2020年12月25日

膠原(こうげん)病の医療を知ろう-長期に及ぶ薬剤療法をいかに進めるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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3|関節リウマチでは、関節手術が行われることもある
代表的な膠原病である関節リウマチでは、かつては、患者が「痛みに耐えがたい」、「関節障害のため日常生活に支障がある」などと訴えて、関節手術が行われていたことがある。しかし、近年、生物学的製剤など有効な薬剤による治療が進み、手術は、関節機能の維持・向上を目的とするものに変わってきた。

具体的には、手指の関節破壊を防ぐために、炎症が生じた関節の滑膜を切除する「滑膜切除術」。破壊が進行した場合に行う「関節再建術」がある。また、肩、肘、股、膝の大関節については、「人工関節置換術」が行われている。

関節手術は、術後の関節の「安定性」と「可動性」という相反する機能をどのように両立させるか、が課題となる。関節の部位に応じて、求められる安定性と可動性のバランスは異なる。このため、医師による、現在の病状や機能23を踏まえた手術計画に基づいて行われる必要がある。
図表4. 主な膠原病治療薬
 
23 手指の関節や手関節であれば、把握や巧緻運動の機能がポイントとなる。たとえば、箸やスプーンを使用できるか、茶碗を持てるか、衣服のボタンを留められるか、などをチェックする必要があると考えられる。
 

4――膠原病の代表的な病気

4――膠原病の代表的な病気

第1章で、膠原病は、自己免疫性疾患、結合組織疾患、リウマチ性疾患という特徴を持つ、いくつかの病気の総称としてとらえられると述べた。そして、前章までに、膠原病の一般的な特徴、診断、治療などについて概観していった。ただ、膠原病の内容をさらに知るには、ある程度、具体的な病気の中身に入っていかざるを得ない24

そこで、本章では、代表的な膠原病について病気の特徴を述べていく。ただし、本稿は、医師や患者に向けたものではなく、あくまで一般の人の理解を深めることが目的である。このため、医学的な精緻さや、例外事象を含む詳細の説明よりも、大まかに病気の特徴を把握することを目指していく。
 
24 たとえば、感染症について一般的な特徴、治療法、予防法を述べたとしても、結核、コレラ、インフルエンザ等の具体的な病気について触れなければ、具体的な内容がわからないのと同様。

1|膠原病と類縁疾患には100種類以上ある
代表的な膠原病について病気の特徴を述べていく、といったが、そもそも膠原病にはどれだけの種類があるのだろうか? これには、いろいろな説があるが、膠原病とその類縁疾患には100種類以上あるとの見方もある25。なお、難病情報センターのサイトによると、333の指定難病のうち、膠原病及びその類縁疾患として20の病気が掲げられている。(指定難病については、第6章で概観する。)

膠原病のなかで、おそらく最もよく知られている関節リウマチは、患者数が多いために、稀少性の基準(人口の約1%程度に達しないこと)を満たしていない。その結果、指定難病には含まれていない。関節リウマチを含めて、主な膠原病をあげると、つぎのとおりとなる。このうち、「代表的な病気」の欄に掲げている8つの病気について、次節以降でみていくこととしたい。
図表5. 膠原病の主な病気 (膠原病の類縁疾患を含む)
 
26 「むかしの頭で診ていませんか? 膠原病診療をスッキリまとめました -リウマチ, アレルギーも載ってます!-」三村俊英編(南江堂, 2019年)の「3 膠原病を疑ったときにはどの検査をする?」より。

2|関節リウマチ(RA)は、早期発見、治療開始により、手指等の関節の変形を抑えられるようになった
(1) 特徴的な症状
関節リウマチでは、関節を覆う滑膜(かつまく)に炎症が起こる。進行すると、骨などを破壊して関節の変形が生じる。手首や手指の第二関節26等の小関節に、左右対称に炎症が多発し、炎症が関節間を移り変わるのが特徴。朝、関節周囲に「朝のこわばり」が生じることが多い。その他、肘や膝にこぶ状のできもの(リウマトイド結節)が出たり、間質性肺炎や肺線維症などを呈したりすることがある。

(2) 有病者
70~100万人の患者がいる。年齢30~60歳代、女性割合70%とされる27

(3) 診療
診断には、2010年ACR/EULAR分類基準。疾患活動性の評価には、DAS28-ESRなどが用いられる28
図表6. RAの分類基準 (2010年ACR/EULAR分類基準)
図表7. 疾患活動性の評価基準(その1) (DAS28-ESRとDAS28-CRP)
図表8. 疾患活動性の評価基準(その2) (CDAIとSDAI)
治療の中心は、薬剤療法。免疫抑制薬のメトトレキサート(MTX)をまず投与30する。効かない場合は、生物学的製剤が用いられる。MTXが効くまでは、プレドニゾロン(PDZ)などのステロイド薬を用いて、寛解到達後に減薬することも行われる。

近年、効果の大きい生物学的製剤などの分子標的薬が開発され、これらが治療に用いられるようになっている。その結果、滑膜切除術による手術治療は減少傾向にある。関節リウマチは、早期に発見し、治療を開始することで、手指等の関節の変形を抑えられるようになってきている31
図表9. 関節リウマチの治療
 
