2020年12月25日

中国経済:景気指標の総点検(2020年冬季号)~景気インデックスは7%まで回復

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が中国武漢で広まって1年が経過した。
(図表-1)COVID-19新規感染確認(百万人当たり) これまでのコロナ禍との闘いを振り返ると(図表-1)、昨冬(19年12月)の段階では名も無く正体不明だった感染症が流行したことで、中国社会は大混乱に陥った。そこで、習近平国家主席は20年1月20日、コロナ対策に全力を挙げるよう指示、1月23日には武漢の都市封鎖(ロックダウン)に踏み切った。2月中旬になると爆発的感染(オーバーシュート)がひとまず峠を越え、新規確認症例が1日当たり1000名を下回ってきたため、中国政府は「復工復産」を旗印とした経済活動再開に舵を切った。そして4月8日には武漢の都市封鎖を解除、5月下旬にはコロナ禍で遅れていた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開催に漕ぎ着けた。全人代後は、財政・金融両面からの景気対策が本格的に稼働したのに加えて、新規確認症例が多くても1日当たり100名余りに抑制されていたため、7月には行動制限を緩めて映画館や国内団体旅行ツアーを再開、その後も「消費促進月」など内需振興策を矢継ぎ早に打ち出すこととなった。
(図表-2)産業別の実質成長率(前年同期比) この間の成長率を見ると(図表-2)、コロナ禍で混乱した20年1-3月期に実質で前年比6.8%減と大きく落ち込んだあと、経済活動再開に舵を切った4-6月期には同3.2%増まで回復し、7-9月期には同4.9%増と2四半期連続で持ち直し、内需振興策を矢継ぎ早に打ち出した10-12月期には経済成長がさらに加速しそうな勢いである。
(図表-3)中国の消費者物価(品目別) また、インフレ動向をみると、消費者物価はアフリカ豚熱(ASF)の影響で20年1月には前年比5.4%まで上昇率を高めた。その後も長江や淮河流域の洪水被害の影響で食品は高止まりしたが、コロナ禍による需要減を背景に交通通信、居住、衣類などは下落、11月の消費者物価は食品・エネルギーを除くコア部分で同0.5%上昇、全体では同0.5%下落と、今年の物価抑制目標(3.5%前後)を下回る水準で推移している(図表-3)。






 

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

【供給面の3指標】
まず、鉱工業生産(実質付加価値ベース)を確認すると(図表-4)、コロナ禍で20年1-2月期に前年比13.5%減まで落ち込んだあと、4月には同3.9%増と前年水準を上回り、その後も少しずつ伸びを高めて11月には同7.0%増まで持ち直してきた。そして、20年累計(1-11月期)では前年比2.3%増となっている。業種別に見ると、鉱業は同0.0%、電力エネルギー生産供給は同1.5%増と全体の伸びを下回ったものの、製造業が同2.9%増と全体を上回った。製造業の内訳をさらに細かく見ると、鉄道・船舶・航空宇宙・他運輸設備が前年比1.4%減と前年割れで、紡績は同0.2%増、食品も同1.4%増と全体の伸びを下回ったものの、電気機械・器材が同8.1%増、鉄精錬加工と自動車が同6.3%増と全体を押し上げる要因となった(図表-5)。
(図表-4)鉱工業鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上、20年1-11月期)生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)
他方、PMIの動きを確認すると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)は(図表-6)、コロナ禍で2月に35.7%まで急落したあと、3月には52.0%まで回復し、その後は6ヵ月連続で拡張・収縮の境界線となる50%を上回り、11月には52.1%となっている。同予測指数もじりじり上昇し11月には60.1%となった。他方、非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)は(図表-7)、2月に29.6%と製造業を超える水準まで落ち込んだが、3月には52.3%と製造業を超える水準まで回復し、その後も製造業を上回る水準で推移し、11月には56.4%となった。同予測指数は早くも4月には60.1%まで回復、その後も60%台で堅調に推移している。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI
【需要面の3指標】
まず、個人消費の代表指標である小売売上高の動きを確認すると、コロナ禍で20年1-2月期に前年比20.5%減まで落ち込んだあと、3月以降はゆっくり持ち直し、8月には同0.5%増と前年水準を上回り、11月には同5.0%増まで回復してきた(図表-8)。但し、20年累計(1-11月期)では前年比4.8%減と前年割れのままである。内訳を見ると、飲食、衣類、家具類、家電類、自動車などが軒並み前年割れであり、ここもとの回復はネット販売(商品とサービス)に支えられている。

次に、投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、コロナ禍で1-2月期に前年比24.5%減まで落ち込んだあと、早くも3月には同0.2%増(推定1)と前年水準を回復し、6月には同13.1%増まで加速し、その後は前年比10%前後で推移している(図表-9)。20年累計(1-11月期)でも前年比2.6%増と前年水準を上回ってきた。内訳を見ると、製造業は前年比3.5%減で、インフラ投資の伸びも低いが、不動産開発投資は比較的高い伸びを維持している(図表-10)。

