2020年12月17日

ふるさと納税の年末駆け込みと時間選好の関係

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――はじめに

12月はふるさと納税の駆け込み寄付があると言われている。しかし、その駆け込み寄付の要因を実際にデータで検証した研究は、筆者が知る限り存在しない。本稿では、2019年の間で、12月に初めてふるさと納税を行った人の割合と、その要因について、ニッセイ基礎研究所が実施した独自の調査を用いて時間選好の役割に注目した分析結果を紹介する。結果を先取りしてお伝えすれば、12月には、その年の所得が分かるのを待って寄付する人がいることに加えて、時間割引率が大きい人や、現在バイアスの程度が強い人が、寄付を行う傾向が示された。これは、ふるさと納税が12月に集中する傾向は、その年の所得判明に加えて、人々がふるさと納税を行う手間を先延ばしにした結果を反映したものと考えられる。
 

2――調査の概要

2――調査の概要

本調査はニッセイ基礎研究所が実施した独自のインターネット調査1で、全国の 20~69 歳の男女2を対象に、全国 6 地区の性別、年齢の分布を、国勢調査の分布に合わせて回答が収集された。回答数の合計は 1,658件。アンケート調査の回収は、2020年3月19日から3月23日の間に行われた。調査項目には、職業や収入等の基本的な属性情報に加え、ふるさと納税を行ったかどうか、行った時期及び、時間選好に関わる質問(時間割引率及び現在バイアスの程度を計測する質問、詳細は後述)が含まれている。
 
1 2020年家計の投資行動等に関する調査
2 マイボイスコム株式会社のモニター会員
 

3――12月にその年初めてふるさと納税を行った人の割合

3――12月にその年初めてふるさと納税を行った人の割合

本アンケート調査の回答者の中で、2019年1月~11月の間にふるさと納税を行った人の割合は17%、12月に2019年としては初めてふるさと納税を行った人の割合は3%、そしてふるさと納税を行わなかった人の割合は80%であった(図1参照)。「ふるさと納税ガイド」によると、納税義務者数の約5,100万人のうち、2019年のふるさと納税の利用率は約7.9%と推計されている3。一方で、本調査の回答者の間では20%の利用率となっており、納税義務者数全体の割合より高いことが分かる。これは、インターネット調査会社へのモニター登録者を対象としたアンケート調査であり、参加者がふるさと納税を行う際にも便利なインターネットでの手続きに慣れていることを反映している可能性が考えられる。そのため、本調査の結果が、日本全体の傾向を必ずしも示しているわけではないことにご注意頂きたい。
図1. ふるさと納税を実施した時期の分布
2019年の間で初めてふるさと納税を行った時期について、本調査の回答者で2019年にふるさと納税を行った人のうち、約85%が1月から11月の間にふるさと納税を行っていた。一方、12月にその年初めてふるさと納税を行った人の割合は、ふるさと納税を行った人のうち、約15%であった。各月に同じ程度の割合で、その年初めてふるさと納税を行う人がいたとすれば、ひと月当たりの割合は8.3%程度になるはずであるため、12月にその年初めて行った人の割合が8.3%より多い15%であることは、12月にふるさと納税が集中する傾向があることと整合的である4。また、2018年のあるふるさと納税寄付サイトでの寄付額を月別に集計すると、年間寄付額の約30%が12月であったことが報告されている5。12月に寄付を行う人は、12月に初めて寄付を行う人の数よりも多いと考えられるため、これも本調査の結果と整合的である。
 
3 ふるさと納税ガイド (https://furu-sato.com/magazine/9440/#:~:text=ふるさと納税 市場規模と利用率,-・データ引用元&text=また、ふるさと納税を実際,万人となりました。&text=個人住民税(所得割,考えることができます。) 2020年12月0日アクセス。
4 帰無仮説: p=0.083、対立仮説p>0.083で仮説検定(z検定)を行うとp値は0.01未満で、帰無仮説は棄却される。
5 株式会社トラストバンク、2019年12月12日 (https://www.trustbank.co.jp/newsroom/newsrelease/press267/#:~:text=国内最大のふるさと納税,事が判明しました。) 2020年12月10日アクセス。
 

4――12月に寄付を行った理由

4――12月に寄付を行った理由

では、12月にその年初めて寄付を行った理由には、どういったものがあるのだろうか。12月にその年初めてふるさと納税を行った人に、その理由を複数選択式の質問で聞いた結果の分布を示したのが、図2である。まず、12月にその年初めてふるさと納税を行った人のうち56%が、「2019年分の申請に間に合わせるため」という理由を選択している。次に多かったのが「2019年の所得が分かってから申請するため」で、38%であった。そして、「12月にしかない返礼品があるから」は9%であった。その他を選択した人は全体で2名のみで、記述欄には両者共に「なんとなく」という記載があった。
図2. 12月にその年初めての寄付を行った理由

