2020年10月01日

日銀短観(9月調査)~企業の景況感は底入れしたが、回復の鈍さが目立つ、設備投資計画は異例の下方修正

経済研究部 上席エコノミスト   上野 剛志

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1.全体評価:景況感は底入れも、回復の鈍さが目立つ結果に

日銀短観9月調査では、内外での経済活動再開を受けて、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が▲27と前回6月調査から7ポイント上昇し、景況感の底入れが確認された。景況感の改善は11四半期ぶりとなる。また、大企業非製造業の業況判断D.I.も▲12と前回調査から5ポイント上昇している。ただし、それぞれのD.I.の水準は依然として新型コロナ拡大前を大幅に下回ることから、回復ペースの鈍さが目立つ結果と言える。
 
前回6月調査では、新型コロナ拡大に伴う緊急事態宣言発令によって5月にかけて景気が急激に落ち込んだことを受けて、企業規模や製造業・非製造業を問わず、景況感の大幅な悪化が確認されていた。

5月下旬に緊急事態宣言が解除され、以降経済活動が段階的に再開されたことで、前回調査以降、企業の経営環境は改善に転じている。また、世界に先駆けた中国経済の回復に加え、特別定額給付金の支給や「Go To トラベル キャンペーン」の開始といった政府の経済対策も一定の追い風になったとみられる。しかしながら、7月から8月にかけて新型コロナの国内新規感染者数が再び増加に転じたことで人々の外出自粛ムードが継続し、サービス消費の回復は抑制された。また、中国を除く海外経済の回復の遅れによって輸出環境には厳しさが残るほか、入国規制による訪日客の途絶が続いていることもあり、景気の回復ペースは全体として緩やかなものに留まっている。
 
今回、大企業製造業では、中国をはじめとする海外経済の回復に伴う輸出の持ち直しや、国内での経済活動再開に伴う製品需要の回復等を受けて景況感が底入れした。特に内外で需要が順調に回復している自動車の改善が目立つが、同産業は裾野が広いだけに、幅広い業種に好影響が波及したとみられる。ただし、依然として鉱工業生産の水準がコロナ前を大きく下回っていることに加え、設備投資の減少が重荷となり、景況感の水準は依然コロナ前を大幅に下回っている。

非製造業も、国内経済の再開に加え、「Go To トラベル キャンペーン」などの経済対策の効果も一定程度あって景況感が持ち直しに転じた。また、一部業種では巣ごもりやテレワークが追い風となっている。ただし、訪日客の途絶が続いているうえ、新型コロナの感染再拡大がサービス消費の回復に対する逆風となったことで、景況感の改善幅は製造業を下回っている。

中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回から1ポイント上昇の▲44、非製造業が4ポイント上昇の▲22となった。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感が底を打ったものの、従来、中小企業では危機後の景況感回復が大企業より遅れる傾向があり、今回の回復度合いも大企業を下回っている。
 
先行きの景況感については、全体としては改善が限定的となった。政府は経済活動と感染抑制の両立を図っているため、今後も需要喚起策の開始やイベント等の制限緩和が見込まれるものの、冬場に向けて新型コロナ感染の拡大への警戒が根強いうえ、訪日観光客の回復にも目途が立っていないためだ。

そうした中、製造業と非製造業とでは明暗が分かれている。製造業では中国をはじめとする海外需要を中心に需要の回復期待が台頭していること、産業の裾野が広い自動車が今後も増産計画を立てていることから、先行きの景況感に明確な改善がみられる。一方で、明確なけん引役を欠く非製造業では、先行きの景況感が大企業でほぼ横ばい、危機への対応力が限られる中堅・中小企業で悪化している。
 
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元の景況感は市場予想(QUICK集計▲23、当社予想は▲26)を下回った一方、先行きの景況感(QUICK集計▲18、当社予想は▲21)は市場予想を若干上回った。大企業非製造業については、足元(QUICK集計▲9、当社予想は▲12)、先行き(QUICK集計▲8、当社予想は▲9)ともに予想を下回った。
 
2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比2.7%減(前回調査時点では同0.8%減)へと下方修正された。例年、9月調査では、中小企業において計画が具体化してくることによって上方修正される傾向が強い。しかしながら、現在は新型コロナの感染拡大に伴って収益が大幅に悪化したことで投資余力が低下しているうえ、新型コロナの行方など事業環境の先行き不透明感も強い。このことから、企業の間で設備投資の見合わせや先送りの動きが広がり、前回調査に続いて、この時期としては異例の下方修正となっている。
 
ちなみに、今回の短観が当面の日銀金融政策に与える影響は限定的と考えられる。設備投資計画の下方修正は今後の懸念材料になるが、一方で企業の景況感は最悪期を脱したことが確認された。また、日銀は今回のコロナ禍において金融市場の安定と企業の資金繰り対応を優先課題としているが、企業の資金繰りも政府・日銀が矢継ぎ早に打ち出した政策の効果もあってやや改善しているためだ。

従って、日銀は、基本的に現行の金融政策を維持しつつ、時期を見計らって、企業の資金繰り支援に万全を期すことを目的として、「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」や「CP・社債買入れ」等の延長・拡充を行うと見込まれる。
 

2.業況判断D.I.

