2020年12月07日

「ニッポンの結婚適齢期」男女の年齢・徹底解剖(3)―2018年婚姻届全件分析(初婚女性その1)―

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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はじめに

今回は、全国での講演会において「衝撃だった」という反響が非常に多かった、ニッポンの結婚適齢期データについてのレポートのシリーズ第3弾となる。

第1弾では、一般的な思い込みと統計的な事実との間の乖離が最も大きいと感じることの多い「初婚男性の結婚適齢期」について、第2弾では、男性の全婚姻届の約1/5を占める「再婚男性の結婚適齢期」について、婚姻届全件データを基に、分析結果を紹介した。
 
第3弾は「初婚女性の結婚適齢期」について、前回までと同様に婚姻届全件データの分析結果を用いて統計的事実を示してみたい。初婚女性の婚姻届分析結果と第1弾の初婚男性の結果を合わせて確認するため、今回はまず、初婚女性の婚姻のうち大多数を占める、初婚男性との婚姻について解説する。
 
結婚年齢に関しては、男性よりも女性の方が、統計的事実と社会的認知のずれが少ないと感じる場面が多い。筆者は2つほど、この理由として思うところがある。

1つ目は、女性は男性と異なり、出産を担うことから、自らの肉体を守るためにも生殖適齢期に関する情報により敏感である、ということである。日本では、第二次世界大戦後、婚外子比率は低下を続け、近年では長期にわたり2%程度で推移している。換言すると、それが授かり婚であったとしても、婚姻後に98%の出産が発生しているということになる。つまり、出産と婚姻は切り離して考えられることではなく、女性は出産の時期を意識することによって、おのずと婚期を意識することにもなる。

2つ目は、社会的な風潮としての「婚期は(男性は何とでもなるが)女性にはある」という、アンコンシャス・バイアスの存在である。このバイアスの存在は非常に根強く、ゆえに、本レポートの第1弾の情報(初婚男性にも婚期は極めて明確にあり、とりわけ初婚同士の結婚は20代後半に集中するということ)に、多くの人が驚愕するのではないだろうか。
 
以上から、男性よりは女性の方が結婚年齢に関して統計的事実から大きく乖離した思い込みは少なそうであるとは思うものの、初婚女性についても統計的に正確な結婚年齢の情報発信をあまり見たことがないため、本レポートにおいて確認をしておきたい。

前回までと同様、データソースには、厚生労働省「人口動態調査」に掲載されている、2018年における婚姻届の集計結果を用いているため、ニッポンの結婚、についての全数分析の結果である。
 

1――再婚女性は成婚女性の約6人に1人

1――再婚女性は成婚女性の約6人に1人

2018年に役所に婚姻届を提出し、結婚生活を開始したカップルの件数は45万6148件となった。このうち、女性が初婚(男性は初婚、再婚双方を含む)の件数は38万2823件で、全体の83.9%を占めている。女性が再婚である結婚は(同じく男性は初婚、再婚双方を含む)、7万3325件の16.1%となり、約6人に1人の女性が再婚者であったことがわかる(図表1)。

これはシリーズ第2弾で示した、男性だけでみた再婚者の割合の5人に1人よりも少ない結果となっている。

男女双方、またはどちらかに再婚者が含まれる結婚は4組に1組であり、再婚がそう珍しくはない状況とはなってきたものの、男性の再婚よりも女性の再婚の方が発生確率的には低い、という状況が見てとれる。
【図表1】2018年 婚姻届45万6148件に占める女性の初婚・再婚割合
また、レポート第1弾でも確認したが、初婚女性の相手の婚歴は初婚男性88.8%、再婚男性11.2%となっている(初婚男性は初婚女性との婚姻が91.6%)(図表2)。

男女でわずかな差はあるものの、初婚女性の相手もその9割が初婚男性である。
【図表2】2018年 初婚女性の相手の婚歴割合(%)

2――初婚女性の婚姻ピークは26歳

2――初婚女性の婚姻ピークは26歳

2―1 「平均年齢」との差異に注意
一般的な感覚として、マスメディアなどで紹介される「平均初婚年齢」が、初婚女性の結婚のピークかつ結婚適齢期ではないか、と思う人々は少なくない。
 
