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年金税制の課題―「穴埋め型」の紹介

名古屋市立大学 経済学研究科 臼杵 政治
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ここで広く、公的年金を補完しうる私的年金制度を概括すると、事業主が掛け金を拠出する企業年金制度として厚生年金基金・確定給付企業年金などの確定給付型、企業型確定拠出年金がある。一方、個人が自ら掛け金を拠出する制度が個人型確定拠出年金(イデコ)である。右頁の表にこれらの制度数・加入者数の推移をまとめてみた(図表1)。
ところが総務省「労働力調査」により民間企業の雇用者数(除く役員)をみると、2002年の4,400万人から2019年の5,100万人に増加している。雇用者全体に対する企業年金加入者計(図表1の(A)列下参照)の割合が約1/2から1/3へ低下した計算になる。背景として、第1に退職給付会計の導入や運用環境悪化により、特に確定給付型の維持が難しくなったこと、第2に正規雇用者数はほぼ横ばいであったのに対し、退職一時金を含めた退職給付制度にカバーされていなかった非正規雇用者が増えたこと(2019年で2,200万人、2002年の1.5倍)、第3に確定拠出型でも事業主・加入者の運用商品選択手続きや投資教育などが普及の障害になったこと、がある。
上記のうち第3の点は時間の経過により解決するとしても、第1・第2は簡単には解決しない。つまり、老後準備の3つの柱の中で公的年金は無論、企業年金が果たしてきた役割も徐々に個人年金が担わざるを得ない状況にある。ここで問題になるのが私的年金の税制である。現在、税法上の扱いが4つの制度間で全て異なる。どれも掛け金には所得税が課されないものの、2つの確定給付型制度には拠出(給付)額の上限がないのに対し、確定拠出年金には企業型で最高月5.5万円、個人型には月額2.3 万円の上限があり、どちらも(他の)企業年金加入者は減額される。このため、事業主が企業年金制度を提供しているか否か、その制度で掛け金(給付)水準がどのくらいかにより、老後準備に利用できる非課税拠出枠が異なるという問題(不公平)が生じる。
解決策の1つが全国民に共通の非課税拠出枠を設け、確定給付・確定拠出を問わず事業主が企業年金に拠出した額をそこから控除し、枠の残額を自分で個人型確定拠出年金に拠出することを認める方法である。「穴埋め型」といわれるこの方法なら、事業主がどの制度を用意する、用意しないかとは関係なく、誰もが(拠出できる収入の多寡は別として)同じ非課税拠出枠を持つ1。
今後こうした制度の日本での導入を検討する上では、いくつか課題がある。第1が非課税拠出枠の水準、第2が運用時・支給時の課税、第3が途中引き出しの可否、である。第1の点については、厚生年金保険と合わせた望ましい老後準備の水準を考慮する必要がある。第2の点では老後準備を支援するため、運用収益への課税は繰り延べるべきであろう2。他方、支給時には退職所得控除など一時金課税とのバランスが問題になる。現役の間の退職一時金は(未使用分の繰越を認めた)拠出枠上限の範囲で所得控除を認め、引退時に支給される一時金は年金と公平に課税する方法が考えられる。第3の途中引き出しは住宅取得時など一定の場合にだけ認めてはどうか。
海外、例えばカナダには確定給付型の事業主掛金を一定の方法で各人の拠出額に換算し、拠出枠から控除する登録引退貯蓄制度(Registered Retirement Savings Plan)と呼ばれる仕組みがある。そこでは掛け金の非課税だけではなく、運用収益への課税繰り延べやある年に使い切れなかった拠出枠の繰り越し、住宅や教育のための制度からの借り入れ、などが認められている。こうした例も参考にしつつ、どのような形が日本に相応しいのか十分な検討を重ねるべきであろう。
1 10月現在、社会保障審議会企業年金・個人年金部会では、企業年金(確定給付・確定拠出)に総枠の拠出上限を設ける方法が議論されている。これが個人型を含めた共通上限になれば、穴埋め型に近づく可能性がある。
(2020年11月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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