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- 貸出・マネタリー統計(20年10月)~銀行貸出の伸び率が連月で低下、現金流通高の伸び率上昇は止まらず
2020年11月11日
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1.貸出動向:貸出の伸び率が2カ月連続で低下、資金需要一服
また、地銀(第2地銀を含む)の伸び率も同5.23%(前月は5.34%)と、わずかながら2カ月連続で低下している(図表3)。
地銀が主に対象とする中小企業においては、政府が経済対策の一環で実施している「民間金融機関による無利子・無担保融資」の利用が続いているものの、その前提となる信用保証協会による保証承諾額(フロー)は6月をピークに減少を続けており、保証債務残高の伸びも鈍化してきている(図表4)。
経済活動が緩やかながら回復に向かっていることで企業の資金繰りがやや改善し、資金需要の増加が一服したとみられる。こうした貸出の動向は、以下のアンケート調査の結果とも整合的な内容と言える。
地銀が主に対象とする中小企業においては、政府が経済対策の一環で実施している「民間金融機関による無利子・無担保融資」の利用が続いているものの、その前提となる信用保証協会による保証承諾額(フロー)は6月をピークに減少を続けており、保証債務残高の伸びも鈍化してきている(図表4)。
経済活動が緩やかながら回復に向かっていることで企業の資金繰りがやや改善し、資金需要の増加が一服したとみられる。こうした貸出の動向は、以下のアンケート調査の結果とも整合的な内容と言える。
(主要銀行貸出動向アンケート調査)
日銀が10月21日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2020年7-9月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は14と過去最高であった前回(4-6月期)の59から大幅に低下した。D.I.の水準は引き続き高めではあるものの、前倒しで資金調達を進めた先があったことや経済活動の再開が進んでいることを受けて、資金需要の増加は一服している(図表5)。
企業規模別では、大企業向けが1(前回は46)、中小企業向けが24(前回は54)とともに大幅に低下しているが、中小企業向けはまだ水準が高く、根強い資金需要が存在している(図表6)。中小企業向けの需要が「(やや)増加した」とした先にその要因を尋ねた問いでは、「資金繰りの悪化」、「手許資金の積み増し」を挙げた先が多かった。
一方、個人向け資金需要判断D.I.は3と過去最低を記録した前回(▲24)から上昇し、プラス圏(「増加」が優勢)に浮上した(図表5)。主力の住宅ローンが7(前回は▲19)とプラス圏に転じた。住宅ローン需要が「(やや)増加」とした先にその要因を尋ねた問いでは、「住宅投資の拡大」と「その他」を挙げた先が多くみられた。経済活動再開に伴って、住宅需要が回復しつつあることを反映しているとみられる。一方、消費者ローンのD.I.は▲13(前回は▲31)と引き続きマイナス圏(「減少」が優勢)に留まった。「(やや)減少」とした先にその要因を尋ねた問いでは、「個人消費の減少」を挙げた先が最も多かった。
今後3ヵ月の資金需要については、企業向けD.I.が9と7-9月期から低下、増勢が引き続き鈍化するものの、引き続き資金需要自体は増加するとの見立てになっている。他方、個人向けD.I.は0に留まっており、資金需要の増加は見込まれていない(図表5)。
日銀が10月21日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2020年7-9月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は14と過去最高であった前回(4-6月期)の59から大幅に低下した。D.I.の水準は引き続き高めではあるものの、前倒しで資金調達を進めた先があったことや経済活動の再開が進んでいることを受けて、資金需要の増加は一服している(図表5)。
企業規模別では、大企業向けが1(前回は46)、中小企業向けが24(前回は54)とともに大幅に低下しているが、中小企業向けはまだ水準が高く、根強い資金需要が存在している(図表6)。中小企業向けの需要が「(やや)増加した」とした先にその要因を尋ねた問いでは、「資金繰りの悪化」、「手許資金の積み増し」を挙げた先が多かった。
一方、個人向け資金需要判断D.I.は3と過去最低を記録した前回(▲24)から上昇し、プラス圏(「増加」が優勢)に浮上した(図表5)。主力の住宅ローンが7(前回は▲19)とプラス圏に転じた。住宅ローン需要が「(やや)増加」とした先にその要因を尋ねた問いでは、「住宅投資の拡大」と「その他」を挙げた先が多くみられた。経済活動再開に伴って、住宅需要が回復しつつあることを反映しているとみられる。一方、消費者ローンのD.I.は▲13(前回は▲31)と引き続きマイナス圏(「減少」が優勢)に留まった。「(やや)減少」とした先にその要因を尋ねた問いでは、「個人消費の減少」を挙げた先が最も多かった。
今後3ヵ月の資金需要については、企業向けD.I.が9と7-9月期から低下、増勢が引き続き鈍化するものの、引き続き資金需要自体は増加するとの見立てになっている。他方、個人向けD.I.は0に留まっており、資金需要の増加は見込まれていない(図表5)。
2.マネタリーベース: 日銀は高水準の資金供給を継続
11月4日に発表された10月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの前年比伸び率(平残)は16.3%と、前月(同14.3%)を大きく上回り、2017年8月以来の高水準となった(図表7)。
