2021年02月08日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(5)-助言内容(比例性)-

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局)が2020年12月17日に、EC(欧州委員会)にソルベンシーIIレビューに関する意見を提出したと公表1した。このテーマに関しての初回のレポートでは、このEIOPAの意見書の全体概要と、Insurance Europe及びAMICEの意見表明、さらに保険業界とは異なるスタンスからの批判的な意見を有する欧州議会議員の意見の内容を報告した。また、このシリーズの2回目のレポートから、EIOPAの意見書の中の助言内容について報告しており、これまで、「長期保証(LTG)措置及び株式リスクに関する措置」、「技術的準備金」、「自己資本」、「SCR(ソルベンシー資本要件)」、「MCR(最低資本要件)」及び「報告と開示」について報告した。

今回のレポートでは、EIOPAの意見書の中の助言内容のうち、「比例性」について報告する。  

2―EIOPAの意見書からの助言―比例性

2―EIOPAの意見書からの助言―比例性

1|主な特徴
EIOPAの比例性に関する助言の主な特徴として、以下の点が挙げられている。

・特に低リスクの会社に関して、ソルベンシーIIの3つの柱全体の比例性を高める。
・明確性、予測可能性、リスク感応度、監督上の対話、及び立証責任の逆転を特徴とする比例原則を適用及び監督するための新しいプロセスを導入する。
・監督上のレビュープロセスに組み込まれた比例性の有効性を高める。
・ソルベンシーIIの3つの柱にまたがる比例措置の使用に関する透明性を高める。
2|概要
概要は、以下の通りである。

EIOPAは、同時に適用をリスクベースに保ちつつ、比例原則の適用をより自動化し、保険業界により多くの予測可能性と確実性を提供することを目的として、比例原則を適用及び監督するための新しいプロセスを導入するために、ソルベンシーIIフレームワークを修正することを提案している。

特に、比例措置を適用するのに適格な「低リスクプロファイル会社」を特定する明確な定量的基準を法的枠組みに導入することが提案されている。このような基準は、会社のリスクの性質、規模、及び複雑さに関する現在の前提条件の適用を運用可能にする。監督者は、比例性適用に異議を申し立てる責任を保持する。

さらに、2段階のアプローチ、すなわち、低リスク会社の基準に準拠していると信じる会社からの事前通知と、そのような分類が監督者によって異議申し立てされない場合の会社が使用した比例措置の事後報告、に基づいた低リスクプロファイル会社に関しての新しいプロセスが提案される。

監督当局との対話後、比例措置を適用する権利を依然として有している低リスクプロファイル会社の基準に準拠していない会社には、異なるプロセスが適用される。

EIOPAは、ソルベンシーIIの枠組みで具体的に特定されていない比例措置の使用に関する監督当局の役割を法的枠組みで明確にすることを提案している。

最後に、EIOPAは、加盟国ごとの比例原則の適用に関する年次報告書を発行することを提案している。これは、会社による比例措置の使用に関する上記の新しい定期報告書によって提供される。この報告書は、ソルベンシーIIにおける比例原則の全体的な使用に関する監督コミュニティならびに会社及びその他の利害関係者の認識を高めることになる。

なお、ソルベンシーIIから除外されるための臨界値も引き上げられる。
3|ソルベンシーIIから除外されるための臨界値
ソルベンシーII指令第4条で定義されている特定の会社に対するソルベンシーIIからの除外の臨界値について、以下の改訂を提案している。

・(直接の)技術的準備金に関連する臨界値を2倍にする。
・加盟国が、現在の500万ユーロから最大2500万ユーロの間の直接総保険料収入を参照する臨界値を設定するオプションを認める。現在の臨界値はデフォルトオプションとして保持される。

具体的には、以下の通りである。

8.1.ソルベンシーIIから除外されるための臨界値
8.1 EIOPAは、ソルベンシーII指令第4条で定義されている特定の会社に対するソルベンシーIIからの現在の除外を維持し、ソルベンシーIIの3つの柱全体だけでなく、比例の新しいフレームワークを提案することにより、比例の適用を強化することを提案している。

