2021年03月10日

健康投資管理会計ガイドラインについて〔4〕-健康投資管理会計ガイドラインの第9章・第10章

小林 直人

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1――「はじめに」

前稿「健康投資管理会計ガイドラインについて〔3〕1」まで3稿にわたり、経済産業省のホームページをもとに、健康投資管理会計ガイドライン2(以下、「ガイドライン」。)の「8.社会的価値の考え方」(第8章)までの内容について紹介した。

本稿では、前項までに続き、「9.健康投資管理会計の作成と活用」(第9章)と「10.健康投資管理会計に関する情報の開示」(第10章)の内容について経済産業省のホームページをもとに紹介する。
 
1 拙稿「健康投資管理会計ガイドラインについて〔3〕」2021年2月17日(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/66968_ext_18_0.pdf?site=nli)。
2 経済産業省「『健康投資管理会計ガイドライン』を策定しました」(2020年6月12日)(https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200612001/20200612001.html, 最終閲覧2021年2月10日)、経済産業省「『健康投資管理会計ガイドライン』について」(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoutoushi_kanrikaikei_guideline.html, 最終閲覧2021年2月10日)。
 

2――健康投資管理会計ガイドラインの内容

2――健康投資管理会計ガイドラインの内容

ガイドラインの「9.健康投資管理会計の作成と活用」(第9章)と「10.健康投資管理会計に関する情報の開示」(第10章)の内容を見てみよう。
1|健康投資管理会計ガイドライン「9.健康投資管理会計の作成と活用」(第9章)
健康投資管理会計の作成にあたっては、ガイドラインの第1章から第8章までに示した考え方を踏まえ、経営層と対話を行いつつ、人事・労務管理部門、健康管理部門に限らず全社的に直接部門・間接部門が協力し、各種情報を集計することが有効である。また、外部に公表するための健康投資管理会計に関する情報を整理する際には、上記に加えて広報部門、IR(投資家向け広報)部門等が協力することで、より適切な情報開示が行えると考えられる。外部公表情報は、内部管理のために詳細に把握されたものと同一の情報源によるが、それらの中から外部公表のために特定の情報を要約、又は整理したものである。

健康投資管理会計を企業等の内部で作成・管理するにあたっては、健康投資管理会計作成準備作業用フォーマットを活用することができる。健康投資管理会計作成準備作業用フォーマットは、健康投資管理会計を作成する際に活用できる作業用フォーマット(Excel 形式)であり、「戦略マップ」、「健康投資作業用シート」、「健康投資シート」、「健康投資効果シート」、「健康資源シート」の 5 シートで構成され、それぞれの記入例も付されている。

健康経営®3に関する戦略を既に策定している企業等の場合とそれ以外の企業(健康経営の取組を進めようとしている段階であり、既に実施している健康投資施策の把握・体系化から始める場合や、段階的にリソースを投入することを検討している場合)ごとに、図表1のように健康投資管理会計を作成し、内部機能・外部機能に活用することが想定される。

健康経営に関する戦略を既に策定している企業等以外の企業の場合は、性急に全てのシートの作成を目指すのではなく、まず「健康経営によって解決したい経営課題/従業員等の健康課題」の把握と、具体的に実施している健康投資施策の把握(棚卸し)を行ってから、戦略マップを作成し、その後、それぞれのシートで把握・測定が容易な項目から作成していくことが想定されている。
図表1:健康投資管理会計作成の流れと活用イメージ
 
3 「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 
2健康投資管理会計ガイドライン「10.健康投資管理会計に関する情報の開示」(第10章)
(1) 情報開示の意義・目的
企業等は、持続的な成長による中長期的な企業価値の向上に向けた取組として、様々なステークホルダーとの協働が重要である。

こうした観点から、企業等において健康経営に取り組むことは重要であり、その情報を十分に公表し、幅広いステークホルダーへ理解をいただくことで、例えば、外部からの評価の向上といった恩恵が得られると考えられる。こうした効果については、健康経営の実施そのものから得られるものではあるものの、外部に適切な情報を開示することでその効果をより大きくすることが期待できる。

(2) 情報開示に関する組織体制について
取組の開示については、その情報の信頼性を確保することが大原則であり、公開に当たっては情報の正確性等について 、「健康投資管理会計の要件」に記載のある原則に基づき、取り組む必要がある。

情報を開示する際には、上場企業や大規模な非上場企業等であれば取締役会や監査役等、小規模な非上場企業等であれば経営者等といった人材も活用した適切なガバナンス体制のもとで適切な議論がなされていることを前提に、開示することが重要である。こうした観点から、情報の開示を行う際には開示される情報がどういった体制の確認に基づいているのかという点についても開示することに十分な意義があるといえる。なお、開示の内容に合わせて、社内の産業医の監修を得る等、医療関係者のアドバイスに基づいた開示はより信頼が高まるものと考えられる。

開示における監査法人等の外部専門家の活用について解説が付されている。解説では、監査法人や中小企業診断士等を活用した開示は外部専門家からの助言が入った、より信頼度の高い開示となること、外部専門家の活用は十分な情報が整理されてから行うべきであることが記されている。
図表2:開示手法 (3) 開示内容と開示手法について
開示をする際の内容としては、健康経営戦略の開示から行うことが重要である。それ以外の健康投資、健康投資効果、健康資源、企業価値、社会的価値といった要素については、取組が十分に行われ、熟度が高まってから開示する等、取組レベルに応じて丁寧なプロセスを踏まえて開示することが重要である。

開示手法には図表2の方法があると考えられ4、開示する際には、上場・非上場の別や取組方針、期間に合わせて、各企業等が判断することとなる。
 
4 健康経営銘柄の選定および健康経営優良法人(大規模法人部門)の認定に使用される健康経営度調査における健康経営度調査の社外への開示についての設問(Q13 社外公開)では、ガイドラインで情報開示する方法(媒体)が示されたことに沿って、回答する開示媒体の選択肢が追加されている。開示媒体の選択肢として、昨年度に記載されていたアニュアルレポート、統合報告書、CSR報告書、コーポレート・ガバナンス報告書、海外投資家向けに多言語対応した各種開示文書、健康経営宣言・健康宣言、上記以外の文書・サイトの7媒体に加えて、有価証券報告書、株主総会資料、ディスクロージャー誌の3媒体が追加されている (経済産業省「令和2年度健康経営度調査」(サンプル)(https://www.meti.go.jp/policy/monoinfo_service/healthcare/downloadfiles/2020chosahyo_sample.pdf, 2021年2月8日最終閲覧))。
 

3――おわりに

3――おわりに

これまで4稿にわたり、ガイドラインについて紹介してきた。

ガイドラインでは「おわりに」の中で、「本ガイドラインにおいては、具体的な健康経営効果の金銭化を含めた具体的な効果の計測手法や外部開示の具体的なフォーマットの提示に至っていない」とし、「人的投資全般に言えることではあるが、非財務情報に関する効果の計測や開示方法についてはまだまだ社会的にも検討段階にある。本ガイドラインも活用しながら、様々な企業等が健康も含めた人的投資の開示に努めていけば、こうした指標についても社会的にも共通指標やフォーマット等も定まってくると考えている」としている。

また、新型コロナウイルス感染症により、健康意識やテレワークをはじめとした就業環境にも変化が生じているだろうし、企業等にとっても健康経営の新たな課題が生じていよう。

今後、健康経営に係る指標や共通の尺度がさらに定まっていくことと、各企業等を中心としつつも、より広く世の中に健康経営が浸透し、進展していくことを期待したい。
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小林 直人

研究・専門分野

(2021年03月10日「基礎研レター」)

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