2.業況判断D.I.: 総じて持ち直しも、設備・対面サービスに弱さ

全規模全産業の業況判断D.I.は▲28(前回比3ポイント上昇)、先行きは▲27(現状比1ポイント上昇)となった。大企業について、製造・非製造業別の状況は以下のとおり。

(大企業)
大企業製造業の業況判断D.I.は▲27と前回調査から7ポイント上昇した。業種別では、全16業種中、上昇が11業種と低下の4業種を大幅に上回っている(横ばいが1業種)。

原油価格の回復が利益改善に繋がった石油・石炭(19ポイント上昇)をはじめ、内外需要が順調に回復している自動車(11ポイント上昇)、巣ごもり・テレワークが追い風となった電気機械(13ポイント上昇)、医療用機械を含む業務用機械(11ポイント上昇)などの改善が目立つ。一方、設備投資の減少が逆風となった生産用機械(6ポイント低下)、住宅着工減少が逆風となった木材・木製品(6ポイント低下)、工事延期や天候不順の悪影響を受けた窯業・土石(13ポイント低下)などは悪化した。

先行きについては、上昇が12業種と低下の3業種を大幅に上回り(横ばいが1業種)、全体では10ポイントの上昇となった。

内外需要の回復が見込まれる自動車(33ポイント上昇)、自動車向けの回復が見込まれる鉄鋼(30ポイント上昇)、非鉄金属(21ポイント上昇)の改善が目立つほか、足元で悪化していた生産用機械(25ポイント上昇)も中国需要への期待からか大幅な持ち直しがみられる。
 
大企業非製造業のD.I.は前回から5ポイント上昇の▲12となった。業種別では、全12業種中、上昇が10業種と低下の2業種を大きく上回っている。

巣ごもりやテレワーク、猛暑関連需要が発生した小売(16ポイント上昇)、テレワークによる通信増が追い風となった通信(13ポイント上昇)の改善が目立つ一方、設備投資の減少が逆風となった物品賃貸(17ポイント低下)の悪化が目立つ。空室率が上昇している不動産(1ポイント上昇)もほぼ横ばいに留まった。宿泊・飲食サービス(4ポイント上昇)、対個人サービス(5ポイント上昇)、運輸・郵便(5ポイント上昇)などのサービス業では改善がみられるものの、コロナ感染の再拡大によって自粛の動きが残っていることもあり、改善幅が限定的となった。

先行きについては、上昇が7業種と低下の5業種を上回り、全体では1ポイントの上昇となった。これまで自粛等の影響を強く受けていた対個人サービス(27ポイント上昇)や運輸・郵便(14ポイント上昇)、不動産(14ポイント上昇)などで2桁の上昇が見込まれている。一方、感染拡大への警戒とみられるが、小売り(18ポイント低下)や宿泊・飲食サービス(6ポイント上昇)の先行きは冴えない。また、通信(7ポイント低下)、情報サービス(11ポイント低下)も大きく低下しており、テレワークの持続性に対する警戒を反映している可能性がある。
(図表1) 業況判断DI
(図表2) 業況判断DI(大企業)
(図表3) 大企業と中小企業の差(全産業)

3.需給・価格判断

3.需給・価格判断:製造業の需給はやや改善、仕入価格上昇がマージンを圧迫

(需給判断:製造業の需給は内外ともに改善、非製造業は横ばい)
大企業製造業の国内製商品・サービス需給判断D.I.(需要超過-供給超過)は前回比4ポイント上昇、海外需給も前回から3ポイント上昇している。内外での経済活動再開の進展に伴って製品需要が回復したことが示されているが、景気回復ペースの鈍さを反映して上昇幅は限定的に留まっている。さらに、非製造業の国内製商品・サービス需給判断D.I.は2ポイント低下しており、供給回復に対する需要回復の遅れが示唆されている。

先行きの需給については、製造業の国内需給が5ポイントの上昇、海外需給も7ポイントの上昇が見込まれており、海外を中心に需要の回復が見込まれている。一方、非製造業の国内需給は1ポイントの上昇とほぼ横ばいが見込まれており、先行きの需要に対する慎重な見方が現れている。
(価格判断:販売価格は小動き、仕入価格は持ち直し)
大企業製造業の販売価格判断D.I. (上昇-下落)は前回から2ポイント上昇、非製造業は1ポイント上昇した。前回調査ではともにD.I.が低下していたが、足元では価格引き下げの動きが一服している模様。

一方、仕入価格判断D.I.は製造業では5ポイント上昇、非製造業では横ばいとなった。世界的な経済活動再開に伴う資源・エネルギー価格の持ち直し等が押し上げ圧力になったとみられる。製造業では、仕入価格D.I.の上昇幅が販売価格D.I.の上昇幅を上回った結果、差し引きであるマージンはやや悪化している。
 
販売価格判断D.I.の3ヵ月後の先行きは、大企業製造業で横ばい、非製造業で2ポイント上昇と小動きが見込まれている。需要のV字回復が見込まれていないため、企業による販売価格引き上げの見通しも立ちづらいようだ。一方、仕入価格判断D.I.の先行きは製造業、非製造業ともに4ポイントの上昇となっていることから、ともにマージンが悪化するとの見通しが示されている。
(図表4)製商品需給判断DI(大企業・製造業)・製商品需給判断DI(中小企業・製造業)/(図表5) 仕入・販売価格DI(大企業・製造業)・仕入・販売価格DI(中小企業・製造業)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

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