2020年11月10日

中国においてP2P保険が急速に普及する理由―中国「ネット互助プラン」が保険事業に与える影響に関する調査

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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■要旨

インシュアテック(InsurTech)を代表するものの1つとして、P2P保険(peer to peer insurance)が海外で一定の顧客のニーズを取り込んでいる。その中で、今後、インシュアテックやP2P保険の成長が既存の保険事業にどのような影響を与えるかも注目されている。

ニッセイ基礎研究所は、海外の中でも中国に注目し、急速に普及する背景や今後の成長シナリオを考察するためにWEBにてアンケート調査を行った。
 
本稿では、調査結果から、まず、加入状況、加入者像、加入背景などを分析し、中国でなぜ普及が進んでいるのか、その全体像を捉えた。
 

〔調査対象〕中国に居住し、1960年代生まれ~2000年代生まれの各世代(主に10~50代)の男女

〔調査期間〕2020年8月7日~8月20日

〔有効回答件数〕1,400

〔その他〕中国では、プラットフォーマー等が提供し、欧米のP2P保険に類似したスキームを持つ「網絡互助計画」は、監督管理上、保険には分類されていない。よって、本稿では中国語の「網絡互助計画」を「ネット互助プラン」と邦訳して使用している。多くのネット互助プランは癌など重大疾病を給付対象としている。

 
調査結果から、欧米のP2P保険に類似する、中国の「ネット互助プラン」(重大疾病保障)は、地方都市に住む30代以下を中心に加入が進んでいる。調査対象者のうち全体の88.1%が何らかのネット互助プランに加入し、加入が最も多かったのが「相互宝」、次いで「水滴互助」、「愛心筹互助」となった 。

一方、同じ民間保障分野として、多くのネット互助プランと同様に癌などの重大疾病を給付対象とし、保険会社が販売している重大疾病保険の加入状況をみると、加入率は全体の25.0%にとどまった。

ネット互助プランの加入背景は病気への備えを少ない負担で用意したいというコスト面と、仕組みの分かりやすさ、透明性の高さといった保障提供側と加入者の信頼関係が重視されている状況を捉えることができた。加えて、公的医療保険の自己負担の高さ、民間保険がまだ広く普及していないという現状から、ネット互助プランがニッチではなく、むしろマス(大衆)の保障ニーズに適合した商品を少額の負担で展開したため、広く普及したと推察することができた。

■目次

1――はじめに 
2――【加入状況】
  全体の88.1%がなんらかのネット互助プランに加入。一方、既存の民間保険(重大疾病)の
  加入は25.0%。「相互宝」の加入が最も多いものの、複数加入の傾向が見られる。
3――【加入者像】
  加入者の7割を1980年代生まれ(30代)以下で構成。6割が地方都市の居住者で、世帯月収は
  2万元(約32万円)以下。ネット互助プランの月額負担は7割が39元(約620円/1人あたり)
  以下と低額に抑えられている。
4――【加入背景】
  加入理由では、病気への備え、少ない負担、仕組み・透明性の高さを重視。加入者の7割が癌
  など重大疾病にかかった際の治療費(自己負担分)を準備するのが難しい状況。
5――おわりに
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

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【中国においてP2P保険が急速に普及する理由―中国「ネット互助プラン」が保険事業に与える影響に関する調査】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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