2021年05月13日

住宅市場は立ち直りの動き。REIT指数は5カ月連続で上昇-不動産クォータリー・レビュー2021年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は上昇基調にあるものの、前期比ではマイナスとなり頭打ち感もみられる。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2020年第4四半期は前年比でシングルタイプが+0.6%、コンパクトタイプが+2.7%、ファミリータイプが+1.3%となった(図表-11)。住民基本台帳人口移動報告によると、東京23区の転入超過数は昨年5月以降マイナスに転じ、2020年全体では約+1.3万人(2019年+6.4万人)となった。今年に入ってもこの傾向は変わらず、2021年1-3月累計の転入超過数は約+1.5万人(2020年1-3月+3.9万人)と前年の4割の水準にとどまる。住宅系REITの運用実績をみると、稼働率の低下に対応し募集賃料の調整を行った結果、テナント入替え時の賃料上昇率が鈍化している7
図表-11 東京23区のマンション賃料
図表-12 東京23区の転入超過数(各年の月次累計値、2019年~2021年3月)
 
7 日本アコモデーションファンド投資法人(2021年2月期)によると、テナント入替時の賃料変動率は+3.2%(2020年2月期は+7.0%)に鈍化した。
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、新型コロナ第3波に伴う2度目の緊急事態宣言(1/8~3/21)を受けて施設売上が減少している。商業動態統計などによると、2021年1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が▲8.3%、スーパーが▲0.8%、コンビニエンスストアが▲2.7%となった(図表-13)。3月単月では前年の外出自粛を受けて落ち込んだ百貨店とコンビニエンスストアがプラスに転換したものの、四半期ベースではスーパーを含む3業態全てがマイナスとなった。
図表-13 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
商業セクターと同様に、ホテルセクターも厳しい状況が続いている。宿泊旅行統計調査によると、2021年1-3月累計の延べ宿泊者数はコロナ禍以前の2019年対比で▲54.7%減少し、このうち外国人が▲96.6%、日本人が▲44.0%となった(図表-14)。昨年後半は政府の観光需要喚起策「Go Toトラベル」の効果から国内需要が回復したものの、今年に入り、再び悪化を強いられている。STR社によると、3月のホテル稼働率は全国が39.2%、東京が30.6%、大阪が34.4%に低迷している。
図表-14 延べ宿泊者数の推移(月次、2019年対比、2020年1月~2021年3月)
物流賃貸市場は、首都圏・近畿圏ともに空室率が1%台で、需給環境は引き続き良好である。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2021年3月末)は前期比+0.6%上昇の1.1%となった(図表-15)。2021年第3四半期までに供給予定の大規模施設の内定率は6割程度とみられ、全体のリーシングペースは順調なものの、立地やスペックによって進捗に開きが出てきたとのことである。近畿圏は湾岸部で既存物件の空室消化が進み、空室率は1.9%(前期比▲1.8%)に低下した。

また、一五不動産情報サービスによると、2021年1月の東京圏の募集賃料は4,410円/月坪(前期比0.2%)となり、緩やかな上昇傾向が続いている8
図表-15 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
8 J-REITが所有する物流施設も賃料の増額改定が続いている。GLP投資法人(2021年2月期)の賃料上昇率(改定対象面積全体)は+5.9%、日本プロロジスリート投資法人(2020年11月期)の改定賃料変動率は+2.7%であった。
 

4. J -REIT(不動産投信)市場

4. J -REIT(不動産投信)市場

2021年第1四半期の東証REIT指数(配当除き)は、昨年末比+12.8%上昇した。セクター別では、オフィスが+13.7%、住宅が+13.2%、商業・物流等が+11.9%上昇した(図表-16)。新型コロナ感染拡大への警戒感は根強いものの、株式市場に対する出遅れ感などを背景に堅調に推移し、これで5カ月連続での上昇となった。3月末時点のバリュエーションは、純資産10.8兆円に保有物件の含み益4.0兆円を加えた14.8兆円に対して時価総額は16.3兆円でNAV倍率9は1.1倍、分配金利回りは3.6%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.5%となっている。
図表-16 東証REIT指数の推移(2020年12月末=100)
Jリートによる第1四半期の物件取得額(引渡しベース)は4,434億円(前年同期比▲6%)となった(図表-17)。アセットタイプ別の取得割合は、オフィス(61%)・物流施設(24%)・住宅(8%)・商業施設(0.4%)・ホテル(0%)・底地ほか(7%)であった。厳しい事業環境下にある商業施設とホテルは、多くのREITが新規取得に対して慎重な姿勢を崩しておらず、低調な取引が続いている。
図表-17 J-REITによる物件取得額(四半期毎)
こうしたなか、REIT各社は保有不動産の売却による投資主への利益還元を強化している。第1四半期の物件売却額(発表日ベ-ス)は1,519億円となり同期間として過去最高を記録した(図表-18)。その内容を見ると、売却価格は鑑定評価および帳簿価格をそれぞれ10%程度上回っており、鑑定評価以上の価格で売却することで売却益を計上し、内部留保の積み増しや分配金の引き上げに活用している。現在、REIT市場全体の不動産含み益は約4.0兆円で簿価に対する含み率は21%、年間分配金に対して約7倍の規模に達する。世界的な過剰流動性を背景に投資家の不動産取得意欲は高く、不動産価格が高値で推移するなか、市場実勢を反映したREITの潜在的な価値はさらに高い可能性がある。実際、4月に入り、外資系ファンドがオフィス特化型REITへの敵対的TOB(株式公開買い付け)を発表するなど、REITの資産価値の着目した資金が流入している。ただし、不動産価値の源泉である不動産賃貸市場は調整色を強めており、今後は不動産キャッシュフローの減少圧力に留意する必要がある。
図表-18 J―REITによる物件売却額と売却価格と鑑定価格のかい離率
 
9 NAV倍率は、市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2021年05月13日「不動産投資レポート」)

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