コラム
2020年11月05日

Withコロナ下におけるベートーヴェンの「第九」-今後の関係者の取組みに注目-

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長   中村 亮一

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はじめに

クラシック音楽のファンならずとも、毎年年末になるとベートーヴェンの「第九」(交響曲第9番(合唱))が大きな話題になることはご存知だと思われる。かくいう私も毎年年末にはどこかの交響楽団の「第九」を聴くに行くのを恒例の行事としている。

ところが、今年に関しては新型コロナウイルスの感染拡大というリスクを抱えている状況下で、従来のようにベートーヴェンの「第九」を演奏することがかなり厳しくなるのではと想定されていたことから、関係者がどのような対応を行っていくのかが大変注目されていたものと思われる。

2020年はベートーヴェンの生誕250周年

そもそも、2020年はベートーヴェンの生誕250周年というメモリアルイヤーということで、クラシック音楽界は大いに盛り上がるはずだった。ベートーヴェンは1770年12月16日にドイツのボンで生まれたとされている。正確には12月16日頃ということのようだが、いずれにしても1770年生誕ということで、2020年は大変重要な年ということになっていた。今年の12月16日に「第九」等のベートーヴェンの曲が演奏されるとすれば、極めて貴重な人気公演になるはずだと思われた。

ところが、ベートーヴェンの生誕250周年を記念して、多くのイベントが企画されていたものの、少なくとも9月頃まではそれらのほぼ全てが中止ないしは延期に追い込まれてきた。代表的なものでいえば、3~4月の「東京・春・音楽祭」、5月の「ラ・フォル・ジュルネ」等の大規模な音楽祭でベートーヴェン作品の特集が組まれていたことが挙げられる。

やっと、9月下旬から、新型コロナウイルス感染症対策におけるイベント人数制限の緩和等が行われたこともあり、今後は改めて延期等されていた公演の一部が開催されていくことが期待される状況になっていた。

ベートーヴェンの「第九」

ベートーヴェンの数多くの作品の中で、「第九」が特別な地位を占めていることはいうまでもない。日本人が好きなクラシック作品の中でも常に上位に位置づけられ、その人気・知名度とも他に類も見ないものとなっているものと思われる。毎年年末にベートーヴェンの「第九」が日本の全国各地で演奏されるのは、日本の風物詩にもなっている。さらに、第4楽章の合唱「歓喜の歌」は単独でも数多くの機会で取り上げられている。

「第九」は、日本だけでなく世界においてもその位置付けが高い。例えばEU(欧州連合)の統一性を象徴する楽曲として採択されている。第2次世界大戦終戦後のバイロイト音楽祭やベルリンの壁崩壊の記念コンサート等の節目となるイベントにおいても、「第九」が演奏されてきている。

「第九」の演奏会

年末の「第九」の演奏会は、クラシック音楽業界の関係者にとって、特別なものであり、その開催ができないということは、財政的にも非常に大きな打撃を受けることになるものと思われる。ただでさえ、新型コロナの影響で、クラシック音楽の演奏会の開催が各種の制約を受けて、これまで中止等せざるをえない状況にあった中で、年末の人気演目である「第九」の演奏会が中止になってしまうのは相当な痛手になるものと推測される。

「第九」は、オーケストラの編成も相対的に大きなものになるのに加えて、いうまでもないことだが、第4楽章における合唱団による歌唱が必要になってくる。これを感染対策のため、例えばソーシャル・ディスタンスを確保しながらリアルで行うことはかなり困難な技となる。10月からはクラシックコンサートも会場を満員にして開催することが認められることになったが、これはあくまでもオーケストラによる演奏を聴衆が静かに聴いているということを想定したものになっている。もちろん、「第九」の場合も、聴衆は静かに聴いていることになるが、何と言っても合唱がネックになってしまう。歌唱は通常の会話の10倍近い飛沫を飛ばすと言われているようだ。

スイスのジュネーブでは、ジョナサン・ノット指揮で、スイス・ロマンド管弦楽団による「第九」のリアル演奏が、6月にジュネーブ大劇場で開催されたようだ。これによれば、オーケストラは舞台だけでなく客席にも配置され、合唱団員は2階席等も含めて、劇場全体に配置して、リアルで演奏したという映像が流れていた。ただし、これはあくまでも無観客で行われていた。これも確かに1つの試みではあると思われるが、どこでも実施できるアプローチでもない。

一定規模の合唱団を確保しつつ、蜜にならないようなソーシャル・ディスタンスを確保するというような十分な感染対策を採りながら、観客も迎えての演奏ということになると、相当大規模なホール等での開催が必要になることになる。

結局、それでも「第九」を演奏しようとすれば、例えば、オーケストラや合唱団員全員のPCR検査を定期的に行って、全員が陰性であることを確認しつつ行うということが考えられることになる。状況は異なっているが、今回11月の日本公演のために、来日したウィーン・フィルハーモニー管弦楽団においては、6月から4日に一度の検査を実施しており、日本滞在中にも帯同の医師の下で自主的に検査を行うとの感染防止措置等を行っていくことで、来日が実現しているようである。

さらには、リアルではなく、(一部あるいは全ての)合唱団員がリモートで参加するということも考えられるが、これをライブで行うことは相当至難な業になるものと思われるし、また、そもそも演奏者(の全て)がリアルでないのに、観客を迎え入れるというのも考えにくい話になってしまう。

