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2021年度に向けた保険・年金関係の税制改正要望の動き~例年よりひと月遅れ。先に各業界の要望を眺めてみた。

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1―はじめに~わが国における予算・税制の検討スケジュール
国の予算の策定は、例年であれば8月末ごろ、各省庁が財務省に概算要求を提出するところから始まる。予算は、税金等の使い道(=支出)であるが、様々な政策のなかで税制優遇措置を設けることによってより大きな政策効果を期待できるというものもあり、税制(=収入)のあり方についても財務省に同時に要望し、予算とセットで検討される。
ただし今年は、新型コロナウィルス感染症への対応が喫緊の課題である中で、現時点で来年度をすら予見することに限界があることに加えて、関係者の作業負担を減らす観点も踏まえ、令和3年度予算の概算要求の期限は1か月遅らせて、9月30日となった。
またその内容についても例年と異なり、概算要求の段階では具体的な予算額を決めることはせず、要求額は基本的に昨年度と同額としたうえで、新型コロナウィルス感染症への対応など緊要な経費については、別途所要の要望を行うことができるとするなど、仕組みや手続きをできる限り簡素なものとすることとなったようだ。
以上は、財務省の方針として、7月21日財務大臣から閣議で発言があったとのことである1。同時に、各省庁からの税制改正要望事項も、要望期限は9月30日まで遅らせることとなった。とはいえ、年金・医療などは高齢化等に伴い、毎年費用の自然増があるなど、全く同額というわけにはいかない項目もある。そういった調整は予算編成過程で検討することになっている。
予算の概算要求の段階では、各省庁は、ある程度自由な要求を行うわけだが、国会に提出される予算案が12月にまとまる(実質的には決定に近い)までの間に、各省庁と財務省との間で、担当者レベルから、必要とあらば大臣レベルでの折衝が行われ、通常ある程度削減されていく。
税制についても同様だが、最終的には予算・税制改正案は国会で議論されるものなので、途中で国会議員の動きが出てくる。10~11月頃から(現状では)自民党の税制調査会で議論がなされる中で、その年の争点が絞られてゆき、例年12月中旬に与党税制改正大綱がまとめられて、この時点で事実上翌年度の税制が決まることになる。その後1~3月頃には衆議院・参議院の予算委員会などで議論され通常は年度内に予算案が決定されることになる。
そうした行政、政治の動きの中で、産業界や同一職業団体など様々な団体が、夏頃から独自に税制改正要望を発表し始める。それらは、冊子にまとめられ、ホームページ上公表され、またそれぞれの監督官庁に説明を行ない、あるいは最近はよくわからないが、財務省に直接説明に行ったり、その業界に詳しい国会議員に説明に行ったり(いわゆる陳情)する。逆に、意見が異なる業界や団体があれば、議論を行うなどして味方を増やしたり、異なる立場の人にも理解を求めたりする。同じ要望で共闘できる団体があれば、情報交換を密にするなど、要望を実現するため様々な活動を行なってゆく2。
というわけで、税制全体の中ではほんの一部ではあるが、保険や年金に関わる部分における最近の動きを見ていきたいと思う。前述の通り、各省庁の要望はまだなので、現時点で公表された各業界の税制改正要望を見てみる。
1 「令和3年度予算の概算要求の具体的な方針について」(令和2年7月21日閣議 財務大臣発言要旨)
2 という活動のほんの端くれに筆者が実際にかかわったのはもう10年以上前の話であり、もしかしたら大きくやり方が変わった部分もあるかもしれない。
2―保険・年金関係の最新の税制改正要望事項
・生命保険業界3は、もちろん生命保険に関する税制を要望する。
・損害保険業界は、損害保険に関する全般というよりは、国の地震保険制度の充実と税制面での手当を要望している。
・年金に関しては、個人保険の税制については生命保険業界が主となるが、企業年金に関しては生命保険だけでなく、取り扱いに関わっている損害保険、信託銀行、銀行などの業界団体が要望する。また貯蓄や個人金融商品に関するものは、銀行協会、証券業協会などが要望を出している。
これらは税制優遇について自社の商品や制度をアピールできることで販売促進につなげるものもあれば、少し立場が変わって自社の法人税の優遇を求めるものもある。また、企業年金など制度面での様々な変化に対し、税法の規定が追い付くように整備を求める要望もあって、大きな政策というよりも、条文の文言修正などテクニカルな内容が多い項目もある。
