- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 「対数」に、もう一度興味・関心を持ってみませんか(その1)-対数って、何だろう?-
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
はじめに
また、多くの人の感覚としては、「指数関数的に増加する」という表現によく触れる機会があることからわかるように、指数(関数)については一定の馴染みがあると思われる。ところが、対数(関数)と言われると、「それは何だ」というような感じで、アレルギー反応を起こして、ちょっと身構えてしまう方が多いのではないかと思われる。
対数関数は、指数関数の逆関数1である。一般的に、逆関数の関係にある2つの関数の一方は理解しやすいが他方は理解しがたいというケースが多くみられるものと思われる。
今後の複数回の研究員の眼で、「対数」に関する話題について、その意味合い及び有用性を含めて紹介していくこととしたい。まずは、今回は「対数」の概念等について説明する。
1 一般的にある関数(y=f(x))が与えられた時に、そのxとyを入れ替えて、yについて解いた関数(x=f-1(y))を、元の関数の「逆関数」という。
対数とは
なぜ対数と呼ばれるのか(対数の語源)
「log」という記号は、対数の英語の「logarithm(ロガリズム)」の略語になっている。この英語は、ラテン語の「Logarithmorum 」に由来しており、これはギリシャ語の、「言葉(word)」、「論理」、さらには「比率(proportionあるいはratio)」を意味する「logos(ロゴス)」と、「数字(number)」を意味する「arithmos(アリトモス)」が語源となっている。
それでは、日本語ではなぜ「対数」と言うのだろうか。これについては、「17世紀の中国で、西欧の対数が紹介された時、x とlog x を対にしてならべた表を『対数表(table of corresponding numbers)』と述べた」ことに由来しているようである(このように、数学用語の日本語は、まずは西洋数学が中国で紹介されたときの中国語への翻訳に由来しているものが多い)。
「底」という用語は、まさに英語の「base」を翻訳したもので、「基底」や「基数」といった意味になるのだろうが、「底」では今ひとつピンとこないと感じるのは個人的にはよく理解できる気もする。
ネイピア等による対数概念の構築
当時はケプラーやガリレオといった偉大な天文学者が活躍していた時代で、惑星の軌道や望遠鏡による星の観測等の天文学の研究が盛んに行われていた時代であった。さらには、大航海時代で、船乗りたちが星の位置に基づいて、船の現在の位置を確認する必要があり、精密な天体観測が要求されていた。
そうした中で、天文学者は巨大な数を扱う計算に苦労していたが、コンピューター等が無い時代において、複雑な計算を簡略化するために、対数の概念が考案された。あらかじめ、いろいろな対数の値を算出して一覧表にまとめた「対数表」を作成しておくことで、下記に説明する「対数に関する基本公式」に見られる対数の特性を利用して、巨大な数の計算の効率化が図られることになった。
ネイピアについては、彼自身が現在良く知られているようなネイピア数eを示していたわけではなかったが、最も古くに研究を行ったことから、その名前が付されている、と紹介した。同様に、ネイピアは「対数発見者」であると言われる2が、ネイピアが提唱した対数の定義も現在用いられているものとは異なっていた。
ネイピアによれば、正の実数 x に対して
x=107(1-1/107)y
を満たす実数としてただ1つ定まるy のことを「ネイピアの対数(Napierian logarithm)」と呼んでいた。
上式を変形すると
x/107={(1-1/107)10⁷ }y/10⁷
となる。これは、(1-1/107)10⁷ が(現行定義における)この対数の底であることを意味している。
計算してみればわかるが、
(1-1/107)10⁷=0.3678942… ≒1/e (eはネイピア数)
となっていることが確認できる。
18世紀から19世紀にかけての著名なフランスの数学者、物理学者、天文学者であるピエール=シモン・ラプラス(Pierre-Simon Laplace)は、「対数は天文学者の寿命を2倍に延ばした」と述べたと言われている。
2 スイスの時計職人、天文機器製作者であったヨスト・ビュルギ(Jost Bürgi)が、ネイピアよりも早く1588年に対数の概念を発見したが、1620年まで公表しなかったため、対数の発見者としてはネイピアの名前が挙げられることが多い。
自然対数と常用対数
これに対して、10を底とするものを「常用対数(common logarithm)」と呼び、記号「log10 x」で表現される。
先に述べた対数表作成者の名前を冠して、自然対数は「ネイピアの対数」、常用対数は「ブリッグスの対数」とも呼ばれる。
常用対数の値は、その真数の十進法表示での桁数の目安になり、x が自然数のとき、x の桁数は、log x の整数部分 ⌊log x⌋ に 1 を足した数に等しくなる。また、0 < x < 1 のとき、x の小数首位(小数点以下に最初に現れる0 でない桁)は、−⌊log x⌋ となる。
常用対数は、「常用」との名称が付されているように、音の大きさ(デシベル)、地震のマグニチュード、水素イオン指数(pH)といった各種の科学的な測定値を表現する際に用いられて、実際に使用されているケースが多い。
一方で、自然対数は、数学等の理論分野で使用されている。学生時代に学んだ時や試験問題等では、こちらの自然対数の方が多く現れてきたことを覚えておられるのではないかと思われる。
一般的な感覚としては、十進法に慣れ親しんでいることから、底を10とする常用対数の方が「自然」に感じられるかもしれない。ところが、数学的にはeを底とする自然対数の方が、例えば単純な積分やテイラー級数で極めて容易に定義でき、微積分等の計算が簡便になること等の理由で、より扱いやすく「自然」と認識されることになる。
