2020年08月07日

高まる円高リスク~円高の背後にあるもの

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. ドル円は4月以降、安定した推移を辿ってきたが、7月下旬ににわかに円高ドル安に振れた。ただし、実効レートで見た場合には円高ではなく、ドル安の側面が強い。
     
  2. そして、ドル安の主因として注目されているのは米実質金利の著しい低下だ。実質金利の低下は一昨年秋から続いているもので最近始まったわけではないが、春以降、復興基金を材料にユーロがドル売りの受け皿として浮上しドル安の余地が拡大した。対ユーロでのドル安進行でドル安の色彩が強まりドルが独歩安状態になったが、その際にドル安の主因として米実質金利低下がクローズアップされたものと考えられる。
     
  3. 3月以降は予想物価上昇率の急上昇が実質金利の低下を促しているが、最近の予想物価の上昇は原油高や景気回復期待で説明できず、「悪い物価上昇に対する警戒感の高まり」の色彩を帯びている可能性が高い。米国の財政出動・金融緩和拡大は相対的にも大規模であることから、悪い形でのインフレに対する懸念が台頭し、予想物価の上昇に繋がっているとみられる。最近の円高ドル安は「悪いドル安」の側面が強いということになる。
     
  4. 今後も、この円高リスクは続くと見込まれる。新型コロナが終息しない限り、米国の経済活動正常化は望めず、米政府はさらなる財政出動を余儀なくされるためだ。FRBも大規模な金融緩和を続けざるを得ず、インフレ懸念のさらなる高まりによってドル安圧力が高まりかねない。特に当面は円高への警戒が必要な時間帯になる。8月には「円高のアノマリー」が存在し、9月にはFRBがフォワードガイダンスを強化することで予想物価が上昇する可能性があるためだ。いずれ新型コロナに有効なワクチンが普及すれば、米財政・金融政策の正常化が視野に入ってくることでドル高圧力が強まると予想しているが、その実現には不確実性が残るうえ、実現するとしてもまだ時間がかかりそうだ。
ドル円レート(年初来)
■目次

1.トピック: 高まる円高リスク~円高の背後にあるもの
  ・円高ドル安が再発
  ・実質金利の低下がドル安の主因に
  ・悪いドル安の側面あり
  ・円高リスクの持続性
2.日銀金融政策(7月):長期未達でも、2%目標の見直しを否定
  ・(日銀)現状維持
  ・今後の予想
3.金融市場(7月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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