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中国経済の現状と今後の見通し-景気対策は息切れ、輸出の先行きには暗雲、それでも回復の流れはしばらく止まらない

三尾 幸吉郎
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1.中国経済の概況

しかし、武漢の都市封鎖を4月8日に解除し経済活動を恐る恐る再開した4-6月期には成長率が同3.2%増に回復し、7-9月期も同4.9%増と2四半期連続で前年水準を上回り、20年1-9月累計では前年比0.7%増とプラスに転じた。コロナ禍が襲来する前(19年10-12月期)の実質GDPを基準=100として指数化したのが図表-1である。これを見ると、20年1-3月期に89.4まで落ち込んだあと、4-6月期には100.6と若干ながら基準を上回り、7-9月期には103.6と明らかに上回った。そして、新型コロナ前の成長トレンド(年率6%強)まであともう一歩のところまで漕ぎ着けた。
また、インフレ動向をみると、アフリカ豚熱(ASF)の影響で消費者物価は20年1月に前年比5.4%まで上昇率を高め、その後も食品価格が洪水で高止まりしたが、コロナ禍による需要減を背景に交通通信、居住、衣類などは下落、9月には食品・エネルギーを除くコア部分で同0.5%上昇、全体でも同1.7%上昇と、今年の抑制目標(3.5%前後)を下回る水準で推移している(図表-3)。
2.景気指標の動き
また、輸出(ドルベース)の動きを見ると、1-2月期に前年比17.1%減まで落ち込んだあと、農民工(農村からの出稼ぎ労働者)が職場復帰した4-6月期には前年並みまで持ち直し、輸出先である欧米先進国の経済活動が再開されるにつれて伸びを高めた(図表-6)。但し、欧州では再び経済活動の制限が強化されており、輸出の先行きには暗雲が垂れ込めてきている。
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
その他の注目指標の動きを見ると、まず“李克強指数”にも採用されていた電力消費量は、コロナ禍が深刻だった1-3月期に前年比6.5%減に落ち込んだあと、4-6月期には同3.9%増(推定)、7-9月期には同6.4%増(推定)と持ち直してきた(図表-7)。消費主体別に見ると、第2次産業は4-6月期に回復に転じ、第3次産業は7-9月期に回復に転じることとなった。なお、今回のコロナ禍では、第1次産業と世帯用の電力消費に対する影響は、相対的に小さかったようだ。
また、ヒトとモノの動きを示す道路利用状況を確認してみた(図表-8)。20年1月を基準=100としてその後の推移を見ると、ヒトの動きを示す道路旅客数は2月に15まで落ち込んだあと、9月には72まで回復してきたが、依然として基準を下回っている。他方、モノの動きを示す道路貨物量は2月に39まで落ち込んだあと、9月には162まで回復し基準を大きく上回ってきた。Withコロナ時代を迎えて非接触型の物流が求められる中で、ヒトは動かずモノを動かす流れとなったようだ。
2 自動車市場に関しては「図表でみる中国経済(自動車市場編)」(ニッセイ基礎研レター、2020-09-11)により詳細な説明がある
3.財政金融政策

コロナ禍に対し中国政府が取った財政面での施策としては、5月22日~28日に開催された第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第3回会議で、「積極的な財政政策はより積極的かつ効果的なものにする必要がある。今年の財政赤字の対GDP 比は3.6%以上とし、財政赤字の規模は前年度比1兆元増とするほか、感染症対策特別国債を1 兆元発行する」としたのに加えて、「今年は地方特別債を昨年より1 兆6000 億元増やして3 兆7500 億元」にするとし、20年の財政支出は19年よりも3兆6千億元(日本円換算約54兆円)上乗せしたことがある。その資金を調達すべく中央政府と地方政府が債券発行を増やしたため、20年1-9月期に増加した政府債務は6.8兆元(日本円換算で100兆円)と前年を大きく超えてきた(図表-11)。
そして、公共衛生インフラの建設や老朽化した集合住宅の改良工事を本格化するとともに、 “新型インフラ”の建設に財政資金を投じ、次世代情報ネットワークを発展させてデータセンターの構築や新エネルギー車の普及を後押しし、コロナ後の経済発展を支える礎を築こうと動き出している。これを受けて、上海市が23年までに2700億元、重慶市が22年までに3983億元、深圳市が25年までに4119億元の行動計画を打ち出すなど、各地方政府も相次いで具体策を発表した。

他方、金融政策に関して前述の全人代では、「穏健な金融政策はより柔軟かつ適度なものにする必要がある。預金準備率と金利の引き下げ、再貸付などの手段を総合的に活用し、通貨供給量(M2)・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が前年度の水準を明らかに上回るよう促す」とした。さらに、3月1日に開始した「疫情融資3」の期限を、6月30日までから21年3月末までに延長した(図表-12)。そして、通貨供給量・社会融資総量は増加ペースを速めていった。但し、8月には中国人民銀行が「通貨供給量と社会融資総量の合理的増加を維持する」と金融緩和方針をややトーンダウンし、金融監督当局(銀保監会)も不良債権に対する警戒感を強めた発言をしていることから、金融緩和は曲がり角を迎えたようである。
3 資金繰りに窮した中小零細企業を救済するために、元本償還・利払いを一時的に延期するモラトリアム措置のこと
4.今後の見通し

なお、国際通貨基金(IMF)が10月に公表した世界経済予測では、中国の成長率を前年比1.9%増としている。一方、コロナ禍が世界に与えた傷は深く、米国の成長率は前年比4.3%減、ドイツ同6.0%減、フランス同9.8%減、イタリア同10.6%減、英国同9.8%減、カナダ同7.1%減、日本も同5.3%減と主要先進国(G7)は軒並みマイナス成長に陥り、ブラジル同5.8%減、インド同10.3%減、ロシア同4.1%減と中国以外の主要新興国もマイナス成長に陥りそうだ。さらに、米国経済の回復の遅れとそれに伴う低金利の長期化を背景に、人民元の対ドル為替レートはじりじり上昇しており、コロナ禍を経た中国経済は世界でますます存在感を高めることになりそうだ。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年10月23日「Weekly エコノミスト・レター」)
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