2020年11月06日

英国金融政策(11月MPC)-1500億ポンドの国債追加購入を決定

経済研究部 准主任研究員   高山 武士

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1.結果の概要:量的緩和拡大を決定

11月4および5日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、金融政策について決定・公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
・政策金利を0.1%で維持(変更なし)
「国債」の購入総額を8750億ポンドまで増額する(社債との合計では8950億ポンドに増額)
(これまでは「国債および投資適格級社債」の購入を総額7450億ポンドで実施。

 社債」保有分は200億ポンドで維持、7250億の「国債」保有分を1500億ポンド増額

【記者会見およびMPR(趣旨)】
・英国のGDPは20年10-12月期には(前期比で)2%近く落ち込むと見られる
GDP成長率見通しは、2020年▲11%、21年7.25%、22年6.25%、23年1.75%

2.金融政策の評価:1500億ポンドの追加緩和、経済の先行きは厳しい

イングランド銀行は、今回のMPCで国債の1500億ポンドの追加購入を決定、市場予想の1000億ポンドを上回る規模の量的緩和を公表した。

具体的には、6月のMPCで決定した追加緩和である「年始(around the turn of the year)にかけて実施する1000億ポンドの資産購入」を継続するとともに、「来年1月から来年末(around the end of 2021)にかけて追加で1500億ポンドの国債購入を実施する」とした。

また、これまでは「国債および投資適格級の社債」を対象に資産購入を実施していたが、今回は「社債」については200億ポンドを維持(maintain the stock)とている。国債購入という量的緩和の側面は拡充するとともに、信用緩和の側面(社債購入)は市場の落ち着きもあって、いったん収束させた形と見られる。一方、マイナス金利については、記者会見において手段のひとつであるが実務的な課題に取り組んでいるとした。

今回新しく公表された11月の金融政策報告書(MPR)では、新しい経済見通しが公表された。実質GDPは新型コロナウイルスの感染拡大と封じ込め政策によって20年10-12月期は前期比でマイナスとなる点を指摘し、20年通年の見通しも下方修正(8月時点:20年▲9.5%→今回:20年▲11%)している。また、EUからの離脱(Brexit)については「新しい貿易協定の種類や移行方法」は中央見通しにおいてはカナダとの包括的貿易投資協定に類似したものを想定しているとしたが、移行への適応では、貿易やGDPの低下圧力になり、特に2021年上半期は一時的に下押し圧力が強くなると指摘している。ただ、現在の英国・EUの通商交渉に大きな進展がないことに鑑みると、中央見通しよりは下方に傾いていると言えるだろう。

イングランド銀行は、今回、見通しを下方修正したが、感染拡大第2波やEUとの通商交渉についてはいずれも不透明感が高く、経済の先行きは厳しいと言えるだろう。

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
    • Covid-19のパンデミックによる経済・金融への影響にどのように反応するかが課題
    • 政策金利(バンクレート)を0.1%で維持する(全会一致で決定)
    • 投資適格級の非金融機関社債で200億ポンドの保有を維持する(全会一致で決定)
    • 現行の政策下での国債の1000億ポンドの購入を続ける(全会一致で決定)
    • 国債購入額を1500億ポンド増やし、総額8750億ポンドまで購入する(全会一致で決定)
       
  • 前回の委員会以降、ウイルスの感染拡大が急速に進んでいる
    • 英国政府と当局はウイルスの封じ込め政策を強化することで対応している
    • 10月31日までに公表されたすべての制限策は、委員会の判断として反映されている
       
  • 高頻度指標は、個人消費の鈍化の兆しを示す一方、投資意欲は依然として弱い
    • 最新の経済活動およびインフレ見通しについては11月のMPRに示されている
    • ウイルスに関連する状況は、8月のMPR見通しと比較して、足もとの消費の重しとなっており、2020年10-12月期の落ち込みとして反映されている
       
  • 家計消費とGDPは封じ込め政策の緩和により2021年1-3月期には上向くと見られる
    • 21年1-3月期の経済活動水準は、19年10-12月期より依然として低いと見られる
    • 英国が単一市場・関税同盟を抜ける来年初からEUとのFTAに移行できるという想定のもと、貿易およびGDPについては、来年の上半期は初期移行の影響を受ける
       
  • 見通しの残りの期間は、ウイルスの経済への直接的な影響が薄れていくことで、さらに回復すると見ている
    • 経済活動は多くの財政政策や緩和的な金融政策により支えられる
    • しかしながら、回復には時間を要すると見られ、また見通しは下方リスクに傾いている
       
  • 2020年の経済活動は、需要・供給双方の低下を反映して急落した
    • 総じて見ると、経済の生産力余剰は大きいと判断される
    • 労働力調査基準の失業率は6-8月平均で4.5%まで上昇したが、労働市場の弛み(slack)は失業率が示す以上に増加している可能性が高い
    • 延長された雇用維持政策と、新しい雇用支援策は労働市場における経済活動の弱さを大きく軽減すると見られる
    • 失業率は21年4-6月期にはピークに達し7.75%程度まで上昇すると見られる
    • その後は経済活動が上向き、予想期間の後半にかけてやや超過需要が生まれ、生産力余剰が解消していくと見られる
       
  • CPIインフレ率は、ウイルスの直接・間接的な影響で9月に0.5%まで上昇したものの、MPCの目標である2%を大きく下回る
    • これは、生産力余剰による価格下落圧力のほか、エネルギー価格の低迷とVAT(付加価値税)の引き下げという一時的な影響も反映している
    • インフレ率は、冬季は0.5%かそれをやや上回る水準で推移し、エネルギー価格やVATの影響が解消することで、目標に向け大きく上昇するだろう
    • 見通し中央値ではインフレ率は、現在の資産価格の前提のもとでは、2年間で2%程度になるだろう
       
