コラム
2021年01月29日

新型コロナワクチンの接種にあたって知っておくべきこと-予防接種法の概要

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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新型コロナが収束したと言えるのはどのような状況になったときであろう。新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)を参考にすると、新型コロナが弱毒化し、季節型インフルエンザ並み以下になるか、あるいは集団免疫を獲得したときかである(特措法第21条)1

弱毒化の兆候はないので、集団免疫獲得を期待するほかはない。しかし、自然感染によるものはスウェーデンでうまくいかなかったことから、結局、ワクチンの接種に頼るほかはないことになる。

ワクチン接種については、予防接種法という法律(以下、単に法という)があり、2020年の臨時国会で一部改正され、新型コロナのワクチンにも適用されるようになった。
 
そこで、まずは法の概要からみることとする。

法は、対象となる疾病をA類疾病とB類疾病の二つの類型の下で限定列挙をしている(法第2条)。A類疾病は主に集団予防を目的とするもので、ジフテリア、百日せき、ポリオなどが列挙されている。B類疾病は主に個人の予防を目的とするもので、インフルエンザなどである。

いずれも一定の条件(たとえば一定の対象年齢に達した)が満たされたときに定期の予防接種を行い(法第5条)、疾病まん延予防のため緊急の必要がある場合には臨時の予防接種を行う(法第6条)。予防接種の実施主体は、定期の予防接種については市町村長、臨時の予防接種については都道府県知事又は市町村長である。

A類疾病の予防接種については市町村長等が接種の勧奨を行い(法第8条)、対象者は接種を受けるべき努力義務がある(法第9条)。B類疾病にはこのようなこれらの条文の適用はない(=まったくの任意)。

接種を行った医師等は接種を受けた者に副反応が認められたときは、厚生労働大臣に報告を行わなければならない(法第12条)。副反応により健康被害が発生したと厚生労働大臣が認定した場合には一定の給付が行われる(法第15条)。
 
以下、新型コロナワクチンに関して、詳しく見ていこう。新型コロナワクチンの予防接種は臨時の予防接種(法第6条第1項)として行われる(法附則第7条)2。新型コロナワクチンの予防接種は、厚生労働大臣が都道府県知事を通じて、市町村長に指示を行う。実施主体は市町村長であることになるが3、都道府県知事は市町村長に必要な協力を行うこととされる。つまり国を挙げて接種体制を組むこととなる。

新型コロナワクチンの予防接種は、法第6条第1項の予防接種とみなされることから、接種勧奨の対象となり、対象者は予防接種を受ける努力義務がある4。あくまで努力義務なので、アレルギー体質であるなどにより、接種を希望しないのであれば受けなくてもよい。ただ、集団予防の観点から行われるものであるので、多くの人が受けることが望ましい。

ここで、気になるのが副反応による健康被害である。上述の通り、副反応の症状が出たときは、医師等は厚生労働大臣に報告を行わなければならない。厚生労働大臣は厚生科学審議会に報告を行い、必要な措置を講ずるものとされる(法第13条)。知り合いの医師によれば、医療に絶対はないとのことで、副反応は一定の割合で不可避的に生ずるのであろう。

参考までに、インフルエンザワクチンの予防接種の副反応として、厚生労働大臣に報告すべき症状とその発症期間として定められているものとしては、アナフィラキシー(接種後4時間)、肝機能障害(接種後28日)、間質性肺炎(接種後28日)などがある(予防接種法施行規則(以下、施行規則)第5条)。

それでは不幸にして副反応による健康被害が出てしまったときの補償はどうなっているのであろうか。新型コロナワクチンについては、医療費・医療手当、障害年金、および死亡一時金などが給付されることとされている(法附則第7条第2項、法第16条)。医療費については、診察や薬剤、入院費などが補填されるが、健康保険による給付分は控除される(予防接種法施行令(以下、施行令)第10条)。医療手当は医療を受けた人に対する給付金で、例えば8日以上入院した場合は月額3万7千円の支給が受けられる(施行令第11条第1項第3号)。障害年金は一番重い一級障害となった場合に、年額505万6800円である(施行令第13条第2項第2号イ)。障害5の程度は一級から三級まであるが、三級でも労働が著しい制限を受けるといった水準の障害であり(施行令別表第二)、一時的な症状の発症程度では年金支給の対象とはならない。

最後が死亡時に給付される一時金である。死亡一時金は死亡した方の配偶者、子、父母等の順で給付を受けることとなる(施行令第17条第1項)。一時金の金額は4420万円である(施行令第17条第4項第2号)。

これらの給付金を受けるためには、疾病の発症が予防接種によるものであるとの厚生労働大臣の認定が必要である(法第15条)。新型コロナウイルスについても、施行規則で厚生労働大臣に報告すべき副反応とその発症期間が定められることとなろうが、それに該当する場合は給付金を受けられる可能性は高いのではないか。

これらの給付金では損害賠償として不服である場合は、実施主体である市町村またはワクチン製造業者を民事訴訟で訴えることになる。この点、仮に、ワクチン製造業者が判決により賠償を命じられる場合に備え、ワクチン製造業者に対して国が補填する契約を締結することができる(法附則第8条)。
 
新型コロナワクチンの全国民への接種は、前例のない大規模プロジェクトである。担当の河野大臣は「ロジを担当する」と発言した。ロジとはロジスティクス、もともと兵站という意味である。単に保管、流通するだけではなく、効率的・効果的にワクチンを配分し、接種しなければならないということである。

ワクチンの種類によっては超低温で保管・輸送すべきものもある。接種は成功して当然ということでは全くなく、関係者の並々ならぬ努力があって初めて達成できることである。官だけでなく民間の力も活用しつつ、接種が円滑に進むことを期待したい6
 
1 この場合に、新型インフルエンザ等政府対策本部が廃止される。
2 予防接種の対象者・期間は新型インフルエンザ等政府対策本部の基本対処方針の重要事項として定められる(特措法第46条)。
3 市町村の支弁する費用は国が負担する(法附則第7条第3項)。
4 法第6条第3項による臨時接種、たとえば季節型インフルエンザワクチン臨時接種が行われる場合においては、対象者に接種を受ける努力義務が課されていない。
5 障害は法令上の用語であるため、漢字を使用している。
6 なお、接種の対象者となる順番等については篠原拓也「新型コロナ ワクチンの優先順位-誰からどの順番で接種すべきか?」参照。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2021年01月29日「研究員の眼」)

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