例えば、2018年における初婚女性の平均結婚年齢は29.4歳であるので、
 
「女性が一番結婚している年齢は29歳過ぎ」
「女性も30歳直前になって、ばたばたと結婚する。晩婚化したものだ」
 
という結婚年齢のイメージに誤解する人がほとんどのように見受けられる。
 
しかし実態は、初婚女性の結婚は29歳で一番発生しているわけではない(図表3)。
【図表3】初婚男性の結婚年齢 /妻も初婚のケース(件)
このような「女性が一番結婚している年齢は29歳過ぎ」「30歳直前になって、ばたばたと結婚する」でイメージされている年齢は、統計的には「最頻値」と呼ばれる年齢にあたるが、イメージ上と統計上の事実の年齢の間には格差が存在する。

最頻値、すなわち、婚姻届が最も多く提出される年齢をみると、グラフからは26歳の3万2884件がピークであることがわかる。

つまり、初婚女性の結婚のピークは統計上、明らかに26歳である。
 
次に、全初婚女性の婚姻届が年下から年齢順にみて5割・過半数を超える年齢を「結婚適齢期」とするならば、初婚女性の結婚適齢期は27歳すぎ2であることが示されている。しかも、26歳27歳をピークに急角度の山が描かれており、27歳以降は毎年、大きく婚姻件数が減少していく。

初婚女性の婚姻届が7割に達するのは30歳、8割に達するのは32歳であり、その後も成婚件数は年々減少していくことがみてとれる。

また、9割に達する年齢は36歳となっていることから、初婚女性が成婚を目指す場合、30代後半からはかなりの苦戦を強いられることになる。
 
この初婚女性の結婚年齢の状況を、第1弾で紹介した初婚男性の結婚年齢と比較してみたい(図表4)。

統計結果を解釈する際に、平均値には十分な注意が必要であるものの(発生の散らばりがわからないため)、初婚同士の男女の平均年齢差が1.7歳である、という年の差の平均結果と、下の図表が示す発生状況の散らばりの見える結果は、あまり差異がないということが示されており、男性の婚期は女性よりも2歳程度上である、ということになる。

女性の婚期に2歳程度プラスしてパラレルに発生しているだけなので、女性同様、男性も婚期について悠長に構えることはハイリスク、ということがみてとれる。>
【図表4】結婚適齢期に関する分析結果 初婚男女婚姻届提出状況からみた年齢比較(歳)
 
1 15歳から集計がスタートしているのは、婚姻統計における「婚姻件数」の計上が「夫妻の年齢は、結婚式をあげたとき、または、同居を始めた時の年齢である」ため。例えば、授かり婚のケースにおいて、先に挙式を行い、16歳以降に入籍する、といったケースが該当する。
2 27歳は48.5%(50%-1.5%)、28歳は57.0%(50%+7.0%)であることから、限りなく27歳の方が5割に近い、という認識が必要となってくる。男女とも20代後半における1年は、動態的に見て非常に成婚に向けた動きが活発な期間であり、1年で生じる差は予想を超えて非常に大きい。
2―2 「平均年齢」の婚期の罠は、なぜおこるのか
初婚女性の結婚のピーク年齢は26歳である。婚姻届の全件分析結果のため、この年齢は揺るがない。

しかし、一般の感覚の「思い込みベースの適齢期」となりがちな平均初婚年齢29歳と、実際の最頻値の26歳との3歳の差は大きい。29歳あたりを目標に成婚を考えている女性にとっては、あまりにもリスクの大きな平均初婚年齢と最頻値年齢の3歳の差異は、なぜ発生するのか。
 
今一度、発生件数の山のグラフを見てみたい(図表3)。

女性の初婚年齢は法律によって16歳からと定められているために、授かり婚などで入籍前に結婚式を挙げるケースなどを含めても15歳からのスタートである。つまり、どんなに統計的にみれば極めて発生確率の低い外れ値の婚姻を含めても、山の左側の端は15歳からスタートに固定されてしまう。一番多く発生している26歳という結婚年齢から乖離して全体の平均を大きく引き下げるような結婚(たとえば10歳×6件など)は、当然ながら発生しえない。

一方で、山の右側の端は法律的には制限がなく、グラフからもわかるように、年間ベースでみると僅少ながらも、トータルでは平均値を大きく引き上げかねない外れ値的な婚姻が発生している状況(70歳×4件などが存在/棒グラフ上は見えないほど僅少な外れ値であるが存在)となっている。
 
実際、2018年の初婚女性の婚姻年齢を確認すると、発生件数が10件を下回る外れ値ともいえる婚姻が、62歳以降76歳まで各年齢において発生しており、80歳を超える婚姻も2件発生している。
 
