- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 中国経済 >
- 世界各国の新型コロナとの闘いを振り返って
世界各国の新型コロナとの闘いを振り返って
三尾 幸吉郎
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――新型コロナとの闘いに明け暮れた2020年
2――新型コロナ感染が多かった国と少なかった国
まず初めに、世界各国におけるCOVID-19の確認症例数を確認しておく。ここでは、人口の多寡を調整して比較するため、人口百万人当たりの確認症例数を用いた。その結果を見ると[図表-1]、新型コロナの感染爆発が起きて医療崩壊に追い込まれるなど確認症例が多かった国と、厳格な防疫で感染を低位に抑え込んだ国に二極化したことが分かる。欧米先進国では米国が6万人弱、英国とフランスが3万人を超え、ドイツも2万人を超えた。一方、新型コロナ禍の発火点となった中国では、その後の厳格な防疫が奏功して69人に留まり、同じ共産主義体制のベトナムではそれよりさらに少ない15人に留まった。また、欧米先進国と同じ自由民主主義体制のニュージーランドでも400人弱に抑えられており、オーストラリアや韓国でも1000人強に留まった。これら感染を低位に抑え込んだ国に共通する点を考えると、百万人当たりの感染数が1人を下回るまで行動規制を緩めなかったことが挙げられる。中国、ベトナム、台湾が行動規制を緩和したのは0.1人を下回ってからで、ニュージーランド、オーストラリア、韓国も1人を下回ってから緩和に動いている。一方、欧米先進国では、英国、フランス、ドイツが行動規制を緩和したのは5月のことで、その時の百万人当たりの感染数はそれぞれ44人、11人、9人で、米国は6月に80人前後で緩和した。このように欧米先進国では早々と行動規制を緩める方向に舵を切っており、両者の新型コロナ対策はとても対照的なものとなった。
3――財政赤字が巨大化した国と小幅に留まった国
4――GDP回復が順調な国とそうでない国
そして、国内総生産(GDP)を見ると、厳格な防疫で臨んだ国が相対的に順調に回復しそうである。国際通貨基金(IMF)の予測を元に、新型コロナ前(2019年)の名目GDPを基準として、2021年にどこまで回復するかを見たのが図表-3である。これを見ると、日本よりも新型コロナ感染を低位に抑え込んだベトナム、台湾、中国、ニュージーランド、オーストラリア、韓国はいずれも2019年の名目GDPを上回る見通しとなっている。台湾・韓国はベトナム・中国よりも増加率が低いものの、感染を抑制したことで国民や国内企業を救済するための財政負担が少なくて済んだため、ベトナム・中国よりも財政赤字を小幅に抑制することに成功した。一方、感染拡大に歯止めをかけられなかった欧米先進国を見ると、英国とフランスは2019年の名目GDPに届きそうになく、財政赤字も膨らんだ。欧州の中では相対的に感染が少なかったドイツでは、財政赤字が相対的に小幅に留まり、サービス産業の比率が小さかったこともあって2019年の名目GDPを上回りそうである。米国も2019年の名目GDPを上回る見通しだが、感染が拡大したことで国民や国内企業を救済するための財政負担が膨らみ、欧米先進国で最大の財政赤字を計上することになりそうだ。以上のように2020年の新型コロナ禍との闘いを振り返ると、残念ながら集団免疫を獲得するまで国民の自由を尊重し続けたところは見当たらず、経済と防疫の両立に取り組んだところも軸足を移し替えるタイミング判断に苦労した事例が散見された。そして、終始一貫して厳格な防疫に軸足を置いたところが、感染抑止の観点で見ても、経済成長の観点で見ても、財政負担の観点で見ても、相対的に良好なパフォーマンスを挙げることとなったといえるだろう。新たな細菌やウイルスによるパンデミック(世界的大流行)はこれが最後ではなく、これからもしばしば人類に襲いかかると見られるだけに、今回の教訓を次回以降に生かしたいものである。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年01月22日「基礎研レター」)
三尾 幸吉郎
三尾 幸吉郎のレポート
| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
|---|---|---|---|
| 2025/10/01 | 図表でみる世界の出生率-出生率が高い国・地域と低い国・地域、それぞれにどんな特徴があるのか? | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
| 2025/05/23 | 図表でみる世界の外為レート-世界各地の通貨をランキングすると、日本円はプラザ合意を上回るほどの割安で、人民元はさらに安い | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
| 2025/04/15 | 図表でみる世界の民主主義-日本の民主主義指数は上昇も、世界平均は低下。世界ではいったい何が起きているのか? | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
| 2024/12/16 | 図表でみる世界のGDP-日本が置かれている現状と世界のトレンド | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
新着記事
-
2025年10月24日
米連邦政府閉鎖と代替指標の動向-代替指標は労働市場減速とインフレ継続を示唆、FRBは政府統計を欠く中で難しい判断を迫られる -
2025年10月24日
企業年金の改定についての技術的なアドバイス(欧州)-EIOPAから欧州委員会への回答 -
2025年10月24日
消費者物価(全国25年9月)-コアCPI上昇率は拡大したが、先行きは鈍化へ -
2025年10月24日
保険業界が注目する“やせ薬”?-GLP-1は死亡率改善効果をもたらすのか -
2025年10月23日
御社のブランドは澄んでますか?-ブランド透明性が生みだす信頼とサステナビリティ開示のあり方(1)
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【世界各国の新型コロナとの闘いを振り返って】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
世界各国の新型コロナとの闘いを振り返ってのレポート Topへ







![[図表-2]世界各国の財政収支](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/66710_ext_15_3.jpg?v=1611282751)