3 要望を行っている正確な団体名は例えば「生命保険協会」であったり、「日本損害保険協会」であったりするが、その他にも要望する団体もありそうなので、ここでは漠然と業界と表現しておく。
・生命保険料控除制度を拡充すること4
現在の控除限度額は、一般の生命保険、医療介護、個人年金それぞれ所得税4万円(地方税2.8万円)であるが、さらにこれを5万円に引き上げることを要望している。
・死亡保険金の相続税非課税限度額の引き上げ
現在の税法では、死亡保険金は「みなし相続財産」として一定限度額以上は、相続税の課税対象になっている。現在500万円×法定相続人数が非課税限度であるが、それに配偶者分500万円と未成年の被扶養者法定相続人数×500万円を加算するよう要望している。
4 以降、個々の税制を説明し始めるとかなり手間なので、雰囲気だけ感じて頂きたい。また各業界は理論武装のため、説明に用いる表現一つ一つですら注意深く扱っている。あまり詳細な部分まで、簡単で比喩的な説明をすると、要望活動上迷惑がかかってしまう可能性がある。詳しくはそれぞれの要望書を参照頂きたい。
・地震保険料控除制度の充実
地震保険料控除制度は2007年に創設されたものであるが、さらにそれを拡充して地震保険の普及促進につなげるというものである。
・火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実
異常危険準備金は、自然災害などの突発的で多額の保険金支払に備えて損害保険会社が積立を義務付けられているものである。基本的に有税(損金不算入)であるが、一部免除される形になっているので、その免除枠を拡大して、近年の巨大災害の保険金などにも対応できるよう準備金の積み上げを行いやすくしようというものである。
・特別法人税を撤廃すること
特別法人税というのは、企業年金の積立金に係る運用益への課税であり、この低金利下で、さらに課税されると、ますます年金給付に充てられる運用益が減って年金としての魅力がなくなる。そういった事情からこれは1999年度以来「凍結」され、その期限が2~3年毎に延長されて来ていて(満額ではないにせよ、要望のひとつの成果ともいえる。)、実際に課税されたことは一度もない。だから実質的には大丈夫なのだが、何かのきっかけに運用環境がよくなり、そこから課税される(その分年金受取額が減る)制度が残っているのが「気持ち悪い」。だから早く制度そのものを撤廃してほしい、という要望である。(ただし、今の延長期限は2023年3月31日までなので、緊急性はない。)
・確定給付年金制度、確定拠出年金制度における様々な取り扱いの税制上の整備(主に優遇の拡充)
これらには様々なものがあり、業界団体によっても少しずつ内容が異なる。ただ全体としての方向は、優遇措置が幅広く認められる方向であり、公的年金とともに重要性が増している企業年金については要望が認められやすい状況のようだ。近年は医療保険や個人年金保険においても、国の制度とともにこうした民間の保険・共済も重要であるということで、拡充されてもおかしくはない流れにあるようにも見えるものが多い。ただしこれも同じく保険会社等が扱う企業年金の税制優遇とのバランスや国の税財源の取り合いとなる位置づけにあり、ある一つが拡充されたら別の優遇措置がなくなる(縮小する)という事態も起こりかねない。
また近年は、NISA(少額投資非課税制度)という、株式や投資信託などの金融商品からの利益に対する税金(約20%)が一定金額内で減免される制度が創設・拡充されてきた。現在は期限付き(最長2037年までなど)の制度だが、恒久化の要望もありうる。貯蓄や金融商品投資も老後資金の準備の一つとみれば、貯蓄型の保険、個人年金、企業年金と競合する制度で、ここでも課税の優遇による加入促進策が行われてきている。老後生活資金の重要性が高まってきているという意味では、それらどれにも税制優遇の追い風が吹いているということだが、その減税分は自分(業界?官庁?)で補うことを強調されると、逆に優遇廃止となるものもあるかもしれず、実質的には財源の奪い合いとなる。
3―おわりに
今回も、新型コロナ感染対策が喫緊の課題であるとされているので、大きな税制の変更はないと思われるが、要望内容や検討経緯は、現在の世相や課題を反映しているという面では興味深い。
(2020年09月24日「基礎研レター」)
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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