2020年12月14日

日銀短観(12月調査)~企業の景況感は2期連続で改善も、警戒感は根強い、投資は軒並み下方修正

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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4.売上・利益計画: 20年度収益計画はさらに下方修正

20年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比8.6%減(前回は6.6%減)、経常利益が同35.3%減(前回は28.5%減)とそれぞれ下方修正された。もともと減収減益の計画であったが、それぞれ減少幅が拡大している。

経常利益計画は、例年期初に保守的に見積もられ、6月調査において前年度実績の上方修正を受けてさらに下方修正された後、9月調査以降は上方修正に向かう傾向が強い。ただし、今年度計画については下方修正が続いている。今回は上半期における収益の大幅な悪化が計画に反映されたうえ、先行きの不透明感が非常に強いことから、下半期計画も下方修正する動きが優勢になっている。

なお、20年度の想定ドル円レート(全規模全産業ベース)は106.79円(上期107.03円、下期106.55円)と前回(107.34 円)から0.5円余り円高方向に修正された。もともと円高方向への修正が遅れていたうえ、前回調査以降、為替がさらに円高に振れたためとみられる。ただし、依然として直近(12月11日)までの年度実績(106.23円)や足下の実勢(104円前後)よりも円安水準にあり、修正が遅れている可能性が高い。
 
例年であれば、3月調査以降も経常利益計画が上方修正に向かうパターンが多いものの、今年度については引き続き不確実性が高い。国内外における新型コロナの感染動向や為替動向次第では今後もさらに下方修正が入るリスクがある。
(図表6)売上高計画
(図表7)経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備投資・雇用

5.設備投資・雇用:人手不足感はやや強まる、設備投資計画はまたも下方修正

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から2ポイント低下の6となった。生産・経済活動の回復に伴って稼働率がやや上昇したとみられ、過剰感がやや緩和したものの、依然としてプラス圏(「過剰」との回答が優勢)にある。

また、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)も前回から4ポイント低下の▲10となった。同D.I.は、今年6月調査において新型コロナ拡大に伴う需要の激減や休業によって急上昇し、悪い意味で人手不足感が大きく解消していた。今回、人手不足感がやや強まったことで、失業を抑制する効果が多少なりとも期待されるが、かつての人手不足感とは比べるべくもないほか、人手不足感が特定の業種に偏在している可能性もある。また、今後景気回復が遅れた場合には、人手過剰感が高まることで失業増加が加速する懸念もある。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)は前回から3.3ポイント低下の▲4.1となり、やや不足超過となっている。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.が2ポイントの低下、雇用判断D.I.が3ポイントの低下となった。経済活動の持ち直しに伴う需要回復を見込んだ動きとみられるが、先行きの不透明感から大幅な低下は見込まれていない。この結果、「短観加重平均D.I.」も2.6ポイント低下の▲6.7と小幅な低下に留まる見込みだ。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比3.9%減(前回調査時点では同2.7%減)へと下方修正された。設備投資計画の下方修正はこれで3期連続となる。

例年、12月調査では、中小企業において計画が具体化してくることによって上方修正される傾向が強い。しかしながら、新型コロナの感染拡大に伴って収益が大幅に悪化したことで設備投資の原資となるキャッシュフローが減少したうえ、コロナ禍の行方など事業環境の先行き不透明感も依然として強い。このことから、企業の間で引き続き設備投資の見合わせや先送りの動きが広がり、この時期としては稀な下方修正となっている。

今後についても、新型コロナの感染やそれに伴う景気の動向次第では、さらに下方修正される可能性が残る。
 
なお、20年度設備投資計画(全規模全産業で前年比3.9%減)は市場予想(QUICK 集計3.3%減、当社予想は3.4%減)を下回る結果であった。
 
また、20年度の研究投資計画も前年比2.3%減(前回調査では0.5%減)へと下方修正されている。

さらに、テレワークの推進や遠隔サービス化の流れを受けて、これまで上方修正されてきた2020年度のソフトウェア投資計画も、今回は前年比3.4%増と前回(前年比6.4%増)から下方修正されている。
 
企業の投資計画は軒並み下方修正されており、利益・キャッシュフローの確保や先行きへの懸念から、投資を圧縮する姿勢を強めている姿がうかがわれる。
(図表11) 設備投資計画と研究開発投資計画
(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13) 設備投資計画(大企業・全産業)
(図表14)ソフトウェア投資計画(全規模・全産業)

6.企業金融

6.企業金融:企業の資金繰りは若干改善

企業の資金繰り判断D.I.(「楽である」-「苦しい」)は大企業が11と前回比1ポイント上昇、中小企業が4と前回比で2ポイント上昇した。D.I.の水準もプラス圏(「楽である」が優勢)にあり、リーマンショック後(2008年終盤~2009年前半)のような底割れには至っていない。

一方、企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断D.I.(「緩い」-「厳しい」)については、大企業、中小企業ともに前回から1ポイント低下したものの、ともに大幅なプラス圏(「緩い」が優勢)を維持しており、リーマンショック後のような貸出態度の厳格化はみられない。

全体としてみれば、企業の金融環境は概ね問題ない状況が続いている。
 
新型コロナの拡大を受けて、政府は「持続化給付金」や「無利子・無担保融資の拡充」を、日銀は民間金融機関での無利子・無担保融資のバックファイナンスを行う「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」を導入し、企業の資金繰り支援に注力してきた。こうした政策の効果が企業の金融環境の安定に寄与しているとみられる。
(図表15)資金繰り判断DI(全産業)/(図表16) 金融機関の貸出態度判断DI(全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年12月14日「Weekly エコノミスト・レター」)

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