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高齢者の25%は全面的な介助が必要(中国)-子女に重くのしかかる負担【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(43)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき
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はじめに
2020年7月8日、中国保険業協会と中国社会科学院人口・労働経済研究所は、『2018-2019年中国長期介護調査・研究報告』を発表した。
この報告は、介護保険制度の実験的な導入が始まったおよそ70都市のうち、23都市を抽出して、60歳以上の高齢者(中国では高齢者を60歳以上と定めている)、30-59歳の青年層に分けて調査を実施したものである1。報告内容は、大きく分けて、(1)高齢者の介助や介護の必要度と利用サービス、(2)青年層の介護に対する意識や備え、(3)調査内容の総括・提言などで構成されている。なお、この調査は、介助・介護サービスの状況について、全国規模で初めて実施されたものである。
1 有効回答件数は12,818件(高齢者:6,430件、青年層:6,388件)
1―高齢者の25%が全面的な介助が必要な状況
更に、ADLに加えてIADL(手段的日常生活動作、買い物や電話対応など日常生活においてより高度な動作がどれだけ独力でできるか)の評価法であるIALD尺度(Lawton&Brody)に基づくと、高齢者の25.4%、およそ4人に1人は、全面的な介助が必要ということが分かった3。2019年、中国では60歳以上の高齢者が2.5億人であることから考えると、およそ6,400万人がそれに該当すると推算される。
図表1より、高齢者の年齢分類別の介助必要度をみると、60-64歳は86.2%の高齢者が独力で生活ができるが、65歳以降その割合は減少、80歳以上となると2割以上が生活において大部分介助・全介助が必要となっている4。なお、現在の介助の必要度にかかわらず、最初に介助が必要と感じた年齢は概ね65歳としており、介護に備える上で65歳が1つの目安となることも分かった。
2 バーゼルインデックス10項目100点満点で採点し、介助の必要度を4つに分類している。10項目は、(1)食事、(2)入浴、(3)着替え、(4)整容、(5)排便コントロール、(6)排尿コントロール、(7)トイレ動作、(8)移乗、(9)歩行、(10)階段昇降。4分類は、(1)全自立(100点/他者の介助なしで生活できる)、(2)部分自立(61-99点/生活の一部において他者の介助が必要)、(3)大部分介助(41-60点/生活の大部分において他者の介助が必要)、(4)全介助(40点以下/生活全般において他者の介助が必要)。
3 IALD尺度(Lawton&Brody)は以下8項目、8点満点で採点され、4つに分類されている。8項目は、(1)電話対応、(2)買い物、(3)食事の準備、(4)家事、(5)洗濯、(6)移動、(7)服薬の管理、(8)財産の管理。4分類は、(1)全自立(8点)(2)部分自立(6-7点)、(3)大部分介助(3-5点)、(4)全介助(2点以下)。
4 大部分介助・全介助が必要な高齢者のうち、97%が少なくとも1種類以上の慢性疾患を抱えている。特に、心臓・脳の血管に関する疾病、がん、アルツハイマー型認知症、呼吸器系疾患、パーキンソン病などの疾病との関係性が顕著であることが挙げられている。
2―介護の担い手、経済的負担の担い手としてプレッシャーを抱える子女
図表2より、介助・介護の担い手について、中程度の高齢者の場合は、子女が40.0%、夫または妻のいずれかが22.1%、重度の高齢者の場合は、子女が35.4%、夫または妻のいずれかが18.4%となっている。専門機関のスタッフも中程度の場合は25.4%、重度の場合は20.0%とはなっているものの、子女や家族による介助・介護は全体の5~6割とおよそ半数を占めている。2016年以降、公的介護保険制度が段階的に整備されつつあるが、利用できるサービスや利用額が限定的であることからも、依然としてその多くを家族に頼った状況にあることがわかる。
そのような状況の中で、サービスの利用状況を見ると、1種類以上サービスを活用しているのは、中程度の高齢者の場合で93.0%、重度の高齢者の場合で95.4%であった。よく利用するサービス内容は、いずれも入浴、排泄、歩行であった。一方、自費による民間の介護サービスの利用については中程度、重度もいずれも3割程度にとどまっており、専門的なサポートが必要な重度の場合においても、利用がそれほど進んでいないことが分かった。
これらサービス費用の負担は、中程度、重度にかかわらず、いずれも子女がおよそ半分を担っている(中程度:48.0%、重度:49.1%)。ただし、中程度の場合は高齢者本人の負担も20.1%あるので、子女や本人を含め家族による負担がおよそ7割と重く、公的医療保険など公助による負担は16%ほどにとどまっている。一方、重度となると、子女の負担が49.1%とおよそ半分をしめるものの、高齢者本人の負担はなく、公的医療保険(19.4%)や政府の高齢者向け補助(12.0%)など公助も3割を占めている6。
いずれにしても、現況下では、公的介護保険制度が導入されていたとしても、子女が介助・介護の担い手のみならず、経済的な負担の多くも担っており、介護や介助に対するプレッシャーが大きいことがわかる。
5 (参考)2019年の可処分所得の平均値は30,733元(47.9万円)、中央値は26,523元(41.4万円)、中国中央人民政府「2019年全国居民人均支配収入」(2020年3月9日)
6 中国における公的介護保険制度の財源については、多くの地域で公的医療保険の保険料を積み立てたプール金から拠出している。
3―在宅での生活を希望する高齢者
4―青年層(30-59歳)の介護保険商品の加入率は8.2%
一方、介護における経済的負担を補填するものの1つとして、民間保険が挙げられる。調査報告では、民間の介護保険の加入率は青年層全体で8.2%と低く、医療(入院、通院)、重大疾病といったその他の保険商品と比較しても加入が進んでいない(図表5)。図表2に示した経済的負担において、民間保険は中程度の場合で1.4%、重度の場合でも0.9%しか貢献できていない点からも明らかである。青年層は、老後の生活の重要度や備えをする必要があるとは思いつつも、民間の介護保険への加入など実質的な準備はそれほど進んでいない状況がみえてくる。
7 中国銀行保険監督管理委員会「健康保険管理弁法」(2019年11月)
8 国信証券「健康険市場変革之年」(2020年5月10日)
(2020年08月18日「保険・年金フォーカス」)
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- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
片山 ゆきのレポート
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