2020年11月04日

世界各国の金融政策・市場動向(2020年10月)-欧州感染拡大や大統領選でリスクオフの動きも

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:株は下落、通貨はややドル安が進む

10月に世界各国1で実施された金融政策および、株価・為替の動きは以下の通り。
 

【10月金融政策】


【10月の株価・対ドル為替レートの動き】
・多くの国で下落、欧州感染拡大や大統領選を控えたリスクオフの動きと見られる(図表1)
・全体としてはドル安が進んだが、対トルコではリラが大きく下落した(図表2)

(図表1)世界株価の動向/(図表2)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する49か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。

2.金融政策:トルコは政策金利維持がリラ安を促進

10月の各国金融政策では、金融政策の方針を変更した国はわずかだった。先進国ではカナダが資産購入ペースの縮小(週あたり購入額の減額)を明示したが、欧米などではすでに購入ペースの縮小が見られており、金融市場の落ち着きを反映しての調整をしている2

新興国では、金融政策の大きな変更は見られなかった3。トルコでは前回の金融政策決定会合で利上げに踏み切ったが、今回は政策金利の変更はしなかった。市場では追加利上げを予想する向きも多かったため、会合後にはリラ安が進み、市場最安値を更新している(為替レートについては後述)。
 
2 FRBやECBはもともと資産購入ペースを明示していないが、購入額の推移を見ると、金利の上昇が進んだ上半期からは購入額を減らしている。この他、カナダ銀行は国債購入を長期債にシフトすることや、一部の量的・信用緩和策を縮小・終了を決めている。
3 アルゼンチン中央銀行は政策金利の変更のほか、為替レートに関連して、通貨変動の柔軟性を高める決定を行った(管理フロート制における通貨変動をこれまで以上に許容する変更)。ただし、アルゼンチンでは公定レートと非公式レートの差が大きく開いており、中央銀行の決定によって公定レートが非公式(実勢)レートに近づくかは不透明と言える。

3.金融市場:株にリスクオフの動きが台頭

MSCI ACWIにおける月間騰落率を見ると、全体では前月▲2.5%、先進国が前月比▲2.8%、新興国が前月比▲1.0%となり、先進国・新興国ともに前月に引き続き2か月連続での下落となった。その結果、全体の指数も年初を割る水準まで低下することとなった(前掲図表1)。
(図表3)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 国別の株価の動きを見ると、今月は前月比で上昇した国は49か国中9か国に留まっている(図表3)。主要国では、中国が唯一好調で、前年比でも高い伸び率を維持しているが、その他に高い伸び率を記録したフィリピンやインドネシアは、前年比ではまだ低迷していると言える。先進国はオーストラリアとニュージーランドが前月比で小幅に上昇したが、その他の国は総じて下落している。米国の大統領選が11月に控えているほか、欧州で新型コロナウイルスの感染が急拡大したことで、多くの国でリスク回避的な動きが強まったと見られる(図表4)。
(図表4)各国の株価変動率
通貨の騰落率を見ると、対ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比+1.5%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比2.1%となり、ドル安が進んでいる4(前掲図表2)。
(図表5)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 ただし、通貨別の動きはまちまちで、MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、今月は38通貨中21通貨が対ドルで上昇(ドル安方向)、17通貨で下落(ドル高)となった(図表5)。
ドル安については、先進国通貨では円高ドル安が若干すすんだのみで、総じて小幅な値動きだったと言える。新興国も、トルコリラを除き大きな変動が抑制されるなかで、メキシコペソなどを中心に購入されてドル安が進んでいる。米大統領選でバイデン候補が勝利すれば、メキシコとの関係改善が見込まれるとする、いわゆる「バイデントレード」による新興国通貨高を指摘する声もある。

トルコリラについては、前述の通り政策金利を維持したことに加えて、そもそも外貨準備高などの経済基盤の弱さや地政学的リスクの高まり5、トルコ制裁強化の思惑(バイデントレード)が重なったことで、1ドル8リラの節目を大きく割り込んでリラ安が進んだ(図表6)。
(図表6)各国の対ドル為替レート変動率
 
4 名目実効為替レートは10月27日の前月末比で算出。
5 東地中海の海底資源問題を巡るギリシャ・EUとの対立、アゼルバイジャンとアルメニアの軍事衝突など。
(参考)主要国の新型コロナウィルス拡大後の金融政策一覧
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

(2020年11月04日「経済・金融フラッシュ」)

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