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- ライブコマースで保険販売(中国)-保険業界発のインフルエンサーは誕生するのか。
コラム
2020年07月07日
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商品をネットでライブ(動画)配信し、視聴者がその場でやり取りをしながら、購入できるライブコマース。視聴者側はライブ配信を見ながら質問ができたり、配信者側はそれに対する答えを即座に返せたり、その場で実践して見せたりしながら、双方向のやり取りが可能だ。特に、中国ではすでに販売チャネルの1つとしてそのプレゼンスを向上させている。
中国ではすでにライブコマース上のインフルエンサー(中国語:「网紅」、KOL(Key Opinion Leader))も出現し、その影響力が大きく取り上げられている。商品自体がディスカウントされている場合もあるが、短時間で大量、多額の販売が可能だ。店舗や対面での販売が回避されがちなウィズ・コロナ時代に、新しい販売チャネルとしても期待が寄せられている。
例えば、「口紅一哥」(口紅王子)の李佳琦などが有名であろう。元は男性の化粧販売の担当者であるが、自身で商品の口紅をつけ、使用感などをライブ配信する。「买它!买它!买它!」(「买」は日本語で「買う」、「它」は「それ」の意味)、「OMG」(「oh my God」の略)などの決まり文句を連呼し、1つの商品をわずか5分ほどで数千万円売り上げる。その影響力から、今や取り扱う商品は口紅にとどまらず、多くの分野に広がっている。
中国の保険業界もそんなライブコマースに挑戦しようとしている業界の1つである。新型コロナ以降、当局の規制もあって、対面でしていた保険販売や手続きはオンライン化が加速している。生命保険事業において、これまで保険料収入のおよそ半分はエージェント、つまり‘人’を介して成り立っていた。ライブコマースの浸透や少額の投資で配信開始が可能であることもあり、中小の保険会社やブローカーを中心に自社のプラット・フォーム上や抖音、快手、淘宝、微信(Wechat)といった外部の媒体を活用した保険のライブ配信が始まっている1。
上掲のような注目度から、今回、民間最大手の中国平安保険も本格参入に踏み切ったことが話題になった。そもそも平安保険グループはフィンテックを事業の柱の1つに据えており、金融分野におけるデジタルトランスフォーメーションの成功事例としても有名である。5月27日、保険分野のトップ陸敏CEOは、自らが先頭に立って、自社アプリ‘平安金管家’で保険の役割や商品についてライブ配信を行った。同社によると、わずか1時間でおよそ103万人が視聴し、その効果は今後3ヶ月の間に今回視聴して獲得した顧客からおよそ1.6億元(約24億円)の保険料収入がもたらされると推計している2。
実は、これに先立って、傘下の生命保険会社である中国平安人寿が実験的な取り組みを開始していた。今年に入ってからは、傘下または外部のライブ配信のプラット・フォームを活用しながら、登録ユーザー向けに「平安星(スター)生活」として、ライフイベントや老後の生活、こどもの教育の問題など保険と関わる話題を取り上げていた。ライブ配信の内容や方向性を検討する中で、著名人の登場や対談で注目を集め、若いユーザーのリスク管理や保険に関する知識の向上をはかり、最終的には顧客獲得を目指していた。
4月には「平安星(スター)学院」を開設、また、「平安星(スター)計画」など、平安人寿が抱える優秀な100名のエージェントを競わせ、生命保険分野におけるインフルエンサーの育成を目指している3。新型コロナによる対面式の販売が規制される中で、これまで育成した人材をどう活用し、活躍の場を与えていくのか。オンラインとオフラインのサービスを融合させることで事業を拡大し、年間の収入保険料の8割をエージェントが占める同社にとっては、ある意味、死活問題でもある。
ただし、こういった盛り上がりに早くも警鐘を鳴らしているのが保険当局である。保険会社の本部や支店が多く集まる北京市当局は、6月に通知を発し、行き過ぎた宣伝に釘を刺している。これまでに見られる問題として、保険商品の売り止めや時間を制限した販売などで加入を迫ったり、利回りの過大表示、その他の金融商品との混同を招く宣伝手法などを挙げている。当局は、ライブコマースを通じて販売された保険はネット保険に属し、当局の監督・管理を受けるとしている。保険会社は第三者のプラット・フォームに保険のライブコマースを委託したとしても、その内容について責任を負うのは保険会社としている。早くも官民の攻防が始まっている。
1 例えば、5月18日、華夏保険では、アクチュアリーがライブ動画配信を実施。視聴者は91万人を超え、1回の放送によって今後契約が見込まれる保険料収入の推計は4億元とされている。
2 (参考)中国平安保険グループの2019年の保険部門で、収入保険料の総額(生損保合計)は7,946億元であった。『中国平安保険2019年報』より算出。
