2021年04月07日

2020~2022年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.289]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―2四半期連続の大幅プラス成長

2020年10-12月期の実質GDPは、前期比2.8%(年率11.7%)と2四半期連続のプラス成長となった。

世界的な経済活動の持ち直しを背景に輸出が前期比11.1%の高い伸びとなり、外需寄与度が前期比1.0%(年率4.4%)と成長率を大きく押し上げた。経済活動の制約が緩和される中でGo Toキャンペーン事業による後押しもあって、民間消費が前期比2.2%と2四半期連続で増加し、コロナ禍で大きく落ち込んでいた設備投資が同4.3%と3四半期ぶりに増加したことなどから、国内民間需要も堅調に推移した。さらに、政府消費がGoTo トラベル事業による押し上げから前期比1.8%の高い伸びとなったことも成長率を押し上げた。

2020年10-12月期は7-9月期( 年率22.8%)に続く高成長となり、過去最大のマイナス成長となった4-6月期(年率▲29.3%)の落ち込みの9割強を2四半期で取り戻した。ただし、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2020年10-12月期の実質GDPは▲3.1%、民間消費は▲5.3%低い水準にとどまっており、経済活動の正常化にはまだ距離がある。

2―再び落ち込む対面型サービス消費

個人消費は2020年5月を底に持ち直していたが、2020年末以降は再び弱い動きとなっている。「家計調査(総務省統計局)」の実質消費支出を形態別に見ると、財については巣ごもり需要の拡大や特別定額給付金の効果からコロナ前の2019年平均とほぼ同水準で推移している。一方、サービスは緊急事態宣言時の落ち込みが非常に大きかったことに加え、その後の戻りも弱い。特に、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)については、2020年4、5月にコロナ前の2割程度にまで落ち込んだ後、Go To キャンペーン事業による後押しもあって、10月には6割程度まで持ち直したが、Go To キャンペーン事業の停止、飲食店の営業時間短縮要請、緊急事態宣言再発令の影響から、2021年1月には3割強の水準に逆戻りした[図表1]。
[図表1]対面型サービス消費は再び落ち込む
また、2020年7月に開始された「Go Toトラベル事業」の利用人泊数は12月までに約8,781万人泊、割引支援額は約5,399億円に達し、宿泊者数の持ち直しに大きく寄与してきた。2020年7月から12月の延べ宿泊者数の半分以上がGo Toトラベル利用によるものであった。しかし、新型コロナウイルス陽性者数の増加を受けて、11月下旬から12月中旬にかけて一部の地域でGo Toトラベルが停止された後、12/28からは全国で一斉停止となった。この結果、延べ宿泊者数は2020年11月の前年比▲31%から12月に同▲41%と減少幅が再拡大した後、2021年1月には同▲61%と減少ペースがさらに加速した[図表2]。
[図表2]Go Toトラベルの停止で宿泊者数の減少幅が再拡大

3―実質GDP成長率の見通し

2021年1-3月期は緊急事態宣言が再発令されたことを受けて、再びマイナス成長となる可能性が高い。前回の緊急事態宣言時は、飲食店、遊興施設、百貨店などが全面休業に追い込まれたのに対し、今回は飲食店の営業時間短縮、大規模イベントの人数制限など規制の範囲が狭い。また、前回の緊急事態宣言では、当初7都府県に限定されていた対象地域がその後全国に拡大されたが、今回は対象地域が限定されている。

緊急事態宣言は、1都3県( 東京、神奈川、千葉、埼玉)で3/7から3/21まで延長された。しかし、緊急事態宣言下にもかかわらず小売・娯楽施設の人出が戻りつつあることからも分かるように、飲食、旅行など特定の分野を除けば、緊急事態宣言延長による経済への悪影響は限定的にとどまるとみられる。

ただし、経済活動の制限自体が前回の緊急事態宣言時より限定的だとしても、経済の耐久力が対面型サービス業を中心に大きく低下していることには注意が必要だ。新型コロナの影響を強く受けている宿泊業、飲食サービス業の経常利益は、2020年1-3月期から10-12月期まで4四半期連続で赤字となっており、緊急事態宣言そのものによるインパクトが小さかったとしても、事業の継続が不可能となり、廃業や倒産に追い込まれる企業が一気に増え、失業者数が急増するリスクは前回の緊急事態宣言時よりも高くなっている。

2021年1-3月期は前期比年率▲6.0%と3四半期ぶりのマイナス成長を予想するが、落ち込み幅は前回の緊急事態宣言時を大きく下回るだろう。民間消費の落ち込みが当時の3分の1程度(2020年4-6月期:前期比▲8.4%、2021年1-3月期:同▲2.8%)にとどまることに加え、2020年4-6月期に成長率を大きく押し下げた外需が成長率の押し上げ要因となるためである。

2020年末頃から欧米で再び経済活動制限の動きが広がっているが、その影響を強く受けているのは主としてサービス業であり、ペントアップ需要や巣ごもり需要の拡大などから財の消費は総じて堅調で、製造業の生産活動はしっかりしている。多くの国で工場が操業停止となり、輸出入が急激に落ち込んだ2020年春とは状況が大きく異なっている。

オランダ経済政策分析局が作成している世界貿易量は、2020年春頃には前年比で▲15%程度と実質GDPを上回る落ち込みとなった。しかし、その後は世界的な生産活動の好調を受けて急回復し、年末にかけて前年を上回る水準を取り戻した[図表3]。

2020年10-12月期に続き2021年1-3月期もマイナス成長が予想される欧州向けの輸出は弱い動きとなることが見込まれるが、米国、中国向けが好調を維持することで輸出全体は引き続き堅調に推移することが予想される。
[図表3]世界の実質GDPと貿易量の関係
2021年4-6月期は緊急事態宣言の解除を前提として、前期比年率5.8%の高成長となろう。その後も経済正常化の過程で当面は潜在成長率を明確に上回る成長が続くことが予想されるが、経済活動の水準がコロナ前に戻るまでには時間を要するだろう。

緊急事態宣言が解除されたとしても、ソーシャルディスタンスの確保等が引き続き対面型サービス消費を抑制することに加え、コロナ禍における企業収益の悪化や雇用、所得の減少が先行きの需要の下押し圧力となるためである。さらに、需要が大きく落ち込んだ状態が続いた業界では、コロナ禍で生じた供給力の低下が将来の需要の回復を遅らせる可能性がある。たとえば、飲食業、宿泊業では、倒産や企業規模の縮小に伴う店舗数、客室数の減少が中長期的な需要の下押し要因となるだろう。

また、2021年度以降はワクチンの普及によって新型コロナウイルスの感染者数が一定程度減少することが期待される。しかし、感染者数がゼロになることは考えにくく、気温の低下によってウイルスが活性化し免疫力が低下する冬場には感染者数がある程度増加することは避けられない。その場合、感染拡大防止に向けた公衆衛生上の措置がとられることによって個人消費を中心に経済活動が停滞する可能性がある。

実質GDP成長率は2020年度が▲4.9%、2021年度が3.7%、2022年度が1.7%と予想する。実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2022年4-6月期となるが、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年度までずれ込むだろう[図表4]。
[図表4]実質GDPが元の水準に戻る時期
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年04月07日「基礎研マンスリー」)

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