8.2 EIOPAは、ソルベンシーII指令の次の修正案を提案している。

8.3第4条に定められた臨界値を次のように改訂する。
・(直接の)技術的準備金に関連する臨界値を2倍にする。

・加盟国が、現在の500万ユーロから最大2,500万ユーロの間の直接総保険料収入を参照する臨界値を設定するオプションを許可する。現在の臨界値はデフォルトオプションとして保持される(第4条(1)(a)の現在の草案に変更はない)。代わりに、もし、そのような臨界値が低リスクプロファイルで残りの市場シェアを代表する重要な数の会社に適用される場合に、パラグラフ1(a)で定義 されたものとは異なる臨界値を採用するためのオプションを加盟国に提供する新しいパラグラフを追加することが提案される。そのような臨界値は2,500万ユーロを超えてはならない。(具体的な第4条草案の提案については、分析背景文書の付録8.2を参照のこと)

8.4 EIOPAは、第6条及び第8条の草案のマイナーな修正も提案している(具体的な草案の提案については、分析背景文書の付録8.2を参照のこと)。

4|比例性を適用するための新しいフレームワーク原則
(1)低リスクプロファイル会社を特定するための基準
「低リスクプロファイル会社」とは、過去2会計年度において、7つの基準(総技術的準備金に対する金利リスクサブモジュールの総SCRの比率、本国の管轄外での年間総保険料の比率、総技術的準備金額、総投資額における非伝統的投資の割合等)を全て満たす適格会社である、としている。

(2)比例原則を適用するための新しいプロセス
EIOPAは、低リスクプロファイル会社の基準に準拠する会社の場合、2段階のアプローチを提案している。
・低リスク会社の基準に準拠していると信じる会社からの事前通知
・そのような分類がNCAによって異議を唱えられなかった場合、全ての会社で使用された比例測定の事後報告

(3)ソルベンシーIIフレームワークで具体的に特定されていない比例措置の使用に関する監督当局の役割
SCRの監督における比例原則の適用に関するEIOPA監督声明から学んだ教訓とそのメンバーとの話し合いに続いて、EIOPAは、現在及び将来の比例措置が考えられる全ての措置の「クローズリスト」と見なされるべきではなく、監督者は、監督者レビュープロセス(SRP)に比例原則を適用し、ソルベンシーIIフレームワークで明確に言及されていないが、会社が比例的に要件に準拠できるようにする権限を持つことを、ソルベンシーIIフレームワークで明確にするよう助言している。

また、監督者によって許可された追加の比例措置は、政策決定活動に言及して、監督者によって導入された「新しい」比例措置と見なされるべきではなく、それらはむしろ、監督中に指令で予見された比例原則の実施と見なされるべきである、としている。

(4)加盟国による比例措置の使用に関するEIOPAの報告書
EIOPAは、全体像を把握するために、ソルベンシーIIの3つの柱全てに比例原則を使用することを検討することにより、報告の免除/制限に関する現在のEIOPA報告の範囲を拡大することを提案している。

これは、異なる加盟国での比例措置の使用に関する監督者のコミュニティの認識を高め、比例原則の使用に関する会社及び全ての利害関係者の認識を高め、比例原則を使用できる分野/要件とその理由をより適切に説明し、最終的には、単一市場と公平な競争の場を促進する等のベネフィットを与えることになる、としている。

8.2.比例性を適用するための新しいフレームワーク原則
8.5 EIOPAは、第2の柱の要件に関して監督当局による遵守の監督を行うことにより、比例原則の適用の枠組みを改善するために、ソルベンシーIIに以下の修正を提案している。

低リスクプロファイル会社を特定するための基準と監督当局の役割
8.6 EIOPAは、ソルベンシーIIフレームワークに、以下の適格性と定量的基準を導入することを提案している。

8.7低リスクプロファイル会社と見なされる適格な会社は、全て保険及び再保険会社であり、次のパラグラフで報告される基準を満たし、純粋な再保険会社ではなく、(部分的又は完全な)内部モデル及び会社を使用してソルベンシー資本要件を計算しておらず、 グループのトップでない会社(グループのトップではない関連会社は、低リスクプロファイル会社と見なすことができる)である。

8.8低リスクプロファイル会社は、前のパラグラフで定義されているように、過去2会計年度に次の7つの基準を全て満たす適格会社である。
1)総技術的準備金に対する金利リスクサブモジュールの総SCRの比率が5%以下の生命保険会社。この基準は、生命保険事業が重要である場合にのみ、生命保険及び損害保険の両方の活動を追求する会社に適用される。

