2021年05月14日

貸出・マネタリー統計(21年4月)~資金供給量の伸びは約5年ぶりの高水準に、銀行貸出の伸びは急低下

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1. 貸出動向:貸出の伸び率が大幅低下

(貸出残高)                                                                  
5月13日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、4月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比4.27%と前月(同5.90%)を大きく下回り、3カ月ぶりに低下した。コロナ禍が長引いていることで企業の資金需要は根強いとみられるものの、比較対象となる昨年4月にコロナ流行初期の資金需要によって貸出が大幅に伸びた(昨年3月2.12%→4月3.13%)反動で、伸び率が押し下げられた(図表1)。また、民間金融機関での実質無利子・無担保融資が3月末で終了したことも一部影響している可能性がある。
 
業態別で見た場合には、都銀の伸び率が前年比3.93%(前月は6.74%)、地銀(第2地銀を含む)の伸び率が前年比4.57%(前月は5.18%)とともに前月から低下したが、とりわけ都銀の伸び率低下が目立っている(図表2)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4)信用保証実績
昨年は6月にかけて貸出が急増したため、今後も6月にかけて前年比での比較のハードルが上がっていき、伸び率の押し下げ要因となる。従って、貸出の伸び率は低下に向かうことになるとみられるが、コロナ禍脱却が見通せない中で予備的な資金需要が残ると考えられることから、プラス圏は維持されるだろう。
(主要銀行貸出動向アンケート調査)
日銀が4月21日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2021年1-3月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は10と前回(20年10-12月期)の▲5から上昇に転じ、再びプラス圏(「増加」とする先が優勢)に浮上した(図表5)。

企業規模別では、大企業向けが▲2(前回は▲6)と小動きかつマイナス圏に留まっているのに対し、中小企業向けが10(前回は1)と大幅にプラス幅を拡大している(図表6)。

中小企業向けの需要が「(やや)増加した」とした先にその要因を尋ねた問いでは、「手許資金の積み増し」と「資金繰りの悪化」を挙げた先が多く見受けられた。また、中小企業向けの資金需要判断D.I.を業種別に見た場合1、飲食・宿泊などの対面サービス業が含まれる「その他非製造業」でD.I.の上昇が顕著になっている。1-3月期は首都圏などで緊急事態宣言が再発令されたことで、対面サービス業を営む中小企業で資金繰りが悪化したり、手元資金を確保する動きが強まったりし、資金需要が高まったとみられる。また、民間金融機関の実質無利子・無担保融資が3月末で終了することを見据え、駆け込み需要が発生した可能性もある。
 
一方、個人向け資金需要判断D.I.は7と前回(12)からやや低下。依然プラス圏(「増加」が優勢)ながら、需要が鈍化した(図表5)。内訳では、住宅ローンのD.I.が8(前回は14)、消費者ローンのD.I.が▲1(前回は3)とともに低下している。緊急事態宣言再発令に伴って、個人の住宅投資・消費活動が停滞した影響を受けた可能性が高い。
 
今後3ヵ月の資金需要については、企業向けD.I.が5、個人向けD.I.が2とともに1-3月期の実績からやや低下し、増勢が鈍化するとの見立てになっている(図表5)。しかしながら、4月下旬以降、再び多くの地域で緊急事態宣言が発令され、対面サービス業の経営が圧迫されていることから、資金需要が高止まりする可能性もある。
(図表5)資金需要判断DI/(図表6)資金需要判断DI (大・中小企業)
 
1 区分は、「製造業」、「建設・不動産業」、「金融・保険業」、「その他非製造業」の4つ

2.マネタリーベース:資金供給量の伸び率は4年9カ月ぶりの高水準だが、今後は一服か

5月7日に発表された4月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの伸び率(平残)は前年比24.3%と、前月(同20.8%)を上回り、2016年7月以来の高い伸びとなった(図表7)。伸び率の上昇は12カ月連続となる。
 
日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行は、コロナ対応の歳出拡大を受けて引き続き高い水準で推移しているが、日銀がコロナ禍への対応の一環として国債買入れを拡大し資金供給を拡大してきたことで(図表8)、日銀当座預金残高の伸びが拡大している。また、前年比の比較対象となる昨年4月の日銀当座預金の伸び率がゼロ%近くに落ち込んでいたことも伸び率の押し上げに寄与している。

その他の内訳では、日銀券発行高の伸び率が前年比5.3%(前月は同6.0%)と高水準ながら前月から低下する一方、貨幣流通高は前年比1.9%(前月も同じ)と横ばいで推移している(図表7)。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額(月次フロー)/(図表9)日銀国債保有残高の前年比増減/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移
なお、月々の動きに関して、4月のマネタリーベース平均残高は3月比で31.5兆円増、季節調整値でも22.8兆円増(図表10)と極めて高い伸びを示しているが、これは3月の下旬にマネタリーベースが大きく増加したことで3月の平均残高が抑えられた影響が大きい。実際、4月末時点のマネタリーベース残高(655兆円)は3月末比で11.8兆円増に留まっており(3月末残高は2月末比で28.9兆円増)、4月になって増勢が強まったわけではない。
 
日銀は3月の政策修正で長期金利の変動許容幅を小幅に拡大した後、4月以降の長期国債買入れ額をやや引き下げた2ほか、ETFの買入れもメリハリを付けるという名目で縮小されている。5月以降は、比較対象となる前年のマネタリーベースが増勢を強めたこともあり、マネタリーベースの前年比伸び率は今後一服する可能性が高い。
 
2 4月の長期国債買入れ実績が3月をやや上回っているのは(図表8)、3月末日に行われた国債買入れオペの金額が決済日である4月1日に計上されたためと推察される。

3.マネーストック:通貨量の伸び率が2カ月連続で低下も、増加基調は維持

5月14日に発表された4月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比9.19%(前月は9.40%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同7.82%(前月は7.93%)と、ともに依然として伸び率の水準としては高いものの、2カ月連続でやや低下した(図表11)。

M3の内訳では、主軸である普通預金等の預金通貨(前月15.2%→当月14.1%)の伸び率が低下し(図表11)、全体の伸び率低下の主因となった。比較対象となる昨年4月に貸出の急増に伴って預金通貨の伸び率が大幅に上昇した反動が出ている。また、現金通貨の伸び率が前年比5.7%(前月は6.2%)と鈍化したことも影響した。

一方、CD(譲渡性預金・前月14.5%→当月25.6%)の伸びが大きく拡大したほか、定期預金などの準通貨(前月▲2.2%→当月▲1.8%)の伸びがマイナス幅を縮めたことが一定の支えとなった(図表12)。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
(図表13)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比5.88%(前月は5.82%)とやや上昇し、過去最高の伸びを記録した2月に次ぐ過去2番目の伸びを維持した(図表11)。M2やM3と違い、前年4月に伸び率が鈍化していたため、前年比のハードルが高まらなかったことが背景にある。

内訳を見ると、既述の通り、M3の伸び率が低下したほか、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月1.3%→当月0.0%)の伸び率も低下し、全体の重荷になった。しかし、規模の大きい金銭の信託(前月▲0.8%→当月0.1%)が前年の伸び鈍化の反動でプラスに転じたことが、全体の伸び率上昇に寄与した(図表13)。
 
前年の大きな動きによって伸び率が圧迫されて実勢が掴みにくくなっているものの、前月比などで見ると、通貨量の増加基調は続いている。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年05月14日「経済・金融フラッシュ」)

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