つまり、以下の2点の理由から、平均結婚年齢と最頻値年齢には、どうしてもそれなりの乖離が生じてくるのである。
 
(1)個別のケースとしては外れ値(統計上の異常値)といえる、最頻値より30歳以上も年齢の高い結婚が、平均計算結果を大きく引き上げる方に作用している
 
(2)その反対に、個別のケースとして平均を大きく引き下げる成婚としては、法的に年齢の下限設定がされており、最頻値から10歳程度下までの範囲である
 
わかりやすくいうならば、平均値は、個々の年齢における婚姻の発生確率は相当に低いものの、60代以降の高齢の老人の結婚も含まれて算出されたものであることから、結果的に26歳のピーク年齢よりも3歳も高く算出されてしまう、ということになる。

これについては男性の平均年齢についても全く同様であるので、平均結婚年齢を結婚にむけた活動が一番活発になる時期、としてベンチマークとするライフデザインは「時すでに数年遅し」になってしまうことに十分注意しておきたい。
 

3――年齢データを都合よく解釈しないことが大切

3――年齢データを都合よく解釈しないことが大切

最近ようやく社会分野においても、議論の際にエビデンスとなるデータを求める声が大きくなってきた。

しかし、データを使えば、その意見がすべて正当化される、というものではない。

最近では、持論の説得力を増すために「そんな風にみえそうな」データを利用して主張するケースも残念ながら見受けられるため、シリーズ第3弾の最後に注意喚起しておきたい。
 
例えば、生涯未婚率(50歳婚歴なし割合)が急上昇したデータだけを示して「こんなにも結婚したくない人が増えたのだ」といった、拡大解釈をしてはならない。かつては、このような説明が記事を飾るケースも散見された。

なぜこのように解釈してはいけないのだろうか。

それは、50歳で婚歴なし割合を構成する未婚者男女が、一体どういう理由でそのステータスでいるのかまでは、生涯未婚率上昇のデータは示していないからである。「結婚したくないから結婚しなかった」という人の意識部分までも説明できるデータではない。

あくまでも未婚でいる、その状態を示した婚姻状況の有無を示した量的データに過ぎない。上のケースは、データをそのままに読み解くのではなく、主張したいこと(結婚したくないからしないだけ)が言えそうな雰囲気のデータを拡大解釈して利用した事例となっている。
 
結婚年齢に関しても、例えば初婚同士の夫婦の年の差の平均値データ(1.7歳)を出すと「それはあくまでも平均である(散らばりはわからない)」という、一見正しそうな意見が毎回登場する。

しかしながら、その意見は「だから、その平均よりももっと大きな年の差婚でも、同じくらいのレベルで発生することが可能なのだ」という文脈の主張で用いられることが多い。
 
データを解釈する際には、「その解釈者個人のライフデザインにとって都合の良いように解釈されていないだろうか」という意識をもって接することが大切である。

自身のライフデザインを肯定することを目的としてデータを用いることは、オフィシャルな発信では避けるべきと筆者は思うが、このような発信がアンコンシャスに行われるケースは少なくない。
 
筆者も含めて、自分のライフデザインを否定するような(ライフデザインに相反するような)データを用いたくない、解釈をしたくないという気持ちは十分に理解できる。

しかしながら、統計的な事実を客観的に受け止めたうえで、それでも揺るがないライフデザインを保持できる状態こそが、その人にとって真に、満足度の高いライフデザイン設計を持っている状態、といえるのではないだろうか。

【参考文献一覧】
 
厚生労働省.「人口動態統計」
 
天野 馨南子.「ニッポンの結婚適齢期」男女の年齢・徹底解剖(1)―2018年婚姻届全件分析(初婚男性編)―. ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年11月16日
 
天野 馨南子.「ニッポンの結婚適齢期」男女の年齢・徹底解剖(2)―2018年婚姻届全件分析(再婚男性編)―. ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年11月20日
 
天野 馨南子.「年の差婚」の希望と現実-未婚化・少子化社会データ検証-データが示す「年の差婚の希望の叶い方. ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2017年2月20日
 
天野 馨南子.初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」(上)-未婚少子化データ考- 平成ニッポンの夫婦の姿.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年5月14日
 
天野 馨南子.初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」(下)-未婚少子化データ考-変わり行く2人のカタチ.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年5月28日
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

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