2)投資収益率が平均保証金利よりも高い、インデックス/ユニットリンク事業を除く生命保険会社及びコンバインドレシオが100%未満の損害保険会社。生命保険又は損害保険の両方の活動を追求する会社は、生命保険又は損害保険の両方の基準を満たす必要がある。2つのタイプのビジネスのいずれかが重要でない場合、生損保兼営会社は、そのタイプのビジネスに関する基準を適用することは求められていない。

3)本国の管轄外で、年間総保険料の5%を超えて引受しない会社

4)総技術的準備金が10億ユーロ以下の生命保険会社、及び総保険料(GWP)が1億ユーロ以下の損害保険会社。生命保険と損害保険の両方の活動を行う会社は上記の両方の基準を満たすことが求められる。

5)海上、航空及び運送、又は信用及び保証の事業分野において、年間総保険料の30%を超えて引受していない損害保険及び生損保兼営会社

6)非伝統的投資に総投資額の20%を超えて投資していない(つまり、伝統的投資は総投資額の少なくとも80%を占める必要がある)会社。この点の目的のために、伝統的な投資は、債券、株式、現金及び現金同等物、預金と見なされ、総投資は、ユニットインデックスにリンクされた契約をカバーする投資を除く全ての投資と見なされる。(自己使用のための)不動産、(自己使用のための)工場と設備、(自己使用のために建設中の)不動産を除き、デリバティブを含む。

7)総保険料で測定して、受け入れられた再保険が50%以下である会社

8.9キャプティブ会社は、その事業の典型的な国際的性質により、殆どの場合、再保険に基づいており、国境を越えた(基準3)及び再保険の基準(基準7)を満たす必要はない。

8.10会社が2会計年度連続して必要な基準の少なくとも1つに準拠せず、翌年の低リスクプロファイル会社と見なすことができなくなった場合、EIOPAはケースバイケースのアプローチに従い、会社の組織への影響とそのリスクプロファイルの変更を考慮して、何らかの比例措置を継続して使用する権利があるかどうかを評価するために、当該会社との対話に入る、ことを提案している。

8.11最後に、基準の説明を比較的短く簡素に保つために、EIOPAは、いくつかのEIOPAガイドラインのリリースとともに追加の運用ガイダンスを提供する必要があると考えている。

比例原則を適用するための新しいプロセス
8.12 EIOPAは、低リスクプロファイル会社の基準に準拠する会社の場合、次の2段階のアプローチを提案している。
・8.7から8.9で報告されている低リスク会社の基準に準拠していると信じる会社からの事前通知(承認又は管理プロセスではない)。

・そのような分類がNCAによって異議を唱えられなかった場合(つまり、監督者が事前通知に反応しなかった場合)、全ての会社(即ち、低リスクプロファイル会社とそうでない会社)で使用された比例措置の事後報告(期限と形式については話し合われる)。

8.13事前通知に関して、EIOPAは、各国監督当局が低リスクプロファイル会社の通知から1か月以内に対応できることを提案しているが、修正案の発効から最初の6か月以内の通知についてはそのような期間は2ヶ月に延長された。

8.14通知はAMSBによって署名され、以下を含む必要がある。
・委任規則で定義された基準への準拠の証拠

・会社は、ビジネスモデル又はリスクプロファイルに重大な影響を与えるような戦略的変更を計画していないという宣言

・可能であれば、会社が実施することが想定される比例措置、特に慎重な決定論的評価、主に、較正のための慎重に調和した削減された一連のシナリオとアドホックな確率論的補足を使用する計画があるかどうか、の早期特定

・その他の定性的情報

会社は、それ自体のリスクプロファイルに関する重要事項を考慮する。

8.15上記の事後報告の目的で、EIOPAは、関連する会計年度に使用された全ての比例措置のリストを含む新しいテンプレートを年次定量報告テンプレートに含めることを提案している。

8.16事前通知とは別に、監督者は、事前通知後に低リスクプロファイル会社の分類に異議が唱えられていなくても、比例措置の使用に異議を申し立てる可能性がある。

8.17低リスクプロファイル会社の基準に準拠していない会社​​の場合、別のプロセスが適用される。

8.18一般的に言えば、いくつかの会社が低リスクプロファイル会社の新しい基準に準拠しない場合が2つあるが、同時に、比例原則の適用を事前に除外すべきではない。

1)非常に具体的なリスクプロファイルを持つ会社であり、重要でないリスクに関して比例原則を適用することを意図した、低リスクプロファイル会社又は中高リスクプロファイル会社を特定する基準によって捕捉されていない。

