コラム
2021年01月26日

フィボナッチ数列について(その1)-フィボナッチ数列とはどのようなものでどんな性質を有しているのか-

中村 亮一

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はじめに

これまで「黄金比」と「白銀比」等の比率について、3回の研究員の眼で報告してきた。その中で、黄金比は自然界でも見られるが、これは「フィボナッチ数列」と関係している、と述べた。

フィボナッチ数列は、いろいろな分野で現れてくるものであり、大学の入試問題等でも、漸化式を使用した問題等として、勉強した覚えがあるのではないかと思われる。

今回は、このフィボナッチ数列について、3回に分けて報告する。まず今回は、その定義や性質等について説明し、次回以降に、その「フィボナッチ数列」がどのようなところで使用され、どんな場面に現れてくるのかについて報告する。

フィボナッチ数列とは

フィボナッチ数列(Fibonacci sequence」 (Fn) は、次の漸化式で定義されるものである。 

F0 = 0
F1 = 1
Fn+2 = Fn + Fn+1 (n ≥ 0)    〈※〉

これによれば、最初の数列は、以下の通りとなる。

0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, 610, 987, 1597, 2584, 4181, 6765, …

イタリアの数学者レオナルド・フィボナッチ(Leonardo Fibonacci)(本名はレオナルド・ピサノ(Leonardo Pisano)1というが、父の名前のボナッチの息子という意味のfilius Bonacciが短縮されてフィボナッチと呼ばれるようになった)に因んで名付けられた数列である。

フィボナッチは、1202年のその著書『算盤の書』で、アラビア数字の位取り記数法等のシステムを欧州に導入したことで有名であるが、一方でこの著書の中で、以下に述べる兎(うさぎ)の問題で、いわゆる「フィボナッチ数列」の考え方を西洋で初めて紹介したことで、その名を歴史に大きく残すことになった。
 
1 イタリアの都市ピサは「ピサの斜塔」で有名であるが、12世紀から13世紀にかけては商業都市の中心的存在だった。

兎の問題

レオナルド・フィボナッチによる「兎の問題」は、以下のようなものである。
 

・1つがいの兎は、生後2か月後から毎月1つがいの兎を産み、兎が死ぬことはないものとする。この場合に、産まれたばかりの1つがいの兎は1年後に何つがいの兎になるか?


これによると、つがい数の推移は以下の表のようになる。どの月の合計のつがい数も、その前の2つの月の合計のつがい数の和となり、フィボナッチ数が現れてくる。

なお、このオリジナルのフィボナッチの問題では、F0=1、F1 = 1、F =2 となるため、先に述べた現在の一般的なフィボナッチ数列のケースとは、初期値が異なっていることになる。ただし、初期値が異なっていても、以下で述べるようなフィボナッチ数列の性質は変わらない。
つがいの数の推移

一般項

フィボナッチ数列の一般項は、黄金数φを用いて、次の式で表される。これをフランスの数学者ジャック・フィリップ・マリー・ビネ(Jacques Philippe Marie Binet)に因んで「ビネの公式(Binet's formula」という。不思議に思われるかもしれないが、式の中に無理数のが含まれているが、結果数値は常に自然数になる。


 
なお、|1-φ|<1であることから、上式における第2項はnが大きくなると0に近づいていくことになるので、結局Fnは第1項を整数に丸めたものとなっていく。

また、φも1-φも方程式x2=x+1の解であることから、φnも(1-φ)nも、前述のフィボナッチの漸化式(※)を満たしていることになる。従って、任意の整数aとbに対して、
n + b(1-φ)nもフィボナッチの漸化式を満たすことになる。

一般項を表す「ビネの公式」の証明

方程式の解を、とすると、α+β=1、αβ=-1 となることから、
Fn=(α+β)Fn-1-αβFn-2
となる。これにより、
Fn-αFn-1=β(Fn-1-αFn-2
となり、Fn-Fn-1 は公比βの等比数列になる。よって、
Fn-αFn-1=βn-2(F2―αF1)=βn-1

同様に
Fn-βFn-1=αn-2(F2―βF1)=αn-1

この2つの式から、Fnについて解くと
Fn=(αn-βn)/(α―β)

