2021年04月15日

ネット病院の急増(中国)-新型コロナの経験をどう活かすのか。

保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   片山 ゆき

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1――地域の中核病院(2級病院)のおよそ8割は、何らかのオンラインサービスを開始

2021年3月、中国においてインターネット病院(以下、ネット病院)が1100病院を超えたという1。また、(地域の中核病院にあたる)2級病院のうち、7700以上の病院でオンライン予約など何らかのオンラインサービスの提供が可能となったとした。2019年末のデータ2となるが、全国の2級病院の数は9,687カ所となっており、そのおよそ8割に相当する。
 
加えて、上掲の発表では、医療・健康に関する情報の共有化、プラットフォームの構築も進んでいるとした。政府による国民の健康や医療にかかわる情報のプラットフォームが基本的に完成し、実験的な運用段階に入っている。また、7000を超える2級以上の公立病院が、それぞれ所属している省(自治区・直轄市など)の医療情報プラットフォームに接続しており、2200を超える3級の公立病院では院内情報の相互共有が基本的に完了している。
 
なお、2019年末時点で、全国の医療関連機関数は合計100万7,545カ所あるが、そのうち、94.7%は基層医療衛生機関で占められている。基層医療衛生機関は、(高度医療ではなく)基本的な医療サービスを提供する医療機関で、地域を管轄する社区内に多くが設置されている。日本の病院にあたる医院は全国に34,354カ所設置され、そのうち公立病院は11,930カ所と、全体の34.7%を占めている。中国では近年、民営病院が急増しており、数の上では公立病院のおよそ2倍となっている。ただし、公的医療保険の適用対象となる医療機関は公立病院が中心となっている3
 
1 国家衛生健康委員会 宣伝司「国家衛生健康委員会2021年3月23日例行新聞発布会文字実録」、2021年3月23日。
なお、2020年11月時点で、ネット病院は600病院を超えたと報道されている(「600多家互聯網医院上線、中国互聯網医療的春天已経到来?」、新華網2020年11月24日)
2 国家衛生健康委員会「2019年我国衛生健康事業発展統計公報」、2020年6月6日。中国では、病床数、診療科の数や設備規模などを基に、病院を3級病院、2級病院、1級病院(更にそれぞれ甲・乙・丙に分類)に大別している。3級病院(大学病院レベル)は、1級病院(地域の最も基層の病院)に比べて上位の病院となる。
3 国家医療保障局によると、2018年末時点で、公的医療保険の適用対象病院のうち、民営病院が占める割合は32.1%としている。国務院新聞弁公室国務院政策例行吹風会、2019年6月12日
 

2――異業種も参入可能、ネット病院とは?

2――異業種も参入可能、ネット病院とは?

では、ネット病院とはどのような病院であろうか。ネット病院は主に2種類あり、1つは既存の病院がオンライン上に開設する病院、もう1つは第三者の企業が既存の病院と連携し、オンライン上に開設する病院である4。いずれにしても、実在している病院や、そこに所属している医師・設備などの資源を提供することが大前提となっている。
 
既存の病院が開設する場合は、病院がすでに保有している医師、設備、技術などの資源をオンライン上でそのまま提供することになる。病院は例えばIT企業などと連携することで、アプリ開発や診療データなどのデジタル化など環境を整え、オンライン上でサービスを提供する。ユーザーは、他地域や遠く離れた大規模病院、高度な専門病院などの問診、診療予約などオンラインサービスを利用することができる。
 
一方、第三者の企業が既存の病院と連携し開設する場合、企業側には、オンラインで医療や健康に関するサービスを提供するヘルステック企業、医薬・医療機器メーカーなどがある。また、保険会社やIT企業など異業種からの参入も可能となっている。企業側は各地の中核病院や更に上位の病院など複数の病院と連携することで、ユーザーの利便性向上やサービスの多様化などに努めている。連携の方法としては、病院との業務提携のみならず、企業側による病院の買収、新設も含まれる。
 
現時点で、オンラインで提供される医療サービスについては、慢性病患者の再診や、日常生活でよく見られるような一部の軽い症状に限定されている5。詳しい診察や検査が必要な場合は、アプリやネット上で予約をして、病院に赴くことになる。
 
4 国家衛生健康委員会、国家中医薬管理局「互聯網医院管理弁法(試行)」、2018年7月
5 国家衛生健康委員会、国家中医薬管理局「互聯網診療管理弁法(試行)」、2018年7月
 