自然対数と常用対数の関係は、(後に述べる)底の変換公式を用いることにより、自然対数の値を log10 e ≒ 0.43 倍すれば、常用対数の値になる。逆に常用対数の値をloge10 ≒ 2.303 倍すれば、自然対数の値になる。
なお、これ以外にも、底を2とする「二進対数(binary logarithm)」は、情報理論の分野で情報量等を表現する場合や音楽の分野等で用いられており、「lb」という記号が使用されたりする。
対数に関する基本公式等
4桁の数字の掛け算「3275×8194」を考える。これをそのまま計算するのは、電卓であれば一瞬であるが、手計算で行うのは容易ではない。ところが10以下の数値に関する小数点以下6桁を有する常用対数表を用いると、以下の通りとなる。
log10 3275=log10 (3.275×1000)=log10 3.275+log10 1000
=0.515211+3=3.515211
log10 8194=log10 (8.194×1000)=log10 8.194+log10 1000
=0.913496+3=3.913496
log10(3275×8194)=log10 3275+ log10 8194
=3.515211+3.913496
=7.428707(=0.428707+7)
ここで、log10 2.683533=0.428707 であることから
log10(3275×8194)=log10 2.683533+log10 10000000
=log10 26835330
これにより、3275×8194≒26835330 となる。
実際の計算結果は「26835350」なので、ほぼ正しい結果が得られている。小数点以下にさらに多くの桁数を有する常用対数表を使用すれば、より正確な数値が求められることになる。
3 対数関数の微分が「1/x」になっているということは、逆に「y-=1/x」という関数を積分する(この関数が描く曲線(直角双曲線)の面積を求める)ことで、対数が得られることになる。これにより、対数が面積という幾何学的性質に関係していることになり、それまでの計算のための概念から、数学へと進化していくことになっていった。
対数関数のグラフ
片対数グラフ・両対数グラフ
これに対して、「片対数グラフ」というのは、縦軸又は横軸の一方のみが対数目盛になっていて他方は普通目盛になっているグラフをいう。また、「両対数グラフ」というのは、縦軸及び横軸の両方が対数目盛になっているグラフをいう。これらのグラフを用いることで、極めて広い範囲のデータを扱うことができることになる。
また、指数関数(y=axn)のグラフは、横軸を普通目盛(又は対数目盛)、縦軸を対数目盛にすると、直線になる。従って、指数関数に従うデータを分析する場合には、通常のグラフに比べて、対数グラフの方が回帰分析等が行いやすくなる。こうした対数グラフの利用については、別途報告することとしたい。
まとめ―対数の応用-
これについて、いくつかの例を挙げると、以下の通りとなっている。
・化石の年代測定(放射性元素の減少量に基づいて測定)
・星の明るさ 等級
・音の大きさ dB(デシベル)
・音のラウドネス(聴覚的な強さ) phon(ホーン)
・地震が発するエネルギーの大きさ マグニチュード
・水素イオン指数(酸性・アルカリ性の度合い) pH(ペーハー)
・音階
さらには、そもそも「人間の感覚は対数感覚」であるということが言われており、有名な「ヴェーバー‐フェヒナーの法則(Weber–Fechner law)」というものも挙げられる。
これらの具体的な内容については、次回以降のこのシリーズの研究員の眼で、順次説明していくことにしたい。
(2021年06月04日「研究員の眼」)
このレポートの関連カテゴリ
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/02/06 | PRA(英国)やACPR(フランス)が2025年の監督・政策上の優先事項や作業プログラムを公表 | 中村 亮一 | 保険・年金フォーカス |
2025/02/03 | ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る動き-2025年から1.00%に引き上げられるとともにDAVは2026年の1.00%の水準維持を推奨- | 中村 亮一 | 保険・年金フォーカス |
2025/01/30 | EIOPAによる2024年保険ストレステストについて-EIOPAの結果報告書の概要- | 中村 亮一 | 保険・年金フォーカス |
2025/01/21 | EUにおけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向2024-ソルベンシーIIの改正指令が最終化- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2025年02月18日
今週のレポート・コラムまとめ【2/12-2/17発行分】 -
2025年02月17日
タイ経済:24年10-12月期の成長率は前年同期比3.2%増~純輸出と政府支出が拡大、2期連続で+3%台の成長に -
2025年02月17日
ロシアの物価状況(25年1月)-サービスインフレ加速で前年比9.9%まで上昇 -
2025年02月17日
政策形成の「L」と「R」で高額療養費の見直しを再考する-意思決定過程を詳しく検討し、問題の真の原因を探る -
2025年02月17日
QE速報:10-12月期の実質GDPは前期比0.7%(年率2.8%)-3四半期連続のプラス成長も、内需は低迷
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【「対数」に、もう一度興味・関心を持ってみませんか(その1)-対数って、何だろう?-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「対数」に、もう一度興味・関心を持ってみませんか(その1)-対数って、何だろう?-のレポート Topへ