となる。

フィボナッチ数列の性質

フィボナッチ数列は、多くの興味深い性質を有している。以下にいくつかの例を挙げておく。
 

(その1)(初期値 (F0 = 0, F1 = 1) に依らずに)フィボナッチ数列の隣接2項の商は黄金数 φ に収束する。


これについては、研究員の眼「黄金比φについて(その1)-黄金比とはどのようなものなのか-」(2020.11.10)で述べた。
 

(その2)自然数 p, q の最大公約数を r とすると、Fp Fq の最大公約数は Fr となる。
この性質の特殊なケースとして、連続する2つの数は互いに素であることより、「連続するフィボナッチ数は互いに素である。」といえる。


FnとFn-1が共通の約数p≥2を有するとすると、Fn=mp、Fn-1=np と書けることになることから、その漸化式より、
Fn-2=Fn-Fn-1=(m-n)p
となり、Fn-1とFn-2も共通の約数pを有することになる。

これを繰り返していくと、結局F1とF2も共通の約数pを有することになり、これは明らかに矛盾する。
 

(その3)フィボナッチ数の累和や累積等については、多くの関係式が成立している。そのうちのいくつかの例を挙げると、例えば以下の式が成り立つ。

(1) F1 + F2 + F3 + … + Fn = Fn+2 − 1
(2) F1 + F3 + F5 + … + F2n−1 = F2n 又は F3 + F5 + … + F2n−1 = F2n-1
(3) F2 + F4 + F6 + … + F2n = F2n+1 − 1
(4) F12 + F22 + F32 + … + Fn2 = Fn Fn+1


(1)は、(2)と(3)が証明されれば、2つを足した結果として明らかなので、(2)を証明すると
F2n=F2n-1+F2n-2=F2n-1+F2n-3+F2n-4=・・・ 
   =F2n-1+F2n-3+・・・+F5+F3+F2=F2n-1+F2n-3+・・・+F5+F3+F1

同様にして、(3)についても、以下のように証明される。
F2n1=F2n+F2n1=F2n+F2n-2+F2n-3=・・・
  =F2n+F2n-2+・・・+F4+F2+F1=F2n+F2n-2+・・・+F4+F2+1

(4)については、帰納法で証明できる。
n=1 の時は、F12=1、F1F2=1 となるので成り立つ。

nの時に成り立つとすると、(4)の両辺にFn+12 を加えて
F12 + F22 + F32 + … + Fn2+Fn+12 = Fn Fn+1 +Fn+12
                 = Fn+1(Fn+1 +Fn+1)=Fn+1Fn+2
となって、n+1でも成り立つ。
 

(その4)任意の正の整数は、1つ以上の連続しない相異なるフィボナッチ数の和として一意に表現できる(これは、ベルギーの数学者エドゥアール・ゼッケンドルフ(Edouard Zeckendorf) に由来して、「ゼッケンドルフの定理」と呼ばれる)。


 まずは、「任意の正の整数は、1つ以上の連続しない相異なるフィボナッチ数の和として表現できる」ことを帰納法で示す。

n=1の時は、明らか
nまで成立するとして、(n+1)以下の最大のフィボナッチ数をFkとする。
 (n+1)-Fk=0の時は、n+1=Fk となることから、表現可能
 (n+1)-Fk≠0の時は、n+1-Fkは表現可能なので、n+1=(n+1-Fk)+Fk も表現可能

さらに、n+1<Fk+1=Fk+Fk-1 より、n+1-Fk<Fk-1 となることから、上記のn+1表現にFkと連続するFk-1は使用されない。よって、n+1でも成り立つ。

次に、一意性を示す。

仮に、nに異なる2つの表現があるとした場合、双方に含まれるフィボナッチ数から共通するものを差し引いたものから、最大のフィボナッチ数をFkとする。この時、Fkを含まない表現は、全てFkより小さいフィボナッチ数の連続した和で表されていることになるので、上記の(その3)(2)及び(3)の性質(F1=F2からF1とF3は連続している)より、その総和はFk未満となってしまい、矛盾する。

(その5)以下の関係式が成り立つ


ここで、F11=89 である。上記の関係式は、この1/F11 は、全てのフィボナッチ数を小数点以下一桁ずつずらして得られる数値の総和として表現されるということである。具体的には以下の通りである。

1/89=0.011235955⋯⋯⋯
         =0.01+0.001+0.0002+0.00003+0.000005+0.0000008+0.00000013+0.000000021⋯⋯⋯
 
