2021年06月02日

ユーロ圏消費者物価(5月)-2%まで上昇したが、ほぼエネルギー要因

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:18年10月以来の2%台に

6月2日、欧州委員会統計局(Eurostat)は5月のユーロ圏のHICP(Harmonized Indices of Consumer Prices:EU基準の消費者物価指数)速報値を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【総合指数】
前年同月比は+2.0%、市場予想1(+1.9%)を上回り、前月(+1.6%)から加速(図表1)
前月比は+0.3%、予想(+0.2%)を上回ったものの、前月(+0.6%)からは減速

【総合指数からエネルギーと飲食料を除いた指数2
前年同月比は+0.9%、予想(+0.9%)と同じで、前月(+0.7%)から加速(図表2)
前月比は+0.2%、前月(+0.5%)から減速

(図表1)ユーロ圏のHICP上昇率/(図表2)ユーロ圏のHICP上昇率
 
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
2 日本の消費者物価指数のコアコアCPI、米国の消費者物価指数のコアCPIに相当するもの。ただし、ユーロ圏の指数はアルコール飲料も除いており、日本のコアコアCPIや米国のコアCPIとは若干定義が異なる。

2.結果の詳細:2%上昇の過半がエネルギー要因

5月のHICP上昇率(前年同月比)は全体で+2.0%となり、18年10月(+2.2%)以来となる2%台の高い伸び率となった。一方、「コア部分(=エネルギーと飲食料を除く総合)」は同+0.9%で、3か月連続の1%割れとなっている。

以下、詳細を「コア部分」「エネルギー」「飲食料(アルコール含む)」の3つに分けて見ていく。

まず、コア部分の「エネルギーと飲食料を除く総合」(前年同月比+0.9%)の内訳を見ると、「エネルギーを除く財(飲食料も除く)」は3月0.3%→4月0.4%→5月0.7%となり、加速傾向が続いている。一方、「サービス」は3月1.3%→4月0.9%→5月1.1%となり、5月は1%を超えたものの、時系列で見ればインフレの加速感はない(前掲図表2)。

コア以外の部分では「エネルギー」が、5月は前年同月比13.1%となり、4月の10.4%に続いて2か月連続の2桁増となった。前年同月比寄与度では、約1.17%ポイントに達していると見られ、全体の伸び率の1%以上がエネルギー価格により押し上げられている(前掲図表1・2)。

一方「飲食料(アルコール含む)」は、5月は前年同月比で0.6%(4月0.6%)となり、飲食料としては16年9月以来となる1%割れの低い伸び率が2か月連続で続いている(図表3)。飲食料のうち加工食品の伸び率は0.8%(4月0.9%)、未加工食品は▲0.0%(3月▲0.3%)だった。未加工食品の伸び率の低さは、前年同月の伸び率が高かったことによる効果(ベース効果)による部分が大きいと見られる。
(図表3)ユーロ圏の飲食料価格の上昇率と内訳/(図表4)ユーロ圏のコアHICP上昇率
総じて見ると、エネルギー価格が全体のインフレ率を大きく押し上げているという構造は4月から変化していない。コア部分はやや加速したものの、1%前後の伸び率はコロナ禍前と同程度であり、また、ドイツで時限的に導入していたVAT引き下げが終了し、この効果でコア部分も押し上げられていることに鑑みれば(図表4)、インフレ圧力は弱い状況が続いていると考えられる。
(図表5)ユーロ圏HICP上昇率(前年同月比)/(図表6)ユーロ圏HICP上昇率(前月比)
最後に、国別のHICP上昇率を見ると、5月は前年同月比伸び率で19か国中、ギリシャを除く18か国でインフレ率が加速、前月比でもギリシャを除く国がプラスであった。エネルギー価格による部分は大きいと見られるが、域内全体にインフレが広まっていると言える(図表5・6)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年06月02日「経済・金融フラッシュ」)

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