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「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2020年)~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえた市場見通し

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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4. 仙台都心部で進む再開発
仙台市は、同プロジェクトの助成制度を活用した第一号案件として、「(仮称)NTT仙台中央ビル」の開発を指定した。2017年に閉鎖した「仙台中央ビル」を、19階建てのオフィスビル(延床面積約4万m2)に建替える計画が検討されており、2023年に竣工予定である2。
また、仙台市は同プロジェクトの一環として、JR仙台駅西口の青葉通の一部区間を、屋外広場に整備することを検討している。この屋外広場の整備は、青葉通沿道の「旧さくら野百貨店仙台店」や「GSビル跡地」の再開発と連動して行う計画である3。
「旧さくら野百貨店仙台店」跡地については、「ドン・キホーテ」などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが開発を検討している。同社が発表した「(仮称)さくら野百貨店跡地開発計画」によると、オフィスビルとホテル2棟を建設し、低層階を商業施設でつなげる予定であり、建物の総延床面積は約11万m2になるとのことである。2021年秋に再開発に向けた準備組合を設立、着工は2024年度、竣工は2027年度を予定である4。
また、「GSビル跡地」では、隣接する商業施設「EDEN(エデン)」との一体的な再開発を検討されている。ただし、「EDEN」を運営するオリックスの関連会社は、入居テナントとの契約期限を2020年1月末から2年間延長していることから、本格的な再開発は2022年以降になる見通しである5。
前述の施策は、「都市再生緊急整備地域6」(仙台駅西・一番町地域)が対象地域になっているが、仙台市は、「都市再生緊急整備地域」の拡大を、2020年4月に内閣府に申し出を行った(図表-15)。これらの区域が指定された場合、「都市再生緊急整備地域」の面積は、現行の約79haから約186haへと約2倍に拡大する。
また、仙台市は、東北地方初となる「特定都市再生緊急整備地域7」の指定についても申請した。「特定都市再生緊急整備地域」では国際水準のオフィスやハイクラスホテルなどを誘致し、都市の国際競争力を高める開発を誘導する考えだ8。
「せんだい都心再構築プロジェクト」の適用範囲や国による支援等の対象区域が拡大することで、仙台中心部での再開発が更に進展する可能性がある。
2 河北新報「仙台市「都心再構築プロジェクト」 第1号にNTT中央ビル」(2020年4月8日)
3 河北新報「仙台駅西口の青葉通を広場化 市が検討、車両通行止め緑地に」(2020年1月14日)
4 日本経済新聞 電子版「仙台の旧さくら野百貨店、パンパシHDが再開発へ」(2020年3月20日)
5 河北新報「仙台駅前「EDEN」テナント契約を2年延長 GSビル跡地再開発は22年以降か」(2019年8月3日)
6 都市再生特別措置法に基づき、緊急かつ重点的に市街地の整備を推進すべき地域として国が指定する地域。税制・金融支援や、土地利用規制を緩和する都市計画の提案などの特例を受けることができる。
7 「都市再生緊急整備地域」のうち、緊急かつ重点的に市街地の整備を推進することが都市の国際競争力の強化を図る上で特に有効な地域として国が指定する地域。都市再生緊急整備地域の特例に加え、財政支援などの支援を受けることができる。
8 河北新報「都市再生緊急整備地域 仙台市がエリア拡大を申請」(2020年4月15日)
5. 仙台オフィス市場の見通し
仙台では、2013年以降、オフィスの新規供給量は、年間3,000坪を上回ることはなく、低水準の供給が続いている。2019年も大規模ビルの竣工はなかった(図表-19)。総ストックに占める過去5年間の新規供給面積は0.8%と、全国主要都市の中で、最も低い水準にある(図表-20)。
2020年以降は、大型ビルの竣工が計画されている。2020年は、「仙台花京院テラス」が1月に満床で開業し、その後も「仙台宮城野ビル」や「新仙台ビルディング」等が竣工予定である。また、2021年は「(仮)仙台駅東口オフィス」や「ミレーネT仙台ビル」等が竣工予定である。
新規供給量は、2020年に約3,800坪、2021年に約6,500坪となる見通しである(図表-19)。ただし、今後3年間(2020年~2022年)の新規供給量が総ストックに占める割合は2.2%と、都心5区(5.1%)の半分以下に留まっている(図表-21)。
仙台市の成約賃料は、空室率の改善を背景に上昇基調で推移している。2019年の成約賃料は前年比+9.7%上昇し、ファンドバブル期のピーク水準(2006年)を上回った(図表-22)。
昨年10月に公表した経済見通し9に基づき予測した場合、新規供給の再開に伴い、空室率が現在の水準から緩やかに上昇、成約賃料は弱含みで推移し、2019年の賃料を100とした場合、2024年の賃料は97となる。
しかし、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて、雇用環境は急速に悪化しており、これまで増加してきた就業者数は今後、減少に向かうだろう。設備投資の縮小を受けて、オフィス環境改善を目的とした移転の動きがひとまず鈍化する見込みだ。また、人口動態からみても、仙台市のオフィスワーカー数が大幅に増加する可能性は低いと考えられ、仙台のオフィス需要は当面弱含むと考えられる。
コロナウィルスの感染拡大が及ぼす影響を考慮10した仙台の成約賃料は、2019年の賃料を100とした場合、2020年は92へと下落する見通しである。その後は、経済の回復とともに、一旦上向くものの、2022年から2024年にかけて、横這い圏で推移し、2024年は95になると予想する。
オフィス需要は弱含むものの、新規供給量が高水準ではないことから、賃料の下落率は5年間で▲5%下落に留まる見通しである。ただし、仙台市では、「せんだい都心再構築プロジェクト」を背景に、「(仮称)NTT仙台中央ビル」を皮切りにして、複数の開発計画が立ち上がっており、その動向次第では、需給環境が悪化する可能性がある。長期的に仙台オフィス市場を見通す上で、コロナウィルス感染症に対する経済対策や企業支援等の状況とともに、官主導による中心部再開発の動向にも注視していきたい。
9 ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2019~2029年度)」(2019.10.15)Weeklyエコノミストレター、ニッセイ基礎研究所。
10 斎藤太郎「2020・2021 年度経済見通し-20 年1-3 月期GDP2 次速報後改定」(2020.6.8)Weeklyエコノミストレター、ニッセイ基礎研究所などを基に経済見通しを設定。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年07月15日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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