26 RAでは、通常、手指の第一関節(人差し指から小指の爪のすぐ下の関節)には、炎症は生じない。ここに炎症が生じた場合、変形性関節症(OA)など、別の病気が疑われる。
27 本稿に掲げる患者数、好発年齢、性差は、「最新版 膠原病・リウマチがわかる本」宮坂信之著(法研, 2016年)等による。
28 本節以降、各病気の分類基準等を掲げるが、これは、基準が詳細に設定されていることを確認するという目的を有する。
29 VAS(Visual Analog Scale)とは、長さ100mm(10cm)の黒い線(左端が「症状なし」、右端が「想像できる最大の症状」)を見せて、現在の症状がどの程度かを、患者や医師に指し示してもらう視覚的なスケールのこと。
30 MTXには催奇形性があるため、妊婦は妊娠の3ヵ月前から産後の授乳中まで、禁忌とされている。
31 悪性関節リウマチ(MRA)は、リウマチが血管に起こり、心筋梗塞や神経炎などを引き起こす。肺繊維症を起こすような場合は、大量のステロイド薬投与が必要となる。成人スティル病(ASD)は、一日のうち主に夕方から夜にかけて39度以上の高熱が出て、その後自然に平熱に解熱する。発熱時には、サーモンピンク疹が出ることが多いとされる。

3|全身性エリテマトーデス(SLE)は、光線過敏症を生じることがある
(1) 特徴的な症状
全身性エリテマトーデスでは、両側の頬(ほお)に、「蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)」と呼ばれる発疹が出ることが多い。また、紫外線に当たると紅色の皮疹、発熱、脱毛などの「光線過敏症」を生じることがある。皮膚・粘膜、筋・関節、内臓(腎臓等32)、神経・精神などに、発熱、関節痛をはじめ、多彩な症状が出る。なお、症状の出方には、個人差がある。

(2) 有病者
5~6万人の患者がいる。年齢20~40歳代、女性割合95%と、患者は女性が多い。

(3) 診療
診断には、1997年改訂ACR分類基準や、2012年SLICC分類基準が用いられる。
図表10. SLEの分類基準 (1997年改訂ACR分類基準)
図表11. SLEの分類基準 (2012年SLICC分類基準)
従来、治療にはステロイド薬が用いられてきた。2016年より、免疫調整薬のヒドロキシクロロキン(HCQ)がSLEに、免疫抑制薬のミコフェノール酸モフェチル(MMF)がSLEによる腎障害(ループス腎炎)に使用可能となった33。2017年には、従来の治療法が効かない場合に、生物学的製剤のベリムマブを使用することが承認された。今後、さらに治療に用いる薬剤の選択肢が広がっていくものとみられる。
 
32 SLEは腎障害を合併しやすく、発生した腎炎は「ループス腎炎」といわれる。ループスは、ラテン語で狼(おおかみ)の意。皮膚にできる発疹が、狼に噛まれた痕のような赤い紅斑であるため、このように呼ばれる。
33 MMFには催奇形性があるため、妊婦は妊娠の6週間前から産後の授乳中まで、禁忌とされている。

4|多発性筋炎(PM)や皮膚筋炎(DM)では、筋肉痛で重いものの持ち上げに支障が生じることもある
(1) 特徴的な症状
多発性筋炎、皮膚筋炎とも、筋肉に軽いかゆみを伴う炎症が生じる。Vネックのセーターを着たときに、日光に当たる前胸部に紅色の発疹が出る「Vネック徴候」がみられることがある。また、後頚部から肩にかけて紅色の発疹が出る「ショール徴候」が生じることもある。さらに、手の指先の皮膚に亀裂やささくれが生じる症状が出ることがあり、「機械工の手」と呼ばれる。

DMでは、上まぶたに紫紅色の発疹が出る「ヘリオトロープ疹」34、手の甲側の指関節に隆起性の発疹が出る「ゴットロン丘疹」、隆起はしないが紅色の発疹が出る「ゴットロン徴候」35のうち、少なくとも1つが認められる。

筋肉痛や、重いものの持ち上げ、階段の上り下りなどの動作に支障が生じることもある。また、DMの場合、間質性肺炎36や悪性腫瘍が起こると、重篤な症状となることもある。

(2) 有病者
1.7万人の患者がいる。PMは年齢30~50歳代、DMは10~70歳代。女性割合66%と、患者は女性のほうが多い。

(3) 診療
診断には、2015年厚生労働省診断基準が用いられる。
図表12. PM/DMの診断基準 (2015年厚生労働省診断基準)
ステロイド薬を用いた治療が行われる。筋炎の炎症を抑えるために、治療初期には、大量のステロイド薬を点滴で投与する「ステロイド・パルス療法」が行われることもある。筋原性酵素の正常化後は、ステロイド薬を減量。通常、炎症がおさまったら運動療法などのリハビリテーションを始める。
 
34 ヘリオトロープは、紫色の花を付ける香りのよいハーブの植物の名前。
35 ゴットロンは、ドイツの皮膚科医の名前。
36 肺の間質(肺胞の薄い膜)に炎症が起こるもので、進行すると、間質が厚く硬くなる。初期には、空咳(からせき)や、運動時の息切れがみられる。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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