3――普及の背景には、医療の地域格差の改善…

3――普及の背景には、医療の地域格差の改善、診療の効率化を目指した国による促進と、新型コロナでのオンライン診療のプレゼンス向上が影響

中国において、オンライン診療やヘルスケアサービスが普及する背景には、まず、歴史的に地域間の医療格差が大きい点が挙げられる。高度な治療や設備の整った病院は都市部や所得の高い沿海部の都市に集中していた。また、基層病院のサービスレベルの問題もあり、上位病院に患者が集中するなども大きな問題となっていた。このような状況に対して、政府は2015年以降、実験的な取り組みを始め、インターネット+戦略においても医療・健康(公共サービス)を重要分野の1つに位置付けている。ネット病院の開設の規制緩和もその一環で、2018年に条件などが明示されたこともあって、開設の申請などが徐々に増加していた。
 
特に、新型コロナ感染拡大期には、地方政府やヘルステック企業が発熱に関する相談や、慢性病の高齢者の再診、薬の配送などの業務についてオンラインサービスを提供し、通院による二次感染の防止、医療機関の負担軽減に大きく寄与した。動脈ネットによる「インターネット医院政策報告」によると、新型コロナ感染拡大期の2019年12月以降、毎月の開設数が増加し、感染拡大のピーク期であった2020年2月にはそれまで最多の65病院が開設している(図表1)。同報告によると、2月は各省の衛生健康委員会が開設申請の受理後、翌日や当日中に許可を下したケースも報告されている。
図表1 ネット病院開設数(月毎)

4――大手プラットフォーマーによる…

4――大手プラットフォーマーによる、ネット病院を活用した患者の回復までのトータルソリューションの提供。

大手プラットフォーマーもネット病院を開設し、診療前から回復までのトータルソリューションを提供している。例えば、EC最大手のアリババ・グループや京東集団もネット病院、遠隔医療センターなどを開設している。傘下にヘルスケアやヘルステック企業を抱え、オンライン上で簡単な問診、実際の病院に赴くための診察予約、電子カルテ・処方箋の発行、処方薬の配送などに加えて、北京、上海、江蘇省などの地域では、オンライン診療の保険適用化(オンライン決済)も進んでいる。更に、治療後の経過管理や、リハビリサービスの提供など、疾病の発生から回復までのすべてのサービスの提供を目指している。
 
民間企業の取り組みに加えて、政府側としても省レベルでの国民の健康データや診療・処方データを共有化することで、診察の効率化やプライマリ・ケアの促進を目指している。中国は少子高齢化が急速に進展しており、公的医療保険による給付や、制度維持のための財政補填が急増している。地域の病院間での診療データの共有化は、高齢者の慢性病治療やその経過管理の点においても、医療財政への負担軽減や、医療機関の役割分担の明確化といった点においても寄与している。例えば、慢性病の経過管理については、コストの高い3級病院など上位の病院から、地域の1級などよりコストの低い基層病院への分散も企図されている。
 

5――ネット病院の運営には課題が山積み

5――ネット病院の運営には課題が山積み

このように、ネット病院の開設は増加しているが、運営に当たっては今後検討が必要な課題もでてきている。

例えば、医薬ネットによる「2020中国インターネット病院発展研究報告」では、ネット病院の運営に関する問題を調査報告している(図表2)。それによると、実際の運営においては、まず、オンライン上の診察におけるレベルやその質をどこまで担保できるのかという問題がある。現時点では監督・管理規制はなく、罰則規定もない。サービス提供にあたっては病院側にその責任がすべて委ねられている状態にある。

また、オンライン診療として再診は可能としているが、どうやって再診と見極めるかといった問題がある。国は再診に際して、患者の病歴に関する資料の提出を求めているが、オンライン診療で再診と判断するための規準が未整備であったり、そもそもこれまでの診断や治療の正確性をどう判断するのかといった問題もある。

更に、ネット病院の強みはオンラインでほぼすべてのサービスを受けられる点にあるが、例えば、医療費の決済に際して、オンライン診療の医療保険適用が完了していない地域があるなど、一連のサービスをオンラインですべて完了できないケースが散見される点である。
図表2 ネット病院の運営に関する問題(複数回答)
このように、ネット病院は増加しつつあるも、実際の運営面では多くの課題が出てきている。今後、ネット病院を、既存の病院や医療体制が抱える問題の緩和に正しく寄与させていくには、法整備や業界ルールの制定など一定の時間をかけた対応が必要となるであろう。
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保険研究部   准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の民間保険・社会保障制度

(2021年04月15日「基礎研レター」)

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