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中国「相互宝」の加入者の特性、加入理由、加入効果―中国「ネット互助プラン」が保険事業に与える影響に関する調査

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき
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1――はじめに
調査結果からは、欧米のP2P保険に類似する「ネット互助プラン」3(重大疾病保障)が、地方都市に住む30代以下を中心に加入が進んでおり、加入背景には、病気への備えを少ない負担でというコスト面と、仕組みの分かりやすさや透明性の高さといった保障提供者と加入者間の信頼構築が重視されている状況を捉えることができた。加えて、公的医療保険の自己負担が高いと認識されている上、民間保険が広く普及していないという現状、多くが治療費を十分に準備するのが難しいといった状況にあることも確認した。よって、中国のネット互助プランは、ニッチな保障ニーズではなく、むしろマス(大衆)の保障ニーズに適合した商品を少額の負担で展開したため、広く普及したと推察される。
続いて本稿では、ネット互助プランで加入者が最も多い「相互宝」に焦点を当てて分析をする。相互宝は2018年10月の誕生以降、わずか1年で加入者が1億人に達し、社会や既存の民間保険事業に大きなインパクトを与えた。以下では、相互宝の特徴を捉えながら、加入者の特性、加入理由、加入効果について分析したい。
1 「中国においてP2P保険が急速に普及する理由」基礎研レポート、2020年11月10日発行
2 ニッセイ基礎研究所は、中国におけるネット互助プランが保険事業に与える影響にについてWEB上にてアンケート調査を実施した。調査対象者は、中国における一線都市から四線都市に居住する、1960年代生まれ~2000年代生まれの世代(主に10~50歳代)の男女で、株式会社インテージ提携会社のモニター会員。性年代別の割付は中国の国勢調査(「人口普査」)に基づいている。調査期間は2020年8月7日~8月20日。有効回答件数は1,400。
3 中国においてネット互助プランは、監督管理上、保険に分類されていないことから、本調査では中国語の「網絡互助計画」を「ネット互助プラン」と邦訳して使用する。ただし、ネット互助プランは欧米におけるP2P保険に類似する要素や仕組みを有している。調査時点でネット互助プランは重大疾病保障を中心としている。
2――【相互宝の概要】アリババユーザー向けの癌や重大疾病を給付対象とした互助サービス。費用は割り勘で後払い。
相互宝は2020年7月時点で、加入対象別に3種類ある。59歳までで主に癌などの重大疾病100種類を保障対象とした「重大疾病互助プラン」(2018年10月~)、60歳から69歳の高齢者の癌を保障対象とした「高齢者向け癌プラン」(2019年5月~)、59歳までで慢性病疾患の患者向けに癌を保障対象とした「慢性病罹患者向け癌プラン」(2020年5月~)である。いずれも癌などの重大疾病で、高額な手術費用や長期にわたって治療が必要な疾病を保障している。加えて、高齢者や慢性疾患の患者といった既存の保険市場では引き受けが難しい、または引き受けたとしても保険料が高額になるケースについても、保障を提供している。
なお、各プランの給付内容は以下のとおりといっている。
3 ゴマスコア(「芝麻信用」(Zhima Credit))はアリババ経済圏において、ユーザーの消費行動を350-950点で偏差値化したもの。
相互宝の加入には、2018年当初はゴマスコアが650点必要であったが、その後600点に引き下げられた。
3――【相互宝の加入者特性】地方都市の30代以下を中心に、その家族の加入も進む。よりニッチなニーズに適合した「慢性病罹患者向け癌プラン」は月額負担が相対的に高い。
相互宝の加入者の年代構成を1960年代生まれから2000年代生まれの出生年代別にみると、30代を中心とする1980年代生まれが35.3%と最も多く、次いで20代を中心とする1990年代生まれが20.5%を占めた。相互宝は30代、20代を中心に加入が進んでおり、10代を中心とした2000年代生まれの13.3%を合計すると全体の69.1%を占めた。
相互宝の加入対象者を確認してみると、「あなたのみ」(加入者本人のみ)の加入は28.7%にとどまった。その一方で、「あなたの配偶者」も加入している場合が60.4%と最も多く、「あなたの直系の父母」も加入している場合が25.6%を占め、家族ぐるみの加入が進んでいることが分かった(図表1)。
また、出生年代別にみてみると、「あなたのみ」とする本人のみの加入について、10代を中心とする2000年代生まれが全体より16.2ポイント、20代を中心とする1990年代生まれが全体よりも7.1ポイント上回り、選択割合が高かった。その一方、50代を中心とする1960年代生まれ、40代を中心とする1970年代生まれ、30代を中心とする1980年代生まれはいずれも全体より低かった。「あなたの配偶者」(18-59歳)の加入については有配偶率が高い1960年代生まれが全体より22.9ポイント上回り、1970年代生まれが16.7ポイント、1980年代生まれが全体よりも10.1ポイント上回り、選択割合が高かった。「あなたの直系の父母」については、2000年代生まれが全体より20.6ポイント、1990年代生まれが全体より16.9ポイント上回り、10代、20代を中心に自身の父母の加入を選択する割合が高かった。「あなたの子女」については1980年代生まれが全体よりも7.7ポイント、1970年代生まれが6.9ポイント高く、30-40代の子育て世代を中心に選択割合が高かった。以上の結果から、若年の加入者ほど本人のみや直系の父母の選択割合が高く、高齢の加入者ほど配偶者の選択割合が高いことが分かった。また、その中間にあたる子育て世代はその子女の選択割合が高かった。
「相互宝のみ加入」では、四線都市が回答者全体よりも9.6ポイント上回ると同時に、北京、上海といった一線都市も全体より5.1ポイント上回った。これは相互宝を提供するアリババ・グループのEC(電子商取引)が、大規模都市を中心に普及している点が影響していると考えられる。「相互宝&その他両方に加入」について、一線都市は全体よりも2.7ポイント下回っており、「相互宝のみ加入」に限った場合、一線都市も全体より多いという特徴をとらえることができた。
月額負担費用については「割り勘」であるため一律であるが、自分自身と家族の複数加入をしている人も多いため、各人の月額負担費用は区々となっている。その状況を確認する。
1人あたりの月額負担費用について、全体では「20-29元」(320-460円)が27.8%を占め、最も多かった(図表4)。次いで、「30-39元」(480-620円)が24.4%、「10-19元」(160-300円)が13.1%を占めた。
このように、相互宝は、加入者が30代以下の地方都市居住者を中心に普及し、相対的に少額な負担での加入が可能となっている。若年の加入者ほど本人のみや直系の父母の選択割合が高く、高齢の加入者ほど配偶者の選択割合が高いことが分かった。また、その中間にあたる子育て世代はその子女の選択割合が高かった。月額負担については、重大疾病プランは10-19元が全体よりも選択割合が高く、慢性病患者向け癌プランは30-39元が全体よりも選択割合が高くなるなど、よりニッチなニーズに適合した保障プランは月額負担が相対的に高くなっていた。
(2020年11月12日「基礎研レポート」)
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03-3512-1784
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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