何とも不思議な関係であると思わないだろうか。
 

(その6)フィボナッチ数の逆数を全て足し合わせると収束する( André-Jeanninの定理)。
          
この収束値(逆フィボナッチ定数)は無理数である。

これについても比較的簡単に証明できるが、ここでは割愛させていただく。

なお、フィボナッチ数列には、以下のような性質もある(さらに、一般化可能だがここでは特殊なケースだけを示している)。

(その7)10個の連続するフィボナッチ数は、必ず7番目の数の11倍となる。
則ち、全てのnに対して、

フィボナッチ数列の一般化等

フィボナッチ数列を一般化した、あるいは類似した概念として、以下のようなものが挙げられる。

一般化されたフィボナッチ数列​
 フィボナッチ数列の初期値を以下のように一般化することができる。
​G0 = p
G1 = q
Gn+2 = Gn + Gn+1 (n ≥ 0)  

この時、以下の等式が成り立つ。
Gn+1 =p Fn + qFn+1 (n ≥ 0)  

また、この「一般化されたフィボナッチ数列」の隣接2項の商も黄金比φに収束する。

リュカ数
この「一般化されたフィボナッチ数列」の特殊なケースとして、最初の2項を 2と1 に置き換えた数列(即ち、L0 = 2、L1 =1)の項を「リュカ数(ルカ数)」という。フランスの数学者エドゥアール・リュカ(Édouard Lucas)はフィボナッチ数列の数学的な意義を認めて、その名前を付けたと言われている2

リュカ数の最初の数列は、以下の通りとなる。

2, 1, 3, 4, 7, 11, 18, 29, 47, 76, 123, 199, 322, 521, 843, 1364, 2207, 3571, 5778, …

この数列の一般項は、以下のように表される。



リュカ数についても、いくつかの面白い性質がある。例えば、(ここでは証明しないが)「pが素数であるとき、Lp-1はpで割り切れる」ということが挙げられる。具体的にはL7=29であるが、L7-1=28は7で割り切れるというような具合である。
 
2 フィボナッチ数列の一般化である「リュカ数列」という概念があるがここでは触れない。
トリボナッチ数
トリボナッチ数3は、直前の三項の和として各項が定まる数列である。具体的には、以下の漸化式による。

T0 = T1 = 0
T2 = 1
Tn+3 = Tn + Tn+1 + Tn+2 (n ≥ 0)
と表される。最初の数列の値は次の通りとなる。

0, 0, 1, 1, 2, 4, 7, 13, 24, 44, 81, 149, 274, 504, 927, 1705, 3136, 5768, 10609, 19513, 35890, …

トリボナッチ数の隣接する2項の比も一定の値(トリボナッチ定数1.839286…)に収束していくが、この値も無理数で、3次方程式 x3-x2-x-1=0 の実数根となっている。

この形での一般化は、さらには、テトラナッチ数、ペンタナッチ数等といった形で行われていくことになる。
 
3 「フィボナッチ」はあくまでも人の名前であり、「フィ」に「2」という意味があるわけではないが、その一般化された数列は、「トリ(tri)(3)」や「テトラ(tetra)(4)」を使用した名称となっている。
負の整数への拡張​
なお、フィボナッチ数列は、漸化式 Fn = Fn−1 + Fn−2 を全ての整数 n に対して適用することにより、n が負の整数の場合に拡張できる。この場合 F−n = (−1)n+1Fn となる。

黄金螺旋

研究員の眼「黄金比φについて(その2)-黄金比はどこで使用され、どんな場面で現れてくるのか-」(2020.11.20)で述べたように、以下の左図のように、フィボナッチ数列の正方形を並べていくと、黄金長方形ができ、それぞれの正方形に四半円を描いていくと、「黄金螺旋」ができる。

(その3)の(4)式が成り立つことは、以下の右図のn=7のケースを考えてもらうと、確認できる。
黄金螺旋
上記の「黄金螺旋」においては、正方形を並べていくことで、黄金長方形が作成されていくことを示したが、逆にフィボナッチ数列の縦横比を有する長方形を積み重ねていくことで、以下の図が示すように、正方形を作成することができる。

この図はまた、以下の式が成り立つことを幾何的に示していることになっている。

nが偶数の時     

nが奇数の時
正方形

最後に

今回は、フィボナッチ数列について、その定義や性質等について説明してきた。

フィボナッチ数列については、その名前や存在自体はご存知の方も多いと思われるが、それが非常に面白い性質等を有していることがおわかりいただけたのではないかと思われる。それだからこそ、自然界やそれ以外の一般社会等においても、フィボナッチ数が幅広く現れたり、使用されたりしている。これについては次回以降にご紹介していきたい。
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(2021年01月26日「研究員の眼」)

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