2021年07月07日

プラチナ価格の上昇が意味すること-さらなる上昇のカギは景気回復と水素関連需要

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.292]

経済研究部 上席エコノミスト   上野 剛志

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昨年3月に新型コロナ流行による需要急減を受けて1トロイオンス600ドルを割り込んだNYプラチナ先物価格(終値・中心限月ベース)は、その後上昇に転じた。一時は1300ドルに肉薄し、足元ではやや下落したものの、1050ドル台とコロナ禍直前の水準を上回っている(6月21日時点)。
[図表1]プラチナの内外先物価格

1―プラチナ価格上昇の要因

(1)世界的な経済活動の再開
プラチナ価格上昇の一つの要因は「世界的な経済活動の再開」だ。昨年春以降、主要国でコロナ流行に伴って実施された都市封鎖が解除されたうえ、政府の景気刺激策やワクチンの普及もあって世界経済が総じて回復基調を辿った。これに伴い、工業用途を主体とするプラチナ需要*が急速に回復に向かった。

特に最大用途である自動車向け需要は昨年第2四半期に前年比で半減した後に急回復し、第4四半期以降は前年の水準を上回っている。主力のディーゼル車の排ガス触媒向け需要が経済活動再開を受けた生産・販売の持ち直しや排ガス規制強化に伴う使用量増加によって回復したほか、ガソリン車触媒を高価なパラジウムからプラチナに変更する動きが生じたことも追い風になった。

また、自動車向け以外にも、経済活動再開に伴う工業向け需要(ディスプレイ用ガラス製造装置向けなど)の増加や、繰越需要の発現等による宝飾向け需要の増加、世界的な金融緩和に伴う投資需要の増加などがプラチナ需要の増加に寄与した。
[図表2]プラチナの需給動向(四半期)
 
* World Platinum Investment Council (WPIC) によれば、2019年の世界需要の用途別構成比は、自動車 34%、工業(自動車除く)26%、宝飾品25%、投資15%。
(2)世界的な脱炭素機運の高まり
そしてもう一つの上昇要因は「世界的な脱炭素機運の高まり」だ。脱炭素に向けた代替エネルギーとして水素が注目され、水素製造装置や燃料電池の電極触媒に使われるプラチナの需要拡大期待が高まった。

特にFCV(燃料電池車)には1台当たりディーゼル車の約10倍ものプラチナが使用されていると推測される。脱炭素に向けて、主要国では2020年代半ばから40年にかけて内燃機関車(ガソリン車やディーゼル車など)の販売を禁止する方針が打ち出されていることから、その代替としてFCVが普及し、プラチナ需要が拡大することが期待されている。

2―さらなる価格上昇のカギ

今後のプラチナ価格の行方を占ううえで、まず短期的に注目されるのは世界経済の動向だ。今後もワクチンの普及が進むことで世界経済が回復に向かえば、主力の自動車向けに加えて、工業向けや宝飾向け需要の増加が見込まれ、プラチナ価格の追い風になる。景気回復に伴う主要国の金融緩和縮小は重荷になるが、需要増加の影響が上回るだろう。現在、自動車生産の制約となっている半導体不足や過去の排ガス不正に端を発するディーゼル車離れの動向も注目される。

一方、中長期的には水素社会の実現、特にFCVの普及に伴うプラチナ需要拡大が価格上昇のカギになる。次世代車としてのFCVの存在感はプラチナを殆ど使わないEV(電気自動車)に大きく水を開けられており、車両価格の高さや補給拠点の少なさといったネックの解消が急務になっている。

また、逆説的だが、プラチナの存在がFCVの普及を妨げる可能性がある。既述の通り、FCV1台当たりのプラチナ使用量はディーゼル車より格段に多い。このため、1台当たり使用量が現状のまま、2019年の自動車世界販売台数の1/5に相当する1800万台がFCVに置き換わると仮定して試算すると、必要になるプラチナの量は年間供給量の約3倍と非現実的な規模になる。

従って、FCV普及のためにはプラチナ使用量の効率化が求められるわけだが、劇的に効率化されたり、高性能な代替材料が開発されたりする場合には、プラチナ需要の増加に大して寄与しなくなり、場合によっては内燃機関車向け需要の喪失分を賄えなくなる可能性もある。また、十分な効率化ができず、FCVの普及範囲がもともとFCVに向いているとされるトラックやバスなどに留まる場合も同様だ。このように、FCV普及に伴うプラチナ需要の行方には不透明感があり、各国の政策や関連業界、技術の動向に大きく左右されることになる。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2021年07月07日「基礎研マンスリー」)

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