2020年12月07日

ソルベンシーIIの2020年レビューを巡る動向-欧州委員会によるCMU(資本市場同盟)行動計画等との関連での保険業界団体の反応-

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6―Insurance Europe等の欧州保険業界関係5団体による欧州委員会宛の共同レター

ソルベンシーIIのレビューと欧州委員会が推進するCMU及びグリーンディールの目的と関連付けて、Insurance Europe、Pan-European Insurance Forum、CFO Forum、CRO Forum、Association of Mutual Insurers and Insurance Cooperatives in Europeの欧州保険業界の関係5団体は、11月4日に欧州委員会宛に共同レター5を送付した。これは、欧州委員会の金融サービスコミッショナーのMairead McGuinness氏宛に提出されたもので、ソルベンシーIIに対する全体的な支持を表明しているものの、ソルベンシーIIの資本要件の削減を要求している。

その「2020年のソルベンシーIIレビューに対するキーポジション」の内容は、前回のレポートで説明したInsurance Europeが10月22日に公表したものと同じ内容ではあるが、今回のペーパーのヘッドレターの中では、以下のような内容を述べている。

Insurance Europeは、「ソルベンシーIIレビューに対するEIOPA及びESRBのアプローチは、ECのCMU及びグリーンディールの目的を促進する上で保険会社を弱体化させる」として、ソルベンシーIIのレビューが、欧州委員会の成長と持続可能性の目標をサポートする保険会社の能力を強化する重要な機会をどのように提供するかを強調した。同時に、ソルベンシーIIの見直しに向けたEIOPA及びESRBのアプローチについて、保険会社の能力が不必要に損なわれることになるとの深刻な懸念を表明した。

EIOPAは「バランスの取れた結果」を目指していると述べているが、現在のアプローチは実際には保険会社の資本要件の大幅な増加につながり、特に危機の時期に保険会社のソルベンシー比率をさらに不安定にし、プロシクリカルな行動を引き起こす、と述べた。

同時に、EIOPAがその一部を構成するガバナンスであるESRBは、保険会社に不必要な追加の資本と運用上の負担を生み出す新しいマクロプルーデンスツールと措置を提案した。これは、保険会社が欧州の景気回復と成長を後押しするために必要な長期投資を行うことを困難にする。

代わりに、ソルベンシーIIのレビューでは、保険会社の長期的なビジネスモデルを完全に反映し、人為的なボラティリティを軽減し、不必要な運用上の負担を軽減するために、既存の商品を改善することに焦点を当てる必要がある。これにより、顧客の不必要なコストを回避し、欧州委員会がEUグリーンディールとCMUで設定した目標を達成するのを保険会社が支援するのに役立つ、と述べている。
 

件名:ソルベンシーIIのレビューに関する保険業界の見解
この機会を利用して、ソルベンシーIIの健全性フレームワークの見直しに関する最近の欧州委員会の協議をフォローアップしたいと思います。

まずは、持続可能なEU経済成長への資金提供、ゼロカーボン経済への移行、より環境に優しく、より持続可能で回復力のある欧州の創設、CMUの構築に関する欧州委員会の野心的な目標に同意したいと思います。 私たちの業界はこれらの目標を完全にサポートしているだけでなく、それらを達成する上で大きな役割を果たすことができます。

今日、私たちの業界は個人や企業を保護しています。保険契約者に代わって投資し、欧州経済を支える10兆ユーロを超える運用資産を保有しています。将来的には、これをさらに強化して、欧州の回復、成長、持続可能な経済への移行に資金を提供することができます。

2016年以来私たちの業界を統治しているフレームワークであるソルベンシーIIは、消費者に(長期的な)商品を提供し、経済に(長期的な)投資を行う我々の能力に大きな影響を与えます。ソルベンシーIIは、EU単一市場の保険統合におけるマイルストーンであり、業界は引き続きそれを強力にサポートしています。ただし、このフレームワークは、現在のように、特に長期的なビジネスに関して、不必要なコストと障壁を生み出します。具体的には、過剰な資本要件やボラティリティをもたらす測定上の欠陥が多く、運用面で非常に負担が大きくなっています。

EUの景気回復と欧州の持続可能な道を支援することがますます求められている現在、ソルベンシーIIのレビューで正しい結果が得られた場合にのみ、全能力で貢献できることを強調する必要があります。これには、限定的ではあるが重要な一連の改善が必要です(付録に記載)。現在の危機は、私たちの業界が十分に資本化されていることを示しています。実際、必要な資本の現在のレベルは既に過剰です。適切な改善は、資本要件の正当な削減につながり、ソルベンシーIIが今日生み出す人為的なボラティリティにも対処します。これらの改善は、業界がグリーンリカバリーと成長、及びCMU目標の達成というEUの野心をサポートできるようにするために必要なだけではありません。それらはまた、私たちの業界が、制度の負担が大幅に軽い非EUプレーヤーと国際的に競争できるようにするために不可欠です。

EIOPAとESRBによって提案されているように、より大きな資本負担と新しい要件をフレームワークに組み込むことは正当化されません。代わりに、より効率的で効果的なフレームワークが必要です。

