2021年01月22日

新型コロナ禍の自社株買い動向-前年度比は大幅減少も、足元は徐々に増加

金融研究部 研究員   森下 千鶴

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■2020年4月から12月の自社株買いは減少

コーポレート・ガバナンス改革を背景に、日本企業の自社株買いは2018年度、2019年度と過去最高額を更新した。しかし、2020年は年初から新型コロナウイルス感染拡大が懸念されはじめ、2020年4月7日には最初の緊急事態宣言が発令される状況となった。その後、一時は落ち着きをみせたが、感染は再び拡大し、2021年1月に入り、大都市圏中心の地域限定ではあるものの、2度目の緊急事態宣言が発令されている。

図表1は東証1部上場企業の年度ごとの自社株買い設定額をまとめたものである。青色が年度ごとの4月から12月の合計金額で、灰色は続く1月から3月の合計金額である。
図表1 自社株買い設定額の推移
金額ベースで見ると、2020年度は12月末時点で3兆円程度と直近2年と比較すると自社株買いの設定はそれ以前のレベルに一旦落ち着いたことがわかる。2017年度以前と比較すると極端に少ない金額には見えないが、2020年度はソフトバンクグループが合計2兆円の自社株買いを決議しており、2020年4月から12月は全体の相当な部分が1社により設定された金額である。
 
金額ベースではソフトバンクグループの影響が大きいため、件数ベースでの比較をおこなった。図表2は、自社株買いの設定件数をまとめたものである。赤色が年度ごとの4月から12月ののべ設定件数であり、灰色が1月から3月の設定件数である。
図表2 自社株買い設定件数の推移
2020年4月から12月の自社株買い件数は約280件と2017年度以前と比較してもかなり減少したことが見てとれる。

図表3は、2020年度の自社株買い設定件数を四半期ベースで前年度と比較したものである。
図表3 2020年度自社株買い件数(対前年同期比)
2020年4月から6月は前年比で▲60%と大幅に減少した。例年なら、3月末本決算企業が集中するこの時期は自社株買いの発表が1年を通して最も多い時期である。2020年は、新型コロナウイルス感染拡大により業績が急速に悪化していたため、手元資金を温存した企業が多かったことが推測される。2020年7月から9月は前年同期比▲45%、10月から12月は同▲23%であった。件数ベースで見る限り、少しずつではあるが自社株買いの実施については正常に戻りつつあるかもしれない。
 

キャッシュリッチ企業と株価パフォーマンス

■キャッシュリッチ企業と株価パフォーマンス

2020年は新型コロナウイルス感染拡大、それによる業績悪化懸念もあり、特に年度前半は株主からの自社株買い圧力はここ数年と比較してけっして強くはなかったと見られる。株式市場では、コロナ禍による業績動向に注目しており、自社株買いによる株主還元策自体がそもそも投資家からあまり注目されなかった可能性もある。

そこで最後に、2020年4月から12月に自社株買いを実施した企業のなかでも、手元資金が豊富な企業について自社株買い発表前後の株価パフォーマンスを集計し、市場での反応を確認した。
図表4 株価は概ねポジティブな反応
該当企業10社のうち、発表直後に7社がプラス評価、15営業日後も7社が発表前と比較して株価は高い水準で推移していた。自社株買い付けによる株価下支え効果に対する期待もあるだろうが、自社株買いを発表することで、企業のキャッシュが潤沢であるなどの財務基盤の安定性や企業業績見通しへの安心感が、市場から評価されたとも言えるのではないだろうか。

コロナ禍のような危機時には、手元資金の厚さは一定の役割を果たす。新型コロナウイルス感染拡大の終息時期もまだ確実に見えないという不確実な状況にある。とはいえ、直近の自社株買い設定件数推移を見る限りでは、少しずつではあるが自社株買いの実施を決断する企業は増えつつあるようだ。自社株買いの動向に引き続き注目していきたい。
 
 

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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

(2021年01月22日「基礎研レター」)

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