2020年11月19日

金利予測に基づく債券インデックスのリターン

水野 友理那

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1――金利の上昇でマイナス収益となるのはキャピタルリターン

債券インデックス(NOMURA-BPI総合)は金利低下により、過去10年間(2010年4月~2020年3月)で累積トータルリターンを約20%獲得した(図表1)。ところで、一般的に債券インデックスのリターンはキャピタルリターンとインカムリターンに分解できる。
図表1 債券インデックス(NOMURA-BPI総合)のリターンと金利との関係
キャピタルリターンは、金利変化に伴い債券価格が変動することで生じるリターンである。債券インデックスのキャピタルリターンの金利変化幅に対する感応度は簡便的に修正デュレーションで表すことができる。債券価格は金利変化の方向とは逆の方向に動き、金利低下時にはキャピタルリターンはプラスになる。このような関係を単純化して、金利のイールドカーブが平行移動のみ行うものと仮定すると、債券インデックスのキャピタルリーンは以下のように表現できる。
 
債券インデックスのキャピタルリターン=(-1)×修正デュレーション×金利変化幅
 
一方、インカムリターンは、組み入れ銘柄のクーポンの受け取りが源泉であり、足元の市場金利の変動の影響をほとんど受けない安定した収益と言える。2010年4月から2020年3月までの10年間の月次リターンの標準偏差は、キャピタルリターンの年率6.3%に対して、インカムリターンは年率0.2%だった。低金利環境の長期化に伴い、インカムリターンの水準は徐々に低下しているものの、相対的にクーポン水準が高い償還期間の長い債券の発行が増えたことによって、債券インデックスのインカムリターンの低下幅は市場金利の低下幅ほど大きくはない。

2003年度から2019年度の年度平均データを用いて、キャピタルリターンとインカムリターンを推計する回帰分析を行った。
キャピタルリターンとインカムリターンを推計する回帰分析
国内債券インデックスファンドでベンチマークとして広く採用されるNOMURA-BPI総合のおよそ8割は国債である。そのため、債券インデックスのキャピタルリターン(Rc)推計には10年国債利回りの変化幅を、インカムリターン(Ri)推計には10年国債利回りの水準を代替した。

推計式の意味は、例えば、キャピタルリターンは、10年国債利回りの変動幅が+0.1%、修正デュレーションが9年の場合、-0.87%(=-0.91×9×0.1%-0.05%)と推計できるということである。また、インカムリターンは、10年国債利回りの水準が0.01%の場合、0.98%(=0.36×0.01%+0.98%)と推計できることになる。これらの場合、債券インデックスのトータルリターンは両者の合計である0.11%(=-0.87%+0.98%)と推計される。

推計結果から、キャピタルリターンは、修正デュレーションと金利変化幅で示す式でおおよそ説明できる。推計式の説明力を示す決定係数(R2)も0.90と高い。一方、インカムリターンは、直近の10年国債利回りの水準は0.01%から0.05%程度ということもあり、定数項0.98%の寄与が大きい。
 

2――金利予測に基づく債券インデックス(NOMURA-BPI総合)のリターンの見通し

2――金利予測に基づく債券インデックス(NOMURA-BPI総合)のリターンの見通し

ニッセイ基礎研究所「中期経済見通し(2020~2030年度)」のメインシナリオでは、10年国債利回りは10年後には0.7%にまで上昇すると予測され、その見通しの中では新型コロナウイルスの影響を加味した金融緩和政策の継続と、長引く金融緩和によって金融システムが不安定化するリスクへの懸念が考慮されている。この10年国債利回りの予測に基づき、NOMURA-BPI総合のトータルリターンをキャピタルリターンとインカムリターンに分け、今後10年間にわたって推計した結果が図表2である。推計にメインシナリオに加え、楽観シナリオ、悲観シナリオの3シナリオについても推計した。尚、各シナリオの経済状況だが、国内名目GDP成長率(2021~2030年までの年度平均)は、メインシナリオ、楽観シナリオ、悲観シナリオの順に2.2%、3.1%、1.1%である。

メインシナリオでの累積トータルリターンは、10年間でプラス5%となった。つまり、2020年度末時点で100万円をNOMURA-BPI総合に投資すると、2030年度末には105万円になることを示している。累積トータルリターンを分解すると、2026年度まではインカムリターンの寄与による収益積上げが期待されるが、金利上昇幅が大きくなる2027年度以降はキャピタルリターンとインカムリターンが相殺し合って累積リターンの伸びがほぼ横ばいになっている。

楽観シナリオでは、10年後に10年国債利回りが2.5%まで上昇する予測になっている。インカムリターンによる収益増が期待できるものの、キャピタルリターンによる損失を吸収できず、10年間の累積トータルリターンはマイナス8%となった。
図表2 債券インデックスのリターン予測
悲観シナリオでは、今後10年間にわたり10年国債利回りはマイナス圏での推移が予測されている。金利変化幅が小さいため、インカムリターンによる収益寄与で累積トータルリターンはプラス10%となった。

金利低下によりプラスのキャピタルリターンを得ていた過去10年間の累計20%と比較すると、メインシナリオの累積トータルリターンは累計5%と、そのおよそ4分の1となる。債券市場のパフォーマンスが好調となる悲観シナリオでも累計10%と、約2分の1にすぎない。債券市場としては必ずしも明るい見通しとは言えないものの、それでもメインシナリオではプラスのトータルリターンが見込まれ、今後5年程度の間は楽観シナリオでも僅かではあるがプラスの収益は得られる見通しである。今後、金融緩和が継続され市場金利がマイナスで推移したとしても、クーポンがマイナスの債券を発行するのは難しく、インカムリターンがマイナスになることはないと思われる。

以上の分析は、イールドカーブのパラレルシフトを前提としたシンプルな分析ではあるが、長期的なリターンの推計においては説明力も高く、内容も分かりやすいのではないかと思う。

現状、金利が底であり今後は金利上昇のリスクがあるので、債券投資は回避すべきという意見もあるが、収益性よりも安定性を求める人にとっては、債券投資も当面の投資先になりうるのではないだろうか。一方、収益性を重視する投資家は外国株式等の金融商品が投資対象となるだろうが、投資ポートフォリオ全体においては、ある程度の安定性を確保するため、国内債券を一部組み入れることを検討しても良いのではないかと考えられる。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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(2020年11月19日「基礎研レポート」)

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