引き続き、日銀当座預金の減少要因となる政府による短期国債(国庫短期証券)が大規模に発行されたが、日銀が大規模な買入れ(日銀当座預金の増加要因)を続けたほか、金融機関向け貸出である新型コロナ対応金融支援特別オペの実施もあり、日銀当座預金残高が押し上げられた。なお、長短国債の買入れ額はコロナ拡大前と比べて高い水準が維持されているものの、長期国債の買入れ増は限定的であり、短期国債の買入れ増も夏場以降ペースダウンしている(図表8・9)。
また、日銀券発行高の伸び率が前年比6.0%(前月も同じ)と高止まりしたうえ、貨幣流通高の伸び率が同2.1%(前月は1.9%)と持ち直したことも、マネタリーベースの高い伸びに寄与している(図表7)。本来、キャッシュレス化の進展は現金需要の逆風になるが、ATMの利用減少等によって家計に滞留する現金が増加したとみられるほか、経済活動再開に伴って現金需要がやや回復したことが影響したと推測される1。
10月末時点のマネタリーベース残高は608兆円と前月末比2.2兆円増とやや増加した。季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、10月は前月比12.4兆円増と引き続き高い伸びを維持している(図表10)。
日銀は引き続き前向きな緩和姿勢を維持し、各種資産の買入れや資金供給を積極的に続けると見込まれることから、マネタリーベースは当面高い伸びが続く可能性が高い。
引き続き、日銀当座預金の減少要因となる政府による短期国債(国庫短期証券)が大規模に発行されたが、日銀が大規模な買入れ(日銀当座預金の増加要因)を続けたほか、金融機関向け貸出である新型コロナ対応金融支援特別オペの実施もあり、日銀当座預金残高が押し上げられた。なお、長短国債の買入れ額はコロナ拡大前と比べて高い水準が維持されているものの、長期国債の買入れ増は限定的であり、短期国債の買入れ増も夏場以降ペースダウンしている(図表8・9)。
また、日銀券発行高の伸び率が前年比6.0%(前月も同じ)と高止まりしたうえ、貨幣流通高の伸び率が同2.1%(前月は1.9%)と持ち直したことも、マネタリーベースの高い伸びに寄与している(図表7)。本来、キャッシュレス化の進展は現金需要の逆風になるが、ATMの利用減少等によって家計に滞留する現金が増加したとみられるほか、経済活動再開に伴って現金需要がやや回復したことが影響したと推測される1。
10月末時点のマネタリーベース残高は608兆円と前月末比2.2兆円増とやや増加した。季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、10月は前月比12.4兆円増と引き続き高い伸びを維持している(図表10)。
日銀は引き続き前向きな緩和姿勢を維持し、各種資産の買入れや資金供給を積極的に続けると見込まれることから、マネタリーベースは当面高い伸びが続く可能性が高い。
1 日銀券発行高と貨幣流通高の動向については、「二極化が進む現金流通高~一万円札は急増、五円玉は減少止まらず」(基礎研レター、2020年08月13日)をご参照ください。
3.マネーストック:通貨量の伸びが6ヵ月連続で過去最高を更新、現金の伸び率上昇は止まらず
11月11日に発表された10月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比9.00%(前月は8.96%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同7.50%(前月は7.44%)とともにわずかに上昇した(図表11)。伸び率はともに6カ月連続で2004年4月の現行統計開始以降の最高を更新したが、上昇ペースは明らかに鈍化している。既述のとおり、貸出の伸び率が低下していることが影響していると考えられる。
M3の内訳では、普通預金等の預金通貨(前月15.5%→当月15.2%)の伸び率が15カ月ぶりに低下し、全体の伸びを抑制した(図表12)。一方で、現金通貨(前月5.7%→当月6.0%)の伸び率が上昇し、2016年6月以来の高水準に達したほか、CD(譲渡性預金・前月▲4.0%→当月1.7%)の伸びがプラスに転じたことが下支えとなった。なお、定期預金などの準通貨(前月▲2.1%→当月▲2.0%)の伸びは引き続きマイナス圏かつ小動きであった(図表13)。
M3の内訳では、普通預金等の預金通貨(前月15.5%→当月15.2%)の伸び率が15カ月ぶりに低下し、全体の伸びを抑制した(図表12)。一方で、現金通貨(前月5.7%→当月6.0%)の伸び率が上昇し、2016年6月以来の高水準に達したほか、CD(譲渡性預金・前月▲4.0%→当月1.7%)の伸びがプラスに転じたことが下支えとなった。なお、定期預金などの準通貨(前月▲2.1%→当月▲2.0%)の伸びは引き続きマイナス圏かつ小動きであった(図表13)。

内訳を見ると、既述の通り、M3の伸び率がわずかに上昇したものの、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース前月4.4%→当月1.1%)や外債(前月2.4%→当月0.7%)の伸びが低下したほか、規模の大きい金銭の信託(前月▲1.6%→当月▲1.7%)、国債(前月▲0.9%→当月▲1.2%)の伸び率がマイナス幅を広げたことが影響した(図表13)。
資金需要が一服し、貸出の伸び率が足元で低下しているうえ、各種給付金の支給も峠を越えているとみられるため、マネーストックの伸び率上昇も今後緩やかに低下へ向かう可能性が高い。ただし、今後、仮に新型コロナの感染が今後急拡大し、資金需要が再び高まれば、マネーストックの伸び率ももう一段上昇することになる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年11月11日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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