EIOPAは、その助言の目的として、2019年末にいわゆる「バランスの取れた結果」を設定しました。ただし、EIOPAの現在の提案は、「バランスの取れた結果」にはなりません。代わりに、特にEIOPAが最も否定的な提案のいくつかの影響を除外しているように見えるため、資本要件の大幅な増加につながります。その提案はまた、特に危機の時期に、ソルベンシー比率をさらに不安定にし、より景気循環を促進する行動を引き起こすでしょう。そのような目的に基づいて技術的な助言を行うことは根本的に間違っています。理由は次のとおりです。

・現在の要件が高すぎて不要な障壁を作成しているという証拠を無視しています。
・証拠の適切な評価又は適切な改善を許可していません。
・他の時点での提案の影響を考慮していません。
・加盟国レベルではなく、欧州全体のレベルでの影響に焦点を当てています。
・会社の種類を区別していません。
・レビューのEC、議会、理事会の目的を完全に無視しています。

最後になりましたが、マクロプルーデンスの観点から「フレームワークのギャップを埋める」ことを目的とした新しいツールと措置について、ESRB(EIOPAがその一部を構成するガバナンス)によって最近提案されたものを認識しています。ESRBは、長期の資金調達と持続可能な投資がソルベンシーIIの目的であるべきであり、そのような投資の欠如自体が金融の安定性に対するリスクを生み出す可能性があることを認識しています。しかし、その提案はこれとは逆のことを達成するでしょう。 実際、ESRBの提案は主に銀行に触発されているようであり、その包括的なテーマは、金融の安定性を理由に、ソルベンシーIIに加えて、資本、介入力、規制層を追加することであるように思われます。 資本が多すぎると、最終的に価値のある長期的な商品を提供したり、長期的な投資を行ったりすることができなくなり、欧州の経済や消費者にとって資本が少なすぎるのと同じくらい損害を与える可能性があることを強調しておきます。

ソルベンシーIIには、マクロプルーデンスの監督をサポートする多くの条項が既に含まれています。金融の安定性は既に広範で洗練されたソルベンシーIIフレームワークの目的であり、ECのEIOPAへの助言要請で限定された数を超える新しい措置を検討することを正当化する(COVID-19又は他の場所からの)新しい証拠はありません。確かに、COVID-19危機は、ソルベンシーⅡ制度の強さと、それがリスク管理の観点からもたらした重要な利益、及び私たちのセクターの財政的耐性力を示しています。

結論として、ソルベンシーIIのレビューは、保険会社の長期的なビジネスモデルを完全に反映し、人為的なボラティリティを軽減し、不必要な運用上の負担を軽減するための既存の商品の改善に焦点を当てるべきであると考えています。これは、欧州委員会がEUグリーンディールとCMUに定められた目的を達成するのに役立つ改善を行うための重要な機会です。

この重要なレビューについて、皆様とお会いできることを楽しみにしております。

(以下、略)

 

7―まとめ

7―まとめ

以上、これまでの3回のレポートで、ソルベンシーIIのレビューを巡る3月以降の動きについて報告してきた。

今後は、EIOPAが12月末までに、欧州委員会への助言内容をまとめた報告書を作成することが予定されている。これまでの影響評価の結果やInsurance Europe等からの意見を踏まえて、最終的にどのような助言が提出されてくることになるのかが注目されることになる。

さらには、そうしてEIOPAから提出された技術的助言に対して、Insurance Europe等の保険業界団体等がどのような反応をし、またそうした反応を受けて、欧州委員会が来年の第3四半期までにどのような判断をしていくのかが注目されていくことになる。

2020年レビューという言い方をしてきているが、EUの立法プロセスの経験則では、共同立法者による討論が合意に達するまでに時間が必要で、それは約2年とされているようである。仮に2021年第3四半期に欧州委員会が提案を採択したとしても、そこから約2年の月日が必要となる。さらに、指令の改正については、EU各国における国内法化が必要となり、それにも1年半程度が必要と言われている。

このように考えると、今回のレビューの内容が最終的に反映されるまでにはまだまだ時間を要することが想定される。もちろん、委任規則等の改正で対応できる内容が別途先駆的に行われていくことも考えられる。さらには、Brexit(英国のEU離脱)に関連して、現在のSCR算出の基礎データ等において、英国に依存している部分の見直し等が必要になってくることも考えられ、その場合にはそうした見直しが与える影響等も考慮していく必要がある。

このように考えると、ソルベンシーIIの大きな改革の実現は、相当な時間を要するものとも推測される。一方で、IAIGs(国際的に活動的な保険グループ)に対するIAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)が2025年から導入されることが予定されており、ICSとの関係もソルベンシーIIのレビューにおいては重要な考慮すべき項目になってくるものと思われる。その意味で、なかなか一筋縄ではいかない複雑なプロセスがまだまだ必要とされるのではないかとも思われる。

いずれにしても、ソルベンシーIIのレビューは、国際的なソルベンシー規制や日本における新たなソルベンシー規制の検討の上においても、極めて重要な意味合いを有しているものであることから、今後の動向については、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年12月07日「保険・年金フォーカス」)

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