Withコロナ下での他の取組み

こうした中で、例えば、全日本合唱連盟は、これまで「合唱活動における新型コロナウイルス感染症拡大防止のためのガイドライン」を策定してきており、合唱活動における飛沫実証実験等も踏まえて、その改定を行う等の対応を行ってきている1

因みに、新国立劇場では、10月4日から、英国の作曲家ブリテンのオペラ「夏の夜の夢」が公演されており、私も見に行って来た。オペラも演目によっては、舞台に多数の歌手が集まって、合唱することになるが、こうした場面では演出の工夫がなされることになる、今回のオペラでも、例えば子供たちが演じる妖精たちによるそのような場面があったが、ソーシャル・ディスタンスを一定確保しながら行われていたように見えた。また、そのような場面の時間は、一定程度限定されたあまり長くないものであったといえるかもしれない。

これに比べると、「第九」の合唱は、最後の15~20分間程度の長い時間で歌われることになるが、通常は合唱団がオーケストラの背後の定められた位置にとどまって歌うことになることから、より工夫が求められることになる。

サントリー1万人の第九

その意味では、毎年大阪城ホールで開催されている「サントリー1万人の第九」がどのような対応を行っていくのかが大変注目されるところとなっていたものと思われる。大阪城ホールであれば、従来どおりのリアルで1万人の合唱団ということは難しいとしても、合唱団の人数を一定制限すれば、演奏は可能ということになるものと思われる。その場合に、1万人というコンセプトを尊重するのであれば、全員がリアルで参加するのではなく、一部はリモートでの参加ということになるのかもしれないと考えられてもいた。

これについて、「サントリー1万人の第九」のWebサイトによれば、2020年12月6日(日)に開催を予定しているが、「10月末の状況と感染学の専門家による医学的検証を照らし合わせた結果次第で方針を発表」するとの取組みが公表されていた。さらには「どんな事態になっていくとしても大阪城ホールに皆さんの歌声を響かせられるよう『奇跡の「第4楽章」リモート合唱企画』を計画(10月開始予定)」としていた。

これを受けて、2020年10月29日に、事務局が「今後の取組みについて」2として、「感染症対策が専門の医学博士のご指導のもと大阪城ホールにお集まりいただける人数について実証実験、検討を繰り返した結果、本日今年度の公演として大阪城ホールにお集まりいただく人数は合唱団1,000人、観客1,000人の計2,000人の皆様とさせていただき、合唱団のご応募受付を開始させていただくことにいたしました。」との公表を行った。感染症対策専門の医学博士2人によって、アリーナ内の空調、換気システムの確認、アリーナ及びスタンド席の気流の確認を行った結果、通常とは異なる空調、寒気システムの稼働によってホール天井への上昇気流を作ることで安全を確保できるとし、これらに基づいて、安全な配置、参加可能な人数を決定したとしている。

このWebサイトからの情報によれば、今年度の「第九」の演奏は「第4楽章」のみとし、合唱はクリアマスクと(飛沫を上方に流すための)首掛け扇風機を使用した状態で行うとしている。

さらに、当日の運営においては、各種の感染症予防対策が取られることになる。

最後に

「サントリー1万人の第九」だけでなく、その他の団体もWithコロナ下での「第九」演奏の実現に向けて、各種の取組みを模索しつつ検討を重ねてきているようだ。その結果、多くの主要オーケストラが、10月下旬から、考えられうる感染症防止対策を行うことで、「第九」の公演を行う方針でチケットの発売を開始することを公表してきている。その中で、合唱団に対する具体的な感染症対策については、(このコラムの執筆時点(11月4日)では)「サントリー1万人の第九」のように必ずしも具体的な方策が示されているわけではないようだが、例えば、人数、位置等、合唱団やホール等と引き続き検討している旨等を公表してきている。

いずれにしても、ニューヨークのような欧米の主要都市のいくつかでは、オペラは言うに及ばす、オーケストラ活動ですら、中止せざるをえない状況に追い込まれている中で、日本におけるこうした状況は本当に驚くべきことだと思わざるを得ない。関係者の皆様の、何とか実現させたいとの熱い思いとご努力がひしひしと感じられ、本当にこれらの演奏会が大成功を収めることを心より願っている。

一方で、欧米の新型コロナウイルスの感染拡大状況をみると、日本においても感染拡大の第三波がやってきて、その結果として公演を中止せざるを得ない事態も想定されることになる。もちろん1人のファンとしては、何らかの形で、できるだけ多くの「第九」が演奏されていくことを望みたいが、決して無理をする必要はないと考えている。やはり、合唱団員を初めとする皆様の安全が最優先であることは言うまでもない。クラスターが発生したのでは、本当に取り返しのつかない結果になってしまう。仮に今回の公演が実現できない状況になったとしても、現在の関係者の公演実現に向けた取組みは決して無駄になるものではなく、今後の活動に生かされていくものだと思われる。その意味で、今後も慎重な対応がなされていくことを望みたいものである。

多くの人が、「第九」がBeforeコロナと同じようなスタイルで演奏される日がやってくることを心待ちにしているであろうが、その時には、クラシック音楽ファンの一人として、ベートーヴェンの「第九」を通じて、新たな感動を多くの人と共有できればと思っている。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

(2020年11月05日「研究員の眼」)

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