2)第1の柱の要件に簡素化を適用することをいとわない会社

8.19前のパラグラフの最初のケースでは、(通知プロセスではなく)承認プロセスが異なるタイムラインと文書化要件で適用される(つまり、会社による通知から2か月、助言で提案された修正の発効の最初の6ヶ月以内は通知の期間は4か月に延長される)。さらに、これらの会社は、リスクプロファイルを説明し、「低リスクプロファイル会社」のステータスも適用されるべきであると考える理由を適切に説明する必要がある((番号1)の最初のケース)、又はそれらの中高リスクプロファイルにもかかわらず比例原則を使用する権利があるべきである((番号1)の2番目のケース)。

8.20 2番目のケース(つまり、第1の柱の要件に簡素化を適用したい会社)では、現在行われているように、事前の通知/承認なしに、措置の適用を会社に任せることが提案されている。

8.21 EIOPAによって変更が提案されていない、第1の柱の簡素化の使用を除いて、比例性に関して、この助言に含まれるソルベンシーIIへの変更の発効時までにいくつかの比例措置を適用する会社は、比例性に関して、 4会計年度を超えない期間は、新しい要件を適用せずに、そのような比例措置を引き続き適用することができる(移行措置)。この助言で導入された新しい要件は、新しい比例措置に関して適用される。

ソルベンシーIIフレームワークで具体的に特定されていない比例措置の使用に関する監督当局の役割
8.22 SCRの監督における比例原則の適用に関するEIOPA監督声明から学んだ教訓とそのメンバーとの話し合いに続いて、EIOPAは、現在及び将来の比例措置が考えられる全ての措置の「クローズリスト」と見なされるべきではなく、監督者は、監督者レビュープロセス(SRP)に比例原則を適用し、ソルベンシーIIフレームワークで明確に言及されていないが、会社が比例的に要件に準拠できるようにする権限を持つことを、ソルベンシーIIフレームワークで明確にするよう助言している。

8.23監督者によって許可された追加の比例措置は、方針決定活動に言及して、監督者によって導入された「新しい」比例措置と見なされるべきではない。それらはむしろ、監督中に指令で予見された比例原則の実施と見なされるべきである。

8.24言い換えれば、監督者の関係する柔軟性/権限/判断は、要件自体(「何」)の適用ではなく、会社が「どのように」要件を実施しなければならないかに関するものでなければならない。

8.25監督者による言及された権限は、特定の「セーフガード」の下で行使されるものとする。つまり、要件の完全な免除につながるべきではなく、比例措置はソルベンシーIIの一般的かつ包括的な原則に沿ったものでなければならず、第2の柱に対処しない場合は、EIOPA監督コンバージェンスツールによってサポートされなければならない。

加盟国による比例措置の使用に関するEIOPAの報告書
8.26 EIOPAは、全体像を把握するために、ソルベンシーIIの3つの柱全てに比例原則を使用することを検討することにより、報告の免除/制限に関する現在のEIOPA報告の範囲を拡大することを提案している。

8.27比例措置の全体的な使用に関する公開報告書は、以下のベネフィットをもたらすことが期待されている。

・異なる加盟国での比例措置の使用に関する監督者のコミュニティの認識を高める。これは、共通の状況/リスクがより多くの加盟国によって共有される比例措置のさらなる使用を促進し、原則の適用/監督のさらなるコンバージェンスに最終的に貢献することができる。

・EUにおける比例原則の使用に関する会社及び全ての利害関係者の認識を高め、比例原則を使用できる分野/要件とその理由をより適切に説明する。

・ソルベンシーII要件の将来の改訂プロセスを促進したり、他の監督ツールの使用をトリガーしたりするために使用できる要因調査の演習になる(例えば、一部の分野でのピアレビューの開始)。

・最終的には、単一市場と公平な競争の場を促進する。

説明されている比例フレームワークを実装するためのレベル1及びレベル2の条項の起草に関するEIOPA提案については、分析背景文書の付録8.4及び8.5を参照のこと。

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中村 亮一

研究・専門分野

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【EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(5)-助言内容(比例性)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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