2020年09月04日

アベノミクスの円安株高効果は「追い風参考」~新政権に求められるもの

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. アベノミクスの成果として「円安・株高」が挙げられることが多い。実際、2012年末の第2次安倍政権発足後、円の対ドルレートは2割強下落し、株価は2.3倍強に上昇した。確かに、大規模な金融緩和が円安をもたらし、企業収益改善を通じて株高を促すというメカニズムは機能したと考えられる。ただし、第2次安倍政権の発足はちょうど世界や米国の景気が回復に転じた時期に当たり、このことが円安・株高に寄与した面がある。
     
  2. 実際、為替については他の主要通貨もこの間に対ドルで軒並み下落しており、米金融引き締めを受けたドル高という側面が強い。また、株価についても世界経済の回復を受けて世界的に株高局面であった。日本株の上昇率は相対的に高いものの、輸出企業が多いだけに世界経済の回復やドル高の追い風を受けやすかったことに加え、日銀が大量のETF買入れという異例の措置を続けてきた影響もある。つまり、アベノミクス開始後の円安・株高は世界・米国経済回復という強い追い風を受けた「追い風参考記録」ということだ。
     
  3. 今月発足する新政権の下でも世界経済などの外部環境が円相場や日本株に多大な影響を及ぼすことは変わらない。しかし、新政権の政策運営が海外投資家による日本株の評価を通じて株価を左右する面も当然ある。持続的な株価上昇のために新政権に求められることを考えた場合、まずはコロナの感染抑制と経済活動の高い次元での両立が挙げられる。今春以降の株価はコロナ抑制による先々の景気回復を期待先行で織り込んで上昇してきただけに、期待に応えることが求められる。そして、次に問われるのは経済政策だ。次期首相就任が確実視されている菅官房長官はアベノミクスの継承を明言しているが、第1の矢である金融緩和は副作用が目立ち、追加緩和の余地は殆ど残っていない。
     
  4. そうした中で重要になるのはやはり第3の矢である成長戦略だ。本来、日本経済の地力を高めるには成長戦略や構造改革によって生産性上昇を促すことが重要になる。各種岩盤規制の緩和や雇用の流動性向上、少子化対策、社会保障改革、デジタル化の推進などが求められる。成長の果実を賃上げという形で家計に届ける工夫も一層必要になる。本気の取り組みによって日本経済の地力を高めることが株価の持続的な上昇に通じる王道だろう。さらに、成長戦略を力強く主導するためには政権基盤の安定が必要になる。逆に政権基盤が不安定で、短期政権に終わるとの見方が強まれば、政策の持続性への不透明感が強まり、企業も投資家も投資がしにくくなってしまう。大幅な株安となった第1次安倍政権以降の短期政権連続期は、確かに世界経済が低迷するなど不利な外部環境であったが、政治の不安定さが株安の一因になっていたことも否定できない。
■目次

1.トピック: アベノミクスの円安株高効果は「追い風参考」
  ・安倍首相辞任を受けてアベノミクスの影響を評価
  ・円安ドル高はドル高の側面大
  ・株価上昇率は高いが、世界的に株高局面だった
  ・新政権に求められるもの
2.日銀金融政策(8月):コロナ対応特別オペ残高が30兆円を突破
  ・(日銀)現状維持(開催なし)
  ・今後の予想
3.金融市場(8月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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