3 2019年末時点で、平安保険が抱えるエージェントは117万人。2019年の中国平安人寿の保険料収入のうち、84.1%がエージェントによる。
中国ではすでにライブコマース上のインフルエンサー(中国語:「网紅」、KOL(Key Opinion Leader))も出現し、その影響力が大きく取り上げられている。商品自体がディスカウントされている場合もあるが、短時間で大量、多額の販売が可能だ。店舗や対面での販売が回避されがちなウィズ・コロナ時代に、新しい販売チャネルとしても期待が寄せられている。
例えば、「口紅一哥」(口紅王子)の李佳琦などが有名であろう。元は男性の化粧販売の担当者であるが、自身で商品の口紅をつけ、使用感などをライブ配信する。「买它!买它!买它!」(「买」は日本語で「買う」、「它」は「それ」の意味)、「OMG」(「oh my God」の略)などの決まり文句を連呼し、1つの商品をわずか5分ほどで数千万円売り上げる。その影響力から、今や取り扱う商品は口紅にとどまらず、多くの分野に広がっている。
中国の保険業界もそんなライブコマースに挑戦しようとしている業界の1つである。新型コロナ以降、当局の規制もあって、対面でしていた保険販売や手続きはオンライン化が加速している。生命保険事業において、これまで保険料収入のおよそ半分はエージェント、つまり‘人’を介して成り立っていた。ライブコマースの浸透や少額の投資で配信開始が可能であることもあり、中小の保険会社やブローカーを中心に自社のプラット・フォーム上や抖音、快手、淘宝、微信(Wechat)といった外部の媒体を活用した保険のライブ配信が始まっている1。
上掲のような注目度から、今回、民間最大手の中国平安保険も本格参入に踏み切ったことが話題になった。そもそも平安保険グループはフィンテックを事業の柱の1つに据えており、金融分野におけるデジタルトランスフォーメーションの成功事例としても有名である。5月27日、保険分野のトップ陸敏CEOは、自らが先頭に立って、自社アプリ‘平安金管家’で保険の役割や商品についてライブ配信を行った。同社によると、わずか1時間でおよそ103万人が視聴し、その効果は今後3ヶ月の間に今回視聴して獲得した顧客からおよそ1.6億元(約24億円)の保険料収入がもたらされると推計している2。
実は、これに先立って、傘下の生命保険会社である中国平安人寿が実験的な取り組みを開始していた。今年に入ってからは、傘下または外部のライブ配信のプラット・フォームを活用しながら、登録ユーザー向けに「平安星(スター)生活」として、ライフイベントや老後の生活、こどもの教育の問題など保険と関わる話題を取り上げていた。ライブ配信の内容や方向性を検討する中で、著名人の登場や対談で注目を集め、若いユーザーのリスク管理や保険に関する知識の向上をはかり、最終的には顧客獲得を目指していた。
4月には「平安星(スター)学院」を開設、また、「平安星(スター)計画」など、平安人寿が抱える優秀な100名のエージェントを競わせ、生命保険分野におけるインフルエンサーの育成を目指している3。新型コロナによる対面式の販売が規制される中で、これまで育成した人材をどう活用し、活躍の場を与えていくのか。オンラインとオフラインのサービスを融合させることで事業を拡大し、年間の収入保険料の8割をエージェントが占める同社にとっては、ある意味、死活問題でもある。
ただし、こういった盛り上がりに早くも警鐘を鳴らしているのが保険当局である。保険会社の本部や支店が多く集まる北京市当局は、6月に通知を発し、行き過ぎた宣伝に釘を刺している。これまでに見られる問題として、保険商品の売り止めや時間を制限した販売などで加入を迫ったり、利回りの過大表示、その他の金融商品との混同を招く宣伝手法などを挙げている。当局は、ライブコマースを通じて販売された保険はネット保険に属し、当局の監督・管理を受けるとしている。保険会社は第三者のプラット・フォームに保険のライブコマースを委託したとしても、その内容について責任を負うのは保険会社としている。早くも官民の攻防が始まっている。
1 例えば、5月18日、華夏保険では、アクチュアリーがライブ動画配信を実施。視聴者は91万人を超え、1回の放送によって今後契約が見込まれる保険料収入の推計は4億元とされている。
2 (参考)中国平安保険グループの2019年の保険部門で、収入保険料の総額(生損保合計)は7,946億元であった。『中国平安保険2019年報』より算出。
3 2019年末時点で、平安保険が抱えるエージェントは117万人。2019年の中国平安人寿の保険料収入のうち、84.1%がエージェントによる。
(2020年07月07日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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