  • 経済見通しにはかなりの不確実性が残る
    • 感染拡大の進展と実施される公衆衛生保護策、およびEUと英国の間の新たな貿易協定の種類や移行方法に依存する
    • また、家計、企業、金融市場がこれらの進展にどのように反応するかにも依存する
       
  • 委員会は今回の会合で、さらなる金融政策の緩和が必要であると判断した
    • 委員会は、中期的な物価目標の達成のために、国債購入額を1500億ポンド増額し、総額で8750億ポンドまで購入することに合意した
    • 委員会は、引き続き資産購入策について検討を続ける
       
  • MPCは引き続き状況を注視する
    • インフレ見通しが低下すれば、MPCは目的を達成するために必要な追加策を用意する
       
  • MPCは生産力余剰の解消と、2%のインフレ目標の安定的達成への著しい進展についての確証が得られるまでは、金融政策を引き締めるつもりはない

4.記者会見の概要

記者会見の冒頭説明原稿の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り1
 
1 また、報告書の内容も冒頭説明原稿に関する部分を中心に追記
(Covid-19の経済への影響)
  • 8月の報告書公表以降、ウイルスと封じ込め政策の状況は劇的・急速に変化し、英国や世界経済に影響を及ぼしてきた
 
(世界経済の状況)
  • 世界経済は、感染拡大と封じ込め政策としての社会的距離政策(ソーシャルディスタンス)を反映して2020年上半期に大きく落ち込んだ
    • 20年7-9月期は、感染者数が減少したことで世界経済活動は低水準から持ち直した
    • しかしながら、足もとでは、英国を含む多くの国で感染者の再拡大が見られる
 
(MPC見通し)
  • 英国のGDPは20年10-12月期には2%近く落ち込むと見られる
    • これは20年7-9月期に経験した落ち込みよりはかなり小さい
    • しかしながら、GDP水準で見れば年初よりも9%近く落ち込んでいる
  • GDP成長率見通しは、2020年▲11%、21年7.25%、22年6.25%、23年1.75%
    (8月時点では20年▲9.5%、21年9%、22年3.5%)
    • 失業率見通しは20年6.25%、21年6.75%、22年5%、23年4.25%(いずれも10-12月期)
    • CPIインフレ見通しは20年0.5%、21年2%、22年2%、23年2%(いずれも10-12月期の前年比)
  • 見通しには10月31日までに公表されたすべての制限策が反映されている
    • イングランド全域における12月2日までの措置やスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各地域での措置が考慮されている
  • 明らかに、先々の制限策には大きな不確実性がある
    • 英国全体で見て、10月中旬に実施されていたような平均的な制限策が、21年1-3月期の終わりまで続くと想定している
  • 20年1-3月期以降は、制限策は次第に緩和されると想定している
    • ウイルスは健康への懸念や不確実性を通じて経済に影響を及ぼし続けると見られる
    • ただし、時間の経過とともに健康懸念や不確実性は徐々に解消されると見られる
  • 結果として、見通し期間を通じて経済への直接的な影響は解消され、支出は回復するだろう
    • しかしながら、家計・企業支出への影響を通じて、感染拡大による経済への間接的な影響は持続するだろう
  • 21年上半期は、EUとの新しい貿易関係に適応するために、貿易が減少すると見られる
  • MPCの中央見通しは、政府の政策通り、21年1月には英国が単一市場・関税同盟を抜け、即時EUとの新しいFTAに移行できるという想定している
    • これまでの報告書と同様に、カナダ・EU間の包括的貿易投資協定と類似した規模・深さを想定している
  • これまでのMPC見通しと同様に、財・サービス貿易は結果として落ち込む可能性が高いと判断している
    • 実証分析によれば見通し期間を通じ、EUとの貿易の減少が生産性やGDPの重しになる
  • 銀行や企業調査・情報によれば、一部は貿易協定への課題に準備できていると感じているが、一部、特に小規模企業は、ウイルスの妨害により、完全に準備ができていると感じていない
  • したがって、11月の中央見通しでは企業の新しい協定への対応は、短期的には(これまでよりも)より影響を及ぼすと想定している
    • 貿易への追加的な影響は一時的なもので、企業が対応するまで6か月程度をかけて解消していくと想定している
  • MPCの中央見通しでは、22年1-3月期まで19年4-6月のGDP水準を回復しない
    • その結果、失業率は21年4-6月期に7.75%程度のピークに達し、その後はGDPが回復するにつれ、低下していくと想定している
 
(物価環境)
  • インフレ中央見通しでは、2年間で2%に達すると想定しているが、需要・供給バランス、インフレ経路については依然として不確実性が大きい
 
(当面の金融政策決定)
  • (金融政策の方針は第3節に記載の通り)
  • 委員会は、中期的な物価目標の達成のために、国債購入額を1500億ポンド増額し、総額で8750億ポンドまで購入することに合意した
    • この措置で、国債購入残高は2021年末頃までに8750億ポンドに達すると見込まれる
  • 3月に明らかになったように、経済を支え、短期的な混乱を回避するために、迅速かつ強力に行動することに価値があると信じている
    • これはIMFにより最近実施された4条協議でも支持された方法である
    • 来年末までの資産購入は、健康や経済の見通しを確実にするための支援となるだろう
 
 

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経済研究部   准主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、国際経済

(2020年11月06日「経済・金融フラッシュ」)

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【英国金融政策(11月MPC)-1500億ポンドの国債追加購入を決定】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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