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再度の新型コロナ緊急事態宣言は出るのか-今考えておくべき三つのこと
保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
まず、今現在が、法的にはどういう状態になっているのか、確認をしてみたい。2020年5月25日に緊急事態宣言の解除が行われたが、平常時に戻ったわけではない。新型インフルエンザ特措法に基づく「新型コロナウイルス感染症対策本部」は設置されたままである(特措法15条)。したがって、各都道府県にも対策本部が置かれ(特措法第23条)、都道府県対策本部長(知事)は、必要と認めるときは、公私の団体または個人に対して、その区域に係る新型コロナウイルス対策の実施に関し、必要な要請を行うことができる(特措法第24条第9項)。
したがって現段階においても、三密回避やテレワークの要請など、協力要請レベルのことは対策本部の議事を経て、知事が行うことができる。
それでは、緊急事態宣言を改めて出す意味とはどのようなものであろうか。緊急事態宣言は、「新型コロナウイルス感染症が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼしているとき、または、そのおそれがある」(特措法第32条、施行令第6条)場合に、期間、区域、概要を定めて発出される。定められた区域のある都道府県の知事は、緊急事態宣言が出されたときに、各種の要請・指示を行う権限を有する。
この要請・指示ができるものとして法が定めているのは、二つあり、一つはみだりに外出しないこと、つまり外出自粛の要請である(特措法第45条第1項)。もう一つは、多数の者が利用する施設を管理する者、または当該施設を使用して催し物を開催する者に対して、利用停止要請を行うこと(特措法第45条第2項)、および要請に従わない場合の停止指示である(同条第3項)。
ここからは、都道府県知事が外出自粛要請や、施設や催し物の閉鎖・停止要請・指示を出すためには、緊急事態宣言が出されることが前提とされているようにも読める1。
ただ、特措法による緊急事態宣言の発出は非常に重たい。緊急事態宣言により、包括的一般的な自粛要請、施設や催し物の閉鎖要請・指示が出され、事実上経済が停止してしまった経験を我々はすでにしてきている。現状で、政府は、新型コロナ感染拡大防止を行いたいが、経済の停止も避けたいというジレンマに陥っているように思える。しかも、緊急事態宣言を出して金銭的な事業者支援をするとしても、その財源は無限ではない。
そこでどのような方策が考えられるのかであるが、三つのものが考えられるであろう。
一つ目は、緊急事態宣言発出前の都道府県知事の協力要請範囲の拡充である。緊急事態宣言発出前の協力要請規定である特措法第24条第9項に関しては、特措法第26条により、必要事項を定めるべきことを都道府県の条例に委任している。
したがって、新型コロナ感染拡大の抑止策として、条例によって、たとえば、施設に対する感染予防のための措置の要求、感染予防のための措置を行わない施設における営業自粛要請等を定めることが考えられる。現在、都道府県知事による対策が脚光を浴びている。しかし、条例という議会の意思表示に基づくことで、知事からの要請の内容に一層の正当性を与えるものと思われる。
二つ目は、緊急事態宣言発出後の影響を限定的なものとすることである。まず、生活のためや通勤等を除く県境をまたがる移動自粛要請を、特措法の条文に盛り込むことが考えられる。ゴールデンウイークの際は、感染拡大地域以外を含む、全国に緊急事態宣言が出された。他方、知事が県境をまたがる移動自粛要請発言をしており、事実上の移動自粛要請が行われている。
しかし、移動の自由は非常に重要な国民の権利であり、自粛要請レベルであっても、明文の法的根拠は必要と考える。また、県境移動の自粛要請を正面から認めることにより、クラスターを追えている県にまで緊急事態宣言が出されることを回避できるのではないかと思われる。今回の帰省シーズンには間に合わないにせよ、少なくと臨時国会では何らかの対応ができないかと考える。
三つ目は、強弱をつけた各種要請・指示の発出である。たとえば、接待を伴う夜の飲食店を中心に、特に感染予防対策に協力しないところに強い閉鎖要請・指示を行い、感染予防対策を行うことで、クラスターの発生がない、あるいはまれである業種・事業者は営業継続を認めるとすることが考えられる。この点、特措法第45条第2項第3項は、閉鎖要請・指示を「できる」とする規定であることから、政府の対処方針で明確化すれば足り、法律の改正までは不要なのではないかと思われる。
条例を制定する、あるいは、緊急事態宣言を限定的に発令する、および、緊急事態宣言下における要請・指示を柔軟化するという三つの方策により、医療崩壊を招かない適切なタイミングでの対応が適切になされることが重要と考える。
1 この点、政府は基本的対処方針で、まず第24条第9項の協力要請を行い、従わない場合は第45条第2項の要請、さらに同条第3項の指示にするとしており、第24条第9項の要請可能範囲が限定されるという考えは取っていないように思われる。
(2020年08月04日「研究員の眼」)
03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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