- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- J リート保有物件の価格はコロナ禍でも下落せず
2021年05月10日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
2008年の金融危機と今回のコロナ危機によるJ リート(不動産投資信託)市場への影響を比較した場合、相違点の1つに不動産価格の変動が挙げられる。前回の金融危機では、J リート保有物件の価格が長期にわたり下落した一方で、今回は概ね横ばいで推移している。
図表1は、J リート保有物件を対象に半年ごとに開示される鑑定評価額の変動率(前期比)を集計し、指数化(2008年上期=100)したグラフである。前回、2008年上期(1-6月期)にピークを付けた不動産価格は翌下期に▲2.9%下落し、その後5年間で累計▲20%を超える下落率を記録した。これに対して、今回はホテルセクターを除いて不動産価格は落ち着いた動きを示しており、Jリート全体で2020年上期が前期比+0.4%、2020年下期が前期比±0.0%となっている。
図表1は、J リート保有物件を対象に半年ごとに開示される鑑定評価額の変動率(前期比)を集計し、指数化(2008年上期=100)したグラフである。前回、2008年上期(1-6月期)にピークを付けた不動産価格は翌下期に▲2.9%下落し、その後5年間で累計▲20%を超える下落率を記録した。これに対して、今回はホテルセクターを除いて不動産価格は落ち着いた動きを示しており、Jリート全体で2020年上期が前期比+0.4%、2020年下期が前期比±0.0%となっている。
さらに、前回は金融危機の深刻化によって売買市場の流動性が一時枯渇する事態に陥った。借入金のリファイナンスに窮した一部のJ リートは希望価格での物件売却が困難となり、鑑定評価を下回る価格での売却を余儀なくされた。
これまでのJ リートの売却事例を対象に、売却価格が鑑定評価を下回った取引(ディスカウント取引)の割合をみると、ディスカウント取引は2008年下期から増加し、その後は価格の先安観も相まって、2009年から2011年にかけて半数以上がディスカウント取引となった。(図表2)。これに対して、2020年のディスカウント取引の割合は18%であった。前年より増加したものの売却価格は鑑定評価を平均4.5%上回っており、高値での売却を実現できている。
これまでのJ リートの売却事例を対象に、売却価格が鑑定評価を下回った取引(ディスカウント取引)の割合をみると、ディスカウント取引は2008年下期から増加し、その後は価格の先安観も相まって、2009年から2011年にかけて半数以上がディスカウント取引となった。(図表2)。これに対して、2020年のディスカウント取引の割合は18%であった。前年より増加したものの売却価格は鑑定評価を平均4.5%上回っており、高値での売却を実現できている。
前回は金融ショックを発端に経済ショックの連鎖を招いた。しかし、今回は各国の果敢な財政拡大と金融緩和が経済悪化の痛みを和らげるとともに、金融ショックの連鎖を食い止めることに成功した。この結果、昨年3月に大幅下落となった東証REIT指数は不動産価格の下落リスクの後退とともに上昇し、NAV倍率(株式のPBRに相当)で1倍を超える水準を回復している。
一方で、人々の移動制限や経済悪化を受けて不動産賃貸市場は調整色を強めている。東京のオフィス市況を確認すると、都心5区に所在するオフィスビルの稼ぐ力(稼働率×募集賃料)は、前回の金融危機と同程度のスピードで悪化しており、2020年4月をピークに3月時点で約9%低下している(図表3)。
世界的な過剰流動性を背景に投資家の不動産投資意欲が強く、現在のところ不動産価格は高値を維持している。しかし、賃貸市場の不確実性は依然として高く、今後は不動産キャッシュフローの潜在的な減少圧力に十分留意する必要がありそうだ。
一方で、人々の移動制限や経済悪化を受けて不動産賃貸市場は調整色を強めている。東京のオフィス市況を確認すると、都心5区に所在するオフィスビルの稼ぐ力(稼働率×募集賃料)は、前回の金融危機と同程度のスピードで悪化しており、2020年4月をピークに3月時点で約9%低下している(図表3)。
世界的な過剰流動性を背景に投資家の不動産投資意欲が強く、現在のところ不動産価格は高値を維持している。しかし、賃貸市場の不確実性は依然として高く、今後は不動産キャッシュフローの潜在的な減少圧力に十分留意する必要がありそうだ。
(2021年05月10日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1858
経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/21 | J-REIT市場の動向と収益見通し。財務負担増加が内部成長を上回り、今後5年間で▲7%減益を見込む~シナリオ別のレンジは「▲20%~+10%」となる見通し~ | 岩佐 浩人 | 基礎研レポート |
2025/02/07 | Jリート市場回復の処方箋 | 岩佐 浩人 | 基礎研マンスリー |
2025/01/24 | Jリート市場回復の処方箋 | 岩佐 浩人 | 研究員の眼 |
2024/12/04 | Jリートの不動産運用で問われる「インフレ対応力」 | 岩佐 浩人 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年03月25日
ますます拡大する日本の死亡保障不足-「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>」より- -
2025年03月25日
米国で広がる“出社義務化”の動きと日本企業の針路~人的資本経営の視点から~ -
2025年03月25日
産業クラスターを通じた脱炭素化-クラスターは温室効果ガス排出削減の潜在力を有している -
2025年03月25日
「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2025年) -
2025年03月25日
ヘルスケアサービスのエビデンスに基づく「指針」公表
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【J リート保有物件の価格はコロナ禍でも下落せず】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
J リート保有物件の価格はコロナ禍でも下落せずのレポート Topへ