2021年04月16日

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1. はじめに

名古屋のオフィス市場では、オフィスビルの新規供給は限られているものの、新型コロナウィルスの感染拡大による景気悪化等に伴いオフィス需要が縮小したことで、空室率は上昇した。成約賃料についても、需給バランスの緩和に伴い、下落に転じている。本稿では、名古屋のオフィス市況を概観した上で、2025年までの賃料予測を行う。
 

2. 名古屋オフィス市場の現況

2. 名古屋オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
全国主要都市のオフィスの空室率は、2020年4月の緊急事態宣言の発令以降、いずれの都市も上昇傾向で推移している。

三幸エステートによると、名古屋市の空室率(2021年3月時点)は3.5%となり、前年比+0.8%上昇した(図表-1)。空室率をビルの規模別1にみると、「大規模1.8%(前年比+0.6%)」、「大型3.6%(同+0.9%)」、「中型5.3%(同∔1.0%)」、「小型6.6%(同+0.8%)」となり全ての規模で上昇に転じた(図表-2)。景気悪化やテレワークの普及など先行き不透明感が広がるなか、オフィス需要は縮小しており、まとまった面積の募集では、入居テナントが決定するまでに時間を要する事例が増えている。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 名古屋オフィスの規模別空室率
全国主要都市のオフィス成約賃料は、これまで空室率の低下を背景に上昇基調で推移していた。しかし、2020年下期はオフィスの解約や事業拠点の縮小・一部閉鎖などにより空室面積が増加し、賃料にも頭打ち感がみられる。名古屋市の2020年下期の成約賃料は、前期比▲3.5%、前年同期比▲3.7%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2020年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、仙台市を除く全ての都市で空室率が上昇した。しかし、賃料については上昇と下落で分かれる結果となった。名古屋市は、空室率が上昇し、賃料は前年比マイナスとなった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した名古屋市の賃料サイクル2は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いていたが、2021年上期は「空室率上昇・賃料上昇」局面に、翌2021年下期には「空室率上昇・賃料下落」局面に移行した(図表-5)。
図表-4 2020年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 名古屋オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、名古屋ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、オフィスの新規供給量が限定的であったことに加え、築古ビルの滅失が進んだことで、97.5万坪(2019年末)から97.1万坪(2020年末)へと▲0.4万坪減少した。また、テナントによる賃貸面積は、オフィス需要が縮小し、95.6万坪(2019年末)から93.4万坪(2020年末)へと▲2.2万坪減少した(図表-6、図表-7)。

この結果、2020年末の名古屋ビジネス地区の空室面積は3.7万坪(前年比+1.8万坪)となり、前年から倍増した(図表-6)。
図表-6 名古屋ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 名古屋ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2020年末時点で最も賃貸可能面積が大きいエリアは、「名駅地区(36.0%)」で、次いで「栄地区(27.6%)」、「伏見地区(26.6%)」、「丸の内地区(9.8%)」の順となっている(図表-8)。エリア別の増減をみると、「栄地区」(前年比▲0.3万坪)等で減少し、計▲0.4万坪となった(図表-9)。

賃貸面積は、「丸の内地区」を除く、「名駅地区」(前年比▲1.3万坪)、「栄地区」(同▲0.5万坪)、「伏見地区」(同▲0.5万坪)で減少した結果、空室面積は計+1.8万坪増加した。
図表-8 名古屋ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2020年)/図表-9 名古屋ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2020年)
名古屋市のエリア別の空室率(2020年12月末)は、「名駅地区4.9%(前年比+3.4%)」、「伏見地区3.3%(同+1.5%)」、「栄地区3.2%(同+1.1%)」、「丸の内地区2.8%(同▲0.6%)」となり、「丸の内地区」を除く全てのエリアで上昇した(図表-10左図)。

一方、募集賃料は、空室率の上昇に伴い頭打ち感が出ているが、全てのエリアにおいて前年比プラスを維持した。そのなかで、中心地である「名駅地区」は前年比+3.6%となり、上昇率が最も高かった(図表-10右図)。
図表-10 名古屋ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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【「名古屋オフィス市場」の現況と見通し(2021年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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