2021年04月19日

わが国の不動産投資市場規模(2)~オフィスは「投資適格不動産(71.0兆円)」の4分の3、住宅は「投資適格不動産(30.4兆円)」の6割が「東京23区」に集積。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

株式会社価値総合研究所 パブリックコンサルティング第3事業部 主任研究員 室 剛朗 

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1. はじめに

日本の不動産投資市場は、J-REIT市場の開設以降、拡大が続いている。投資対象資産は、当初、オフィスビルが中心であったが現在は多岐に渡っており、投資エリアについても広がりをみせている。

拡大を続ける不動産投資市場の将来を見通すにあたり、投資対象となる「収益不動産1」の資産総額がどれくらいの規模であるのか、また、その内訳について「用途別」や「エリア別」に把握することは重要だと考えられる。そこで、ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所は、共同でわが国の不動産投資市場規模(収益不動産ストック)に関する調査を実施した。

前回のレポート2では、「収益不動産ストック」の推計方法と、推計結果の概要を解説した。本稿では、「オフィス」と「住宅」に関する推計結果の内容を報告する。
 
1 事業者や個人に物件を賃貸することで、賃料収入を獲得できる不動産。
2 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年3 月12 日
 

2. オフィスの資産規模の推計結果

2. オフィスの資産規模の推計結果

2-. 概要
オフィスの「収益不動産ストック」を把握するため、

(1)一定水準以上の面積基準や築年基準を満たす「収益不動産」
(2)機関投資家の投資意欲が特に強いスペックや立地要件を満たす「投資適格不動産」
(3)主要政令指定都市に立地するハイクラスオフィスである「コア投資不動産」

のカテゴリーに分類し、推計を行った(図表-1)。
図表-1 「収益不動産」の定義(オフィス)
まず、オフィスの資産規模は、「収益不動産」で約99.5兆円、「投資適格不動産」で約71.0兆円、「コア投資不動産」で約54.2兆円と推計された(図表-2)。

不動産投資市場の将来を見通す上で、「不動産証券化」の視点は重要である。そこで、各カテゴリーにおけるJ-REITの保有比率を確認すると、「収益不動産」で9.2%、「投資適格不動産」で11.9%、「コア投資不動産」で14.0%となった。先行研究3によれば、米国REITの投資不動産に占める割合は31%である。わが国では2001年9月の開設以降、J-REIT市場は順調に拡大しているが、米国と比べて保有比率はまだ低く、今後の成長余地はまだ十分にあると言える。
図表-2 オフィスの「収益不動産ストック」とJ-REITの占率
次に、オフィスの「収益不動産ストック」に対する年間の取引量(以下、市場回転率4)を確認する。

RCAによれば、オフィスの年間取引額は、ファンドバブルと言われ活況を呈した2007年と2008年には約2.5兆円に達した。その後、リーマンショックや東日本大震災等の影響により取引額は低迷したが、2013年にスタートしたアベノミクス以降、国内外の投資資金が流入し取引額は大きく回復した。そして、2020年はコロナ禍を受けて投資家の様子見姿勢が強まったこと等から、約1.9兆円(前年比▲26%)に減少した(図表-3)。

また、取引額に占めるクロスボーダー取引(外国資本による取引)の割合は、これまで10~20%で推移していたが、2020年は26%に上昇した。日本は、欧米の主要都市と比較して新型コロナウィルス感染者が相対的に少なく、コロナ禍による経済的な打撃が相対的に小さいこと等が評価されており、昨年は海外資金の流入が目立つ1年であった。
図表-3 オフィスの取引額(2007年~2020年)
2007年から2020年のオフィスの年間取引額は、平均2.2兆円であった。これに基づく市場回転率は、「収益不動産」で2.1%、「投資適格不動産」で3.1%、「コア投資不動産」で4.1%と推計される(図表―4)。米国における市場回転率(約4.5%5と推計)と比較すると、投資適格性が高い「コア投資不動産」を基準とした場合、米国と同水準の不動産取引が行われていると言える。
図表-4 オフィスの市場回転率
 
3 小夫 考一郎「グローバルな視点から見た日本の不動産市場の魅力と課題」(東洋経済新報社 不動産政策研究各論Ⅳ 国際不動産政策 不動産政策研究会編 2018 年)
4 「市場回転率」=年間取引額÷収益不動産ストック
5 PGIM Real Estate 「A Bird’s Eye View of Real Estate Markets: 2017 Update」によれば、アメリカ合衆国の「収益不動産」(全プロパティ)の資産規模は、約8.1兆ドル。RCAによれば、アメリカ大陸の年間取引額(2007年から2020年の平均値)は、約0.3兆ドル。
2-2. エリア別にみたオフィスの「収益不動産ストック」
オフィスの「収益不動産(99.5兆円)」をエリア別にみると、「東京都」が約58.5兆円(占率59%)と最も大きく、次いで「大阪府」が約9.3兆円(9%)、「神奈川県」が約5.1兆円(5%)、「愛知県」が約4.4兆円(4%)、「福岡県」が約2.4兆円(2%)と推計された(図表―5)。「収益不動産」の約6割が「東京都」に集積している。
図表-5 オフィスの「収益不動産」の市場規模(単位:兆円)
続いて、オフィスの「投資適格不動産(71.0兆円)」をエリア別にみると、「東京23区」が約54.0兆円(占率76%)と最も大きく、次いで「大阪市」が約6.4兆円(9%)、「名古屋市」が約2.2兆円(3%)、「横浜市」が約2.1兆円(3%)、「福岡市」が約1.6兆円(2%)と推計された(図表―6)。「投資適格不動産」の約4分の3が「東京23区」に集積していることになる。
図表-6 オフィスの「投資適格不動産」の市場規模(単位:兆円)
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金融研究部

吉田 資 (よしだ たすく)

株式会社価値総合研究所 パブリックコンサルティング第3事業部 主任研究員 室 剛朗 

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【わが国の不動産投資市場規模(2)~オフィスは「投資適格不動産(71.0兆円)」の4分の3、住宅は「投資適格不動産(30.4兆円)」の6割が「東京23区」に集積。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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