2020年10月23日

中国経済の現状と今後の見通し-景気対策は息切れ、輸出の先行きには暗雲、それでも回復の流れはしばらく止まらない

経済研究部 上席研究員   三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)中国の国内総生産(GDP) 中国経済の回復が鮮明になってきた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が中国を襲った20年1-3月期、中国政府は経済よりも防疫を優先しコロナ禍の震源地となった武漢を都市封鎖(ロックダウン)するなど緊急措置を講じたため、成長率は実質で前年比6.8%減と、四半期毎の統計を遡れる92年以降初めてのマイナス成長を記録した。

しかし、武漢の都市封鎖を4月8日に解除し経済活動を恐る恐る再開した4-6月期には成長率が同3.2%増に回復し、7-9月期も同4.9%増と2四半期連続で前年水準を上回り、20年1-9月累計では前年比0.7%増とプラスに転じた。コロナ禍が襲来する前(19年10-12月期)の実質GDPを基準=100として指数化したのが図表-1である。これを見ると、20年1-3月期に89.4まで落ち込んだあと、4-6月期には100.6と若干ながら基準を上回り、7-9月期には103.6と明らかに上回った。そして、新型コロナ前の成長トレンド(年率6%強)まであともう一歩のところまで漕ぎ着けた。
国内総生産(GDP)の内訳を見ると(図表-2)、回復をけん引したのは情報通信・ソフトウェア・IT、製造業、建築業の3業種だった。特に情報通信・ソフトウェア・ITは、コロナ禍でテレワークやオンライン教育・医療などの需要が盛り上がり、1-3月期も前年比13.2%増とプラス成長を維持し、その後も4-6月期が同15.7%増、7-9月期が同18.8%増と高成長を続けている。他方、コロナ禍が与えた恐怖心やその対策として導入された厳しい外出規制で打撃を受けた宿泊飲食業や卸小売業は回復が遅れている。特に、宿泊飲食業は1-3月期に前年比35.3%減へ落ち込んだあとも、4-6月期が同18.0%減、7-9月期も同5.1%減とマイナス成長に落ち込んでいる。但し、コロナ禍が収束に向かうにつれて、コロナ禍に対する恐怖心はゆっくりだが着実に癒えてきている。

また、インフレ動向をみると、アフリカ豚熱(ASF)の影響で消費者物価は20年1月に前年比5.4%まで上昇率を高め、その後も食品価格が洪水で高止まりしたが、コロナ禍による需要減を背景に交通通信、居住、衣類などは下落、9月には食品・エネルギーを除くコア部分で同0.5%上昇、全体でも同1.7%上昇と、今年の抑制目標(3.5%前後)を下回る水準で推移している(図表-3)。
(図表-2)産業別の実質成長率/(図表-3)中国の消費者物価(品目別)

2.景気指標の動き

2.景気指標の動き

(図表-4)小売売上高の推移 1|需要面
個人消費の代表指標である小売売上高を見ると、1-2月期に前年比20.5%減まで落ち込んだあと、コロナ禍が収束に向かうにつれて持ち直し、9月には前年比3.3%増まで回復してきた。但し、20年度累計(1-9月期)では前年比7.2%減と、年度前半のマイナスを取り戻せずにいる。他方、コロナ禍による行動変容が追い風となったネット販売(商品とサービス)は、1-2月期に前年比3.0%減まで落ちたあと、6月には同21.3%増(推定1)とコロナ前の成長トレンド(19年は前年比16.5%増)を一時上回り、その後も前年比で2桁の伸びを続けている(図表-4)。
投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、1-2月期に前年比24.5%減まで落ち込んだあと、3月には同0.2%増(推定)と前年水準を回復し、6月には同13.1%増(推定)と2桁に乗せたものの、その後はやや伸び悩んでいる。特に、コロナ禍に対応するための景気対策で主役を担った国有・国有持ち株企業の固定資産投資に関しては、8月以降に鈍化しており、景気対策の効果には息切れ感がでてきている(図表-5)。一方、コロナ禍で落ち込んでいた民間企業の固定資産投資に関しては逆に底打ちの兆しがでてきており、8月以降は前年比で10%を超える伸びを示している。後述する“新型インフラ”の建設が呼び水となり、デジタルトランスフォーメーション(DX)をスピードアップするための準備が始まったものと見られる。