他方、輸出(ドルベース)は1-2月期に前年比17.1%減まで落ち込んだあと、4-6月期には前年水準を回復し、11月には同21.1%増まで伸びを高めた(図表-11)。但し、輸出を品目別に見ると、防疫関連品(医療機器、マスクなど)やデジタル製品が高い伸びを示しており、世界で再びコロナ禍が猛威を振るう中で、中国産の防疫関連品・デジタル製品に対するニーズが高まったことが背景にあると見られる。したがって、世界でコロナ禍が収束に向かうと、反動減になる恐れがある。>
(図表-8)小売売上高のの推移/(図表-9)固定資産投資(除く農家の投資)
(図表-10)固定資産投資(除く農家の投資)/(図表-11)輸出(ドルベース)の推移
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
【その他の4指標と景気の総括】
以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた10指標に関して、景気の勢いを見るため、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“×”として一覧表にしたのが図表-12である。

まず、需要面3指標の推移を見ると、消費の代表指標である小売売上高は、20年前半にはコロナ禍のダメージもあって“○”と“×”が交互に生じる状態だったが、8月以降は“○”や“―”が続くようになってきており、消費はゆっくりとだが着実に回復してきていることが分かる。また、投資の代表指標である固定資産投資は、コロナ禍から経済活動を再開するに当たって先陣を切ることとなり3~5月に3ヵ月連続で“〇”となった。しかし、6月以降は6ヵ月連続で“×”となっておりその勢いには陰りが見られるようになってきた。他方、輸出金額は8ヵ月連続で“○”となっており、世界中で新型コロナが再び猛威を振るう中で、むしろ勢いを増している。

他方、供給面3指標の推移を見ると、鉱工業生産は厳しい行動制限が実施された1~2月にはマグニチュードの大きい“×”となったが、春節(旧正月)で帰郷していた農民工(農村からの出稼ぎ労働者)のUターンが進んだ3月には逆にマグニチュードの大きい“〇”となった。その後も5月までは“〇”が続いたが、6月以降は6ヵ月連続で“×”と勢いが落ちてきている。但し、製造業PMIが5ヵ月連続で“○”、非製造業PMIも7ヵ月連続で“○”となっており、景気回復の基調そのものは崩れていない。

最後にその他の景気指標を見ると、電力消費量と道路貨物輸送量がともに8ヵ月連続で“〇”となるなど回復基調は途切れていない。但し、通貨供給量(M2)が7~10月に4ヵ月連続で“×”となり、新型コロナ対策として導入された“疫情融資”(モラトリアム的な特別金融措置)が軌道修正されたことを反映することとなった。また、工業生産者出荷価格も9~10月に“×”となり、鉱工業生産の勢いが落ちてきたことを反映してピークアウトの兆しがでてきている。
(図表-12)景気評価総括表(〇×表)

3.景気インデックスは前年比7%増まで回復

3.景気インデックスは前年比7%増まで回復

最後に、月次の景気指標の推移を基に実質成長率を推計した「景気インデックス」の状況を紹介しておきたい。中国で毎月公表される景気指標は数多あるが、実質成長率に対する連動性が高い指標もあればそうでない指標もある。中国の成長率は、欧米先進国とは異なって主に生産面から推計されているため、個人消費、投資、純輸出といった支出面の景気指標との連動性はそれほど高くなく、農業、製造業、建築業、サービス業といった生産面の景気指標との連動性が高いという特徴を持つ。そこで、生産面の景気指標を説明変数として実質成長率を説明する回帰モデルを開発することとした。具体的には、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として選択し、実質成長率に近似させている。なお、新型コロナ前(Beforeコロナ)は、鉱工業生産、サービス業生産、製造業PMIの3つを説明変数としていたが、コロナ禍で連動の傾向に変化があったため、製造業PMIを外し、建築業PMIを加えるという微修正を施している。

その「景気インデックス」の推移をみると(図表-13)、20年1月に前年比8.2%減、2月に同9.7%減に落ち込んだあと、4月には同0.6%増と前年同月の水準を上回り、その後もプラス幅を徐々に拡大してきた。そして、21年1月18日前後に公表される10-12月期の実質成長率を予想すると、既に判明した10月が前年比6.7%増、11月が同7.0%増で、10-11月累計では同6.85%増となっているので、7-9月期の前年比4.9%増を上回るのはほぼ確実な状況となっている。但し、未判明の12月はやや伸びが鈍化しそうである。というのは、昨年12月は春節前の駆け込み需要で輸出・生産が高い伸びを示していたからだ。20年の春節は1月25日と例年より早めだったことが影響したものと見られる(21年の春節は2月12日)。したがって、12月の景気インデックスは6%台前半に減速すると想定しており、10-12月期の成長率は前年比6.6%増と予想している。
(図表-13)経済成長率と景気インデックス
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2020年12月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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