
また、分散効果に関して、以下の説明が行われている。
 

分散効果
Avivaは、Avivaの構造、リスクの組み合わせ及び基礎となるリスクの調整と相関関係を考慮して、適用される分散化のレベルが妥当であることを保証するために、リスク及び事業単位毎に分散効果の分析を行う。

Avivaの報告によると、2020年12月31日現在のグループの分散効果は8,314百万ポンド(2019年:9,138百万ポンド)であり、これにはリスク要素間の分散及びPIMの分散化が含まれるが、各リスク要素内の分散は含まれない。2020年12月31日現在の分散率(diversification ratio)は、既にリスク要素内での分散化を考慮して、24,141百万ポンド(2019年:24,246百万ポンド)のSCRの34%(2019年:38%)となっている。

リスク間の分散効果は、主に相対的なリスクの規模とそれらの間の相関関係によってもたらされる。例えば、2つのリスクが同じ規模である場合、2つのリスクはより分散化し、相関性が高いほど、分散するリスクは少なくなる。分散化はリスク分布の形状によっても影響を受ける。極端なイベントが発生する可能性が高いリスクは分散化の傾向が高いためである。

当グループ内の会社間で発生する分散効果の規模は、主にそれらの会社のリスクプロファイルによって左右される。リングフェンス型ファンド及び非保険会社は分散効果に貢献していない。つまり、英国の有配当ファンドからは分散効果は発生しない。内部モデル会社の中では、英国の生命保険会社が当グループの大部分を占めているため、当グループのリスクプロファイルに強く影響を与える。損害保険事業は、他のグループとは異なるリスクプロファイルを持っているため、分散効果を有している。

分散化のメリットの最後の源泉は、PIMの分散化である。Avivaは、部分内部モデルを使用してグループSCRの合計を計算する。これには、内部モデル会社と標準式会社を別々にモデル化してから、相関行列を使用してそれらを結合する。

PIMの分散効果は、内部モデルブロックと標準式リスク・モジュールとの間の想定される相関関係から生じる。

その他の情報の章の附属I、S.25.02.22は、ソルベンシーII委任法第336条に規定されているように、分解されたSCRを概説している。

(5) Aegon
AegonのSCRの構成は、以下の図表の通りとなっており、内部モデルによるものが、分散効果控除前のSCRの69.8%を占めている。

内部モデルを適用している会社は、以下の通りである。

Aegon the Netherlands:(Aegon Levensverzekering N.V、Spaarkas N.V.)
Aegon the UK:(Scottish Equitable plc);
Aegon N.V

ソルベンシーIIのSCR計算の対象となるAegon内のその他全ての会社は、標準式を使用している。

Aegonは、分散効果による控除率が40.2 %と、高い水準となっている。
AegonのSCR(ソルベンシー資本要件)
なお、Aegonは、標準式と内部モデルの使用状況について、以下のように図表にまとめて、詳細を報告している。
標準式と内部モデルの使用状況
また、分散効果に関して、以下の説明を行っている。
 

ソルベンシーII PIM SCR内の分散効果
ソルベンシーII PIMの下で、Aegonは国単位及びリスクタイプ間の分散効果を計算する。標準式の構成要素内では、規定されたSF相関行列に従って分散化が決定される。

内部モデル内では、過去のデータと専門家の判断を利用して、全てのリスク要因に対して限界確率分布関数が適合されている。組み合わされた全てのリスク要因の全体的な同時確率分布関数は、リスク間の依存構造を考慮に入れる。この共同分布からのサンプルをシミュレートする200万シナリオからの損失は、全体的な経験的損失分布関数を当てはめるために使用され、これから99.5%のポイントを取ることによって200年の1回の損失を導き出す。

シナリオはシナリオジェネレータと依存構造を使用して生成され、リスク間の依存関係(相関)が定義される。市場データと専門家の判断に基づく要因。各シナリオには、金利、株式リターン、死亡率などのリスク要因の値が含まれている。

(分散後の)合計純SCRは、自己資本における200年に1回の損失の平均によって決定される。分散はリスクタイプの独立型SCRの合計と総正味SCRの差として定義される。

ソルベンシーII PIMの内部モデルと標準式コンポーネントの間の分散は、ソルベンシーIIの規定に従って、統合テクニック3(IT3)を使用して計算される。


さらに、以下の説明も行われている。
 

QRT S.25.02.22に示されている3,508百万ユーロ(2019年:3,050百万ユーロ)の分散化には、PIM SCRのSF部分とIM部分の統合及びリスクカテゴリ間の分散化が含まれるが、各リスク要素内の分散化は含まれない。

QRT S.25.02.22のリスクカテゴリ内では、主に次のように各リスクカテゴリ内に分散がある。分散は、内部モデルのリスクタイプ、SFリスクのタイプ、そして最後にIT3の集約によってもたらされる。 グループ全体の分散効果をもたらす様々なリスクタイプ間の相互作用の概要は以下のとおりである。

・市場リスクの分散化。スプレッドリスクと株式リスク間の分散、金利レベルと非市場リスクタイプの間の分散によって引き起こされる。Aegonは金利の低下にさらされているため、金利水準リスクに対する分散効果は比較的大きく、スプレッド拡大シナリオとの相関は低い。スプレッドリスク(スプレッド拡大へのエクスポージャー)はSCRの観点からはAegonにとって最大のリスクカテゴリであるため、スプレッドリスクの分散効果は比較的小さく、したがって200年に1回の事象で自己資本の総損失が発生する。これらの数値は全て動的ボラティリティ調整を適用した後のものである。

・保険引受リスク(UR)の分散化。これは、解約リスクなどの他の保険引受リスクとの相関が比較的低い長寿リスクによって引き起こされる。QRT S.25.02.22に報告され、一貫して上記の表に示されているような生命保険引受リスク。上の表に示されている金額は、引受リスク要素間の分散のみである。引受けリスクは、通常、スプレッドリスクのように、200年に1回のイベントで自己資本の総損失をもたらす市場リスクの種類とも相関が低い。

・その他の所要自己資本には、OFS事業体に加えて、控除合算法(D&A)の下での事業体(主に、米国の生命保険会社であるAegon Americas)に対する必要資本が含まれる。2020年の第4四半期に、Aegon BankはOFS事業体として含まれている。AC、OFS、D&A事業体間に分散効果はない。

(6) まとめ(各社間比較)
これまでの各社の数値を過去からの推移を含めてまとめると、以下の図表の通りとなる。

AXAの内部モデル適用比率については、XL事業体について、2019年に同等性評価から標準式に変更になったことにより大きく低下したが、2020年には標準式から内部モデルに変更になったことから再び大きく上昇している。各社とも、内部モデル適用比率はほぼ上昇傾向にある。

分散効果による控除率の水準は、Generaliを除けば、ほぼ30%から40%の範囲にある。

なお、各社の数値の水準の差異は、各社の事業構成等を反映したものともなっている。
分散効果控除前のSCR算出における内部モデル適用比率
分散効果による控除率

3―まとめ

3―まとめ

今回のレポートでは、欧州大手保険グループ各社のSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))から、内部モデルの使用状況及び分散効果の状況について報告した。

次回のレポートでは、使用された内部モデルに関する説明内容等について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年07月13日「保険・年金フォーカス」)

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