また、輸出(ドルベース)の動きを見ると、1-2月期に前年比17.1%減まで落ち込んだあと、農民工(農村からの出稼ぎ労働者)が職場復帰した4-6月期には前年並みまで持ち直し、輸出先である欧米先進国の経済活動が再開されるにつれて伸びを高めた(図表-6)。但し、欧州では再び経済活動の制限が強化されており、輸出の先行きには暗雲が垂れ込めてきている。
(図表-5)国有・国有持ち株企業の固定資産投資/(図表-6)輸出(ドルベース)の推移
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
2|その他の注目指標
その他の注目指標の動きを見ると、まず“李克強指数”にも採用されていた電力消費量は、コロナ禍が深刻だった1-3月期に前年比6.5%減に落ち込んだあと、4-6月期には同3.9%増(推定)、7-9月期には同6.4%増(推定)と持ち直してきた(図表-7)。消費主体別に見ると、第2次産業は4-6月期に回復に転じ、第3次産業は7-9月期に回復に転じることとなった。なお、今回のコロナ禍では、第1次産業と世帯用の電力消費に対する影響は、相対的に小さかったようだ。

また、ヒトとモノの動きを示す道路利用状況を確認してみた(図表-8)。20年1月を基準=100としてその後の推移を見ると、ヒトの動きを示す道路旅客数は2月に15まで落ち込んだあと、9月には72まで回復してきたが、依然として基準を下回っている。他方、モノの動きを示す道路貨物量は2月に39まで落ち込んだあと、9月には162まで回復し基準を大きく上回ってきた。Withコロナ時代を迎えて非接触型の物流が求められる中で、ヒトは動かずモノを動かす流れとなったようだ。
(図表-7)電力消費量(業種別)/(図表-8)中国の道路交通の状況
また、日本経済への影響が大きい自動車の販売状況を見ると、1-2月期に前年比41.9%減、3月に同43.2%減と落ち込んだあと、4月にはプラスに転じ、5月以降は前年比2桁増が続いている2

なお、「月次の景気指標を実質成長率に換算するとどの程度か」を見るために、工業生産、サービス業生産、建築業PMIを筆者が合成加工した「景気インデックス」を見ると、1月は前年比8.2%減、2月は同9.7%減と急減速したあと、4月には同0.6%増とプラスに転じ、その後は徐々に伸びを高めて、9月には同5.8%増とコロナ前の同6.3%増に迫るところまで回復している(図表-10)。
(図表-9)自動車販売の推移/(図表-10)景気インデックス
 
2 自動車市場に関しては「図表でみる中国経済(自動車市場編)」(ニッセイ基礎研レター、2020-09-11)により詳細な説明がある
 

3.財政金融政策

3.財政金融政策

(図表-11)政府債務高(中央+地方)の増加ペース(年度累計前年比) 1|財政政策
コロナ禍に対し中国政府が取った財政面での施策としては、5月22日~28日に開催された第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第3回会議で、「積極的な財政政策はより積極的かつ効果的なものにする必要がある。今年の財政赤字の対GDP 比は3.6%以上とし、財政赤字の規模は前年度比1兆元増とするほか、感染症対策特別国債を1 兆元発行する」としたのに加えて、「今年は地方特別債を昨年より1 兆6000 億元増やして3 兆7500 億元」にするとし、20年の財政支出は19年よりも3兆6千億元(日本円換算約54兆円)上乗せしたことがある。その資金を調達すべく中央政府と地方政府が債券発行を増やしたため、20年1-9月期に増加した政府債務は6.8兆元(日本円換算で100兆円)と前年を大きく超えてきた(図表-11)。