5――12月に寄付を行う要因の分析

5――12月に寄付を行う要因の分析

12月にその年初めて寄付を行った理由について、12月特有の理由と言える「その年の所得が分かってから申請するため」を選択した回答者を除いて考えると、その他の理由で12月に初めて寄付を行った人の割合は、ふるさと納税を行った人のうち、10.8%であった。各月に均等にその年初めて寄付を行う人がいる場合には、8.3%程度になることが予想されることから、10.8%はそれと比較してまだ少し大きい割合であると言える6。この要因を検討するため、時間割引率と現在バイアスに注目した分析を行った。人々がふるさと納税の手間を先延ばしにした結果による寄付の集中という要因が考えられるためである。
 
6 帰無仮説: p=0.083、対立仮説p>0.083で仮説検定(z検定)を行うとp値は0.054で、10%の有意水準で帰無仮説は棄却される。
1| 時間割引率と現在バイアスについて7
(1) 時間割引率
時間割引率を説明する際によく使われる質問に以下のようなものがある。
 
「AとBどちらか好きな方を選んでお金をもらえることになった場合、どちらを選びますか?」

A. 今日もらえる1万円
B. 1カ月後にもらえる1万100円

この場合、多くの人が、Aの今日もらえる1万円を選ぶののではないだろうか。これは、人間には、将来もらえるお金の価値を、(現在の価値にすると)表面上の金額よりも小さく感じる=割引いて感じる傾向があることを示している。そして、このように人間が、将来の価値を割引く率のことを「時間割引率」という。つまり上記でAを選んだ人にとって、1カ月後の「1万100円」の価値は、現在の価値にすると1%以上割り引かれて感じられていることになる。時間割引率は、主観的な感覚なので人によって異なる。たとえば、先ほどの選択ではAを選んだ人でも、今日もらえる1万円と1カ月後にもらえる1万500円という選択肢だったら、1カ月後にもらえる1万500円を選ぶ人もいるだろうし、一方で1カ月後にもらえる金額が1万1,000円だったとしても、今日もらえる1万円を選ぶ人もいるかもしれない。1カ月後にもらえる金額が今日もらえる金額よりもとても大きくなければ、1カ月を選択しない人は時間割引率が大きいと考えられる。つまり、時間割引率は人々が現在を重視する程度を表すといわれている8
 
7 本節の(1)時間割引率及び(2)現在バイアスは、以下の記事の記載を元にしている。岩﨑敬子、新社会人のための経済学コラム「後回し傾向で、貯蓄額は211万円減少・肥満率は2.8ポイント
https://www.nissay.co.jp/enjoy/keizai/110.html
8 池田新介「自滅する選択」東洋経済新報社 (2012)
(2) 現在バイアス
それでは、以下のような選択肢が与えられた場合はどうだろうか。
 
「AとBどちらか好きな方を選んでお金をもらえることになった場合、どちらを選びますか?」

A. 6カ月後にもらえる1万円
B. 7カ月後にもらえる1万100円
 
この場合は、Bを選ぶ人も多いのではないだろうか。先ほどの選択と同じで、AとBの選択肢の間の期間は1カ月で、もらえる金額の差は100円なので、時間割引率が近い将来でも遠い将来でも同じならば、先ほどの選択でAを選んだ人は、今回もAを選ぶはずである。しかし、時間割引率は、近い将来では大きく、遠い将来では小さくなる傾向があることが知られている。このため、先ほどの質問ではAを選んでいた人も、この質問ではBを選ぶようになることがあるのである。この時間割引率が、近い将来で大きく、遠い将来では小さくなる傾向は、現在バイアス言われる。

現在バイアスは言い換えると、今すぐ得られる利益を優先してしまう傾向といえる。そのため、現在バイアスの程度が強いほど(時間割引率が遠い将来に比べて近い将来で大きくなるほど)、後回し行動を引き起こしやすくなる。ダイエット計画の実行を思い浮かべてみる。ダイエットの完璧な計画を立てても、いざケーキの誘惑を前にすると、現在バイアスの傾向が強い人は、今すぐ得られる喜びであるケーキを食べることを優先してしまう。計画する時点ではケーキを我慢するのは遠い将来なので、小さな時間割引率で判断するため、ダイエットが成功することの価値を大きく感じるが、いざケーキを前にすると、大きな時間割引率で判断することになるため、ダイエットの成功で得られる将来の喜びは、大きく割引かれてしまい、ケーキを食べるという今すぐ得られる喜びの方が大きく感じるようになる。そのため、結局ダイエット計画の遂行は後回しになってしまうのである。
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研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

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