そして、公共衛生インフラの建設や老朽化した集合住宅の改良工事を本格化するとともに、 “新型インフラ”の建設に財政資金を投じ、次世代情報ネットワークを発展させてデータセンターの構築や新エネルギー車の普及を後押しし、コロナ後の経済発展を支える礎を築こうと動き出している。これを受けて、上海市が23年までに2700億元、重慶市が22年までに3983億元、深圳市が25年までに4119億元の行動計画を打ち出すなど、各地方政府も相次いで具体策を発表した。
(図表-12)中国の新型コロナ禍と金融支援 2|金融政策
他方、金融政策に関して前述の全人代では、「穏健な金融政策はより柔軟かつ適度なものにする必要がある。預金準備率と金利の引き下げ、再貸付などの手段を総合的に活用し、通貨供給量(M2)・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が前年度の水準を明らかに上回るよう促す」とした。さらに、3月1日に開始した「疫情融資3」の期限を、6月30日までから21年3月末までに延長した(図表-12)。そして、通貨供給量・社会融資総量は増加ペースを速めていった。但し、8月には中国人民銀行が「通貨供給量と社会融資総量の合理的増加を維持する」と金融緩和方針をややトーンダウンし、金融監督当局(銀保監会)も不良債権に対する警戒感を強めた発言をしていることから、金融緩和は曲がり角を迎えたようである。
 
3 資金繰りに窮した中小零細企業を救済するために、元本償還・利払いを一時的に延期するモラトリアム措置のこと
 

4.今後の見通し

4.今後の見通し

コロナ禍の“第2波”襲来を恐れた中国政府は、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保や検温励行・マスク着用といった防疫を維持しつつ、通行証明書となる”健康コード”を活用した管理手法を駆使しながら経済活動を正常化させる慎重な出口戦略を採用したものの、COVID-19のクラスター(感染者集団)は断続的な発生した。しかし、コロナ禍の“第2波”と言えるような爆発的感染には至らず、小振りな感染拡大に留まったため、中国経済はゆっくりとだが着実に持ち直し、7-9月期にはコロナ前の成長軌道まであともう一歩というところまで漕ぎ着けた。
(図表-13)COVID-19の新規確認症例 今後の展開を考えると、感染症が流行しやすいとされる冬場を迎えるため、コロナ禍の“第2波”襲来の有無が最大の論点ではある。しかし、その予想は極めて困難でもある。中国におけるCOVID-19の新規確認症例の推移を見ると、断続的にクラスターが発生してはいるものの、8月以降は国内感染がゼロの日がほとんどで、海外から流入する輸入症例も多くて50人程度である。なお、中国では確認症例から外される無症状感染者数を見ても400人前後に留まっている(図表-13)。そこで本稿では、今冬も断続的なクラスターに留まり“第2波”には至らないと前提している。他方、中国経済の現状を見ると、前述のように景気対策が息切れし、輸出の先行きには暗雲が垂れ込めてきている。しかし、コロナ禍に対する国民の恐怖心が徐々に薄れてきたため“リベンジ消費”の増加が期待できる。さらに、“新型インフラ”の建設を背景に、民間企業がそれに先立ってデジタル投資をスピードアップすると期待できるため、景気回復の流れはしばらく止まらないだろう。そして、20年10-12月期の成長率は7-9月期よりさらに加速して前年比6%前後、また21年1-3月期はコロナ禍で経済活動を停止した前年同期(20年1-3月期)の反動増もあって前年比12%超と極めて高い成長率になるだろう。

なお、国際通貨基金(IMF)が10月に公表した世界経済予測では、中国の成長率を前年比1.9%増としている。一方、コロナ禍が世界に与えた傷は深く、米国の成長率は前年比4.3%減、ドイツ同6.0%減、フランス同9.8%減、イタリア同10.6%減、英国同9.8%減、カナダ同7.1%減、日本も同5.3%減と主要先進国(G7)は軒並みマイナス成長に陥り、ブラジル同5.8%減、インド同10.3%減、ロシア同4.1%減と中国以外の主要新興国もマイナス成長に陥りそうだ。さらに、米国経済の回復の遅れとそれに伴う低金利の長期化を背景に、人民元の対ドル為替レートはじりじり上昇しており、コロナ禍を経た中国経済は世界でますます存在感を高めることになりそうだ。
 
 

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経済研究部   上席研究員

三尾 幸吉郎 (みお こうきちろう)

研究・専門分野
中国経済

(2020年10月23日「Weekly エコノミスト・レター」)

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【中国経済の現状と今後の見通し-景気対策は息切れ、輸出の先行きには暗雲、それでも